「スロバキアかぁ。聞いたことあるけど……どこにあるんだろう?」
6年前の夏、インターネットで世界地図からスロバキアを探した日のことを今でもよく覚えています。スロバキアがヨーロッパだということも、スロバキア語が存在するということも、このとき初めて知りました。
その2週間後、大きなトランクを2つ抱え、私はスロバキアへ飛び発ちました。
スロバキアとは全く縁のなかった私がバレリーナとしてスロバキアで働くことになった経緯とスロバキアの魅力をお話ししたいと思います。
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スロバキアに出会うまでの経緯
17歳でロシアへバレエ留学
幼い頃からクラシックバレエ一筋の生活をしてきた私の夢は、世界で活躍するバレリーナになることでした。
高校3年生の夏、卒業まで半年を残して中退し、世界でもトップクラスのバレエ学校であるロシア・サンクトペテルブルグの名門ワガノワバレエ学校へ留学。
2年間の留学を経て、私はロシアのバレエにすっかり魅了されました。日本に帰りたいという思いは一切なく、ロシアでの就職を決心します。
そして、ロシア北西にある小さな町、ペトロザボーツクのバレエ団からソリストとしての契約のオファーを頂き、2年間務めました。
ロシア在住4年、環境を変えることを決意
幼い頃からの夢だったバレリーナになることができ、しかも憧れのロシアで働けるなんて、初めのうちは最高に幸せでした。でも、ロシアに長くいるうちに、「他の国で働いてみたい。ロシアだけに留まっていたくない」という思いが強くなります。
決心した私は退職届を出し、いったん日本に帰って次の就職先を探すことにしました。そして働くことになったのがスロバキアだったのです。
なぜスロバキア(コシツェ)を選んだのか
現在住むスロバキアで知り合う人には、どうしてスロバキアに来たのと聞かれます。なぜ私が今、スロバキアにいるのか。それは「他に選択肢がなかったから」です。
ロシアから日本に帰国し、2ヶ月半にわたって世界中のバレエ団にメール交渉しましたが、どこからも返事がありませんでした。途方に暮れていたときに届いた1通のメールが、スロバキア第二の都市コシツェからだったのです。
未知の国との出会い
当時の私にとって、スロバキアは社会の授業で国名を覚えたくらいで、どこにあるかも知らない、自分にとって全く縁のない国でした。コシツェなんて名前も、聞いたことすらありませんでした。
すぐにネットでスロバキアについて調べ、スロバキアがヨーロッパにあること、スロバキア語が存在することを初めて知ります。
こうして私は21歳でスロバキアに出会い、もう6年在住しています。
スロバキアってどんな国?
スロバキアはヨーロッパの中心にある人口540万人ほどの小さな国です。
日本で知り合いに「スロバキアで働いている」と言うと、多くの人に「あー、チェコスロバキアね」と言われます。1992年までチェコスロバキアという名でヨーロッパに存在したので、未だにそれが多くの人の記憶に残っているのですね。
公用語はスロバキア語ですが、5つの国と隣接しているため、チェコ語・ハンガリー語・ウクライナ語・ポーランド語も耳にします。
古い街並みと豊かな自然
スロバキアの街並みは、中世ヨーロッパの雰囲気がそのまま残っており、歴史を感じさせる建物が多く見られます。
また、農業国なだけあって、本当に自然がきれい。車で少し郊外に出ると、広い空、どこまでも広がる緑の草原、牛や羊の群れ。なんだか時間がゆっくり流れているような気持ちになります。
郊外の一軒家に住む私の友達は、家の庭でトマトやきゅうりなどの野菜を栽培したり、ニワトリを飼い毎朝卵を拾いに行ったりと、とてもBIOな生活をしています。
小さな国ですが、世界文化遺産4件、世界自然遺産2件が存在し(2018年現在)、豊かな大自然と古きヨーロッパの魅力が詰まっています。
のんびりした時間が流れるコシツェ
私の住むコシツェは、首都ブラチスラバから車で5時間ほど、スロバキア東部にある第二の街です。
しかし、大きなショッピングセンターは3つだけで地下鉄もありません。「不便じゃないの?退屈しない?」とよく聞かれます。でも、慣れちゃいました。退屈もしません。
こちらの生活リズムに慣れてしまえば、私はなんだかんだこんな田舎暮らしが好きです。日本に比べると、時間に縛られている感覚が本当にありません。
スロバキアでの働き方
一般のオフィスなどで定められた標準労働時間は1日7時間半から8時間、土日休みの週5日間勤務です。32歳以下の人は年間で4週間、33歳以上の人は5週間の有給休暇が付与されます。
スロバキアで一般就職した人は、63歳で定年となり年金生活が始まります。
バレエダンサーは例外で、22シーズン(22年間)劇場で踊ると定年退職となります。例えば、20歳で劇場に入った人は、42歳で定年退職ということです。
スロバキアでの年金生活は決して裕福ではなく、年金を受給しながら働き続ける人も多くなっています。
バレリーナに土日はなし
私の場合は例外の職業なので、土曜、日曜関係なく舞台がある日は出勤です。1日の拘束時間は大体8〜12時間です。
私は劇場でソリストとして雇われているので、他の団員よりも多くのリハーサルが毎日あります。スケジュールによっては1日に3作品のリハーサルをこなすこともあります。
日曜は本来、唯一の休みの日ですが、臨時でリハーサルが入り休みがなくなることもよくあります。
スロバキアでバレリーナとして働く私の1日のスケジュール
6:00 起床
日によって違いますが、大体の起床時間は朝6時です。
朝10時の舞台がある日は、本番前にウォームアップやメイク・ヘアメイクを済ませなければいけないので、5時前には起床します。
朝食
朝食は軽めに取ります。お腹に食べ物がある状態だと体を動かすのが苦しいため、オートミールやヨーグルトなど栄養価の高いものを少し食べます。
ランニング&水泳
夏には週に2〜3回、早朝にランニング30分、プールでの水泳を30分します。バレリーナに欠かせない体力づくり・体型維持のためです。冬は水泳はしませんが、ランニングはできる限り続けます。
8:00 劇場へ出勤、筋トレ&柔軟体操
レッスンが11時からなので、それに間に合えば出勤時間はもっと遅くていいのですが、私はゆっくり時間を取ってしっかりとレッスン前の運動をしたいので、早めに出勤し自分で決めたウォームアップ運動をします。
11:00〜12:00 レッスン
バレエ団員全員揃ってクラスレッスンを受けます。ダンサー皆でその日のリハーサルに向けて体のウォームアップをするために行われます。
まずはバーにつかまりバレエの基本的な動きをする、いわば準備体操のようなバーレッスンから始まります。
20分ほどバーレッスンを行った後はセンターレッスン。フロアの真ん中で、バーレッスンの要素をバーなしで行います。それに加えて、回転やジャンプなど難しいテクニックの練習もします。
1時間のレッスンでリハーサルのできる状態に体を準備します。
12:15〜14:00 コール・ド・バレエ(群舞)のリハーサル
レッスンの後は、まずコール・ド・バレエのリハーサルが行われます。作品によってハーサル内容は変わります。
私はソリストなので、コール・ド・バレエのリハーサルに参加することはあまり多くないですが、作品によっては一緒にリハーサルを行います。
昼食
昼食は食べないことがほとんどです。リハーサルスケジュールにもよりますが、ほぼ毎日、夕方までリハーサルが続くため、ランチに行くことはあまりありません。お腹が空いたら、リハーサルの合間にフルーツやサラダなどをつまみます。
14:00〜17:00 ソリストのリハーサル
ここでソロのリハーサルをします。「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「ラ・バヤデール」などたくさんのレパートリーの中から、間近の舞台の作品を練習します。ほとんどの場合が男性パートナーと一緒に行います。
19:00 舞台本番
毎日ではないですが、私の所属する劇場では週に3〜4作品の舞台があります。19時開演で、長い作品だと終わるのが21時半すぎになります。
帰宅
舞台がある日は、遅くて22時過ぎの帰宅になることもあります。舞台がない日はリハーサルが終わればその日の勤務は終了で、18時くらいには帰宅します。
夕食
帰宅時間が遅くなることが多いので、時間のある日に作り置きしておいて、帰ってきたら温めて食べられるようにしています。
スロバキア(コシツェ)で仕事をしてよかった点
通勤に時間とお金があまりかからない
通勤のための時間と費用が本当にかかりません。現在のマンションに引っ越す前は歩いて15分で劇場まで行けました。今住んでいるところからも車で10分かバスで20分ほどです。
日本のサラリーマンのように、毎朝満員電車で1時間以上もかけて出勤しなくていいことは、小さい街ならではのメリットだと思います。
週末や連休にヨーロッパ各国を旅行できる
先にも触れましたが、スロバキアはチェコ、ポーランド、ウクライナ、ハンガリー、オーストリアの5つの国と隣接しているため、簡単に他の国に遊びに行けます。
私の住んでいるコシツェからは、車で20分ほどでハンガリーへ、1時間ほどでポーランドやウクライナへ行くことができます。また首都ブラチスラバからは、車で30分ほどでオーストリアやハンガリーとの国境を越えられます。
西ヨーロッパであれば飛行機で2時間で行けてしまうので、週末だけでも気楽に旅行に出かけられるんです。
夏の休暇が長い
夏休みは長く取るのが一般的です。私の働く劇場では毎年、7月から8月半ばまで約1ヶ月半の休暇があります。休暇の間も、少なくはなりますがちゃんとお給料も入ります。
ヨーロッパの人は、夏のバカンスは思いっきり休み楽しもうと考えます。私にとっても夏の休暇は唯一、日本に帰れるときので、うれしい限りです。
スロバキアは私にとって第二の故郷
スロバキアがどこにあるかも知らなかった私が、ここに来てもう6年経ちました。今ではスロバキアが大好きで、私にとっての第二の故郷となっています。
6年前の私には、こんなにも自分がスロバキアに馴染むことができるなんて想像もできませんでした。
外国人の私を快く受け入れてくれた
スロバキアに慣れるための時間は、私にはそれほど必要ありませんでした。前に住んでいたロシアに比べると、断然住み心地がよく、治安もいいです。
スロバキア、コシツェには日本人がほぼいませんが、スロバキアの人たちは日本に対してとても良い印象を持っています。私が日本人というだけで、とても温かく接してくれることがよくあります。
スロバキア語が分からなかったときはいろいろと不便でしたが、多くの人が英語をしゃべれるので、ときには英語で話したりもしました。
例え言葉が通じなくても、受け入れようと、そして分かり合おうとしてくれる優しさがスロバキアの人にはあります。
辛いときに癒しをくれるもの
スロバキアの空が好きです。同じ空でも、なんだか日本より広くて近くにあるように感じます。
また、スロバキア料理の「ブリンゾヴェーのハルシュキ」が大好きです。柔らかいニョッキ(ジャガイモ団子)に、クリーミーで酸味のあるブリンザという羊のチーズを和え、ベーコンをのせて食べます。スロバキアの最も代表的な料理です。
レシピを調べて自分で作れるようになりました。スロバキア人の彼にも大好評です。
辛いことがあったときには、スロバキアの広大な自然とおいしい料理、温かい人々が、私を癒し助けてくれます。
まとめ~勇気を持って決断すれば世界が変わる
一か八かで試してみるのはとても勇気がいります。でも、たった1つの決断でこんなにも新しい世界が広がることを私は学びました。
海外で働いて、たくさんの人や文化と触れ合い、良いことも悪いことも全てが今の私のためになっていると思います。そして、一度日本を出てみると、日本の素晴らしさを改めて実感することができます。
転職は勇気がいること。ましてや海外となれば不安ばかりで、なかなか決心できない人が多いのではないでしょうか。
でも、人は追い詰められると思った以上に頑張れるものです。私も全く縁のなかったスロバキアにダメ元で来てみて、想像以上に世界が変わりました。少しでも海外で働きたいと考えている方は、ぜひトライしてみるべきだと思います!
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