オーストラリアは、人件費が高い、つまり働く人のお給料が高い国と言われています。
では、実際にオーストラリアで働いたら、どの職種でどの程度の収入があるのでしょう。そして諸手当やボーナスなど、日本と同じような給与制度が導入されているのでしょうか。
収入に対して、月々の支出は何がどのくらいかかり、日本とはどのように社会福祉制度が違うのでしょうか。もし外国で働きたいと思ったら、このようなことを行く前にイメージして、準備しておくことはとても大切です。
仕事を選ぶ際にも、その収入でどの位のレベルの生活が可能か、を考えなければならないからです。
今回はオーストラリア、ビクトリア州メルボルンで、事務職として働いた私のお給料事情と、海外で生きていくうえで避けてとおれない、税金や、生活の基礎的な諸費用がどれほどかかるのかを、日本との給与制度・税率・医療制度の違いとともにお伝えします。
1オーストラリア・ドル=約83円
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海外で働く事務職の基本給
私は事務職、中でも秘書として日本でのキャリアが長くありましたが、オーストラリアでは残念ながらその経験は評価の対象とはなりませんでした。
そのため、基本給は経験がほとんどない人と同じ3万ドル台から始まり、10年近く後に、やっと5万ドル台になりました。
なぜ私の事務職としての長いキャリアが考慮されなかったか、という理由は2つあったと思います。
事務職に対する考え方
期待する内容の違い
1つ目は、事務職というものに対する期待内容の違いです。
日本での事務職は、いい意味で「何でも屋さん」ですが、オーストラリアでは、それは「何でもできるかもしれないけれど、これと言った特技が無い」とみなされてしまう傾向があるようでした。
日本での経験が正しく伝わらない
2つ目は「日本の○○○社でXXXをしました」と言っても、オーストラリアでは、その会社名も規模も、そして仕事内容の精度も全くわからないため、「とりあえず事務職はできる」程度にしか解釈されなかったことです。
そして、1度給料が決まってしまうと、なかなか昇給は難しく、小刻みにしか上がりません。それが嫌だったら転職する、そういう社会でした。私も転職しようとオーストラリアにいる間中、応募し続けましたが全て空振り。
最後まで同じ会社で働き続けました。後半になって、日本企業との大型プロジェクトの現地側まとめ役となったことで、お給料があがったのは嬉しい驚きでした。
海外で事務職として働くとボーナスも手当てもない
日本の正社員は、月給に加えて「賞与」と呼ばれるボーナスがありますね。
その年の会社全体の営業成績や、個人の成績によって変動しますが、だいたい1年間で月給の4〜6ヶ月分の支給が多いようです。
そして通勤手当、また会社によっては扶養手当や児童手当、住宅費の補助といった手当があります。
ところが、オーストラリアには、基本的にそれら「手当」と呼ばれる部分の支給は一切ありません。
業務成績によって、管理職以上にボーナスが出る職場もありますが、それも月給の1ヶ月分など、そんなに多くはありません。
ですから、会社からいただくお金は、求人広告またはエージェントから知らされた年収のみです。当たり前のように定期券代をもらっていた、日本の職場が恋しかったことは言うまでもありません。
また、日本では労働基準法に定められている「職場の定期健診」もオーストラリアでは基本的にありません。大きな会社で、自主的に健康診断制度を設けているところはありますが、日本のように、全ての会社に義務付けられてはいません。
ある時、日本でも働いたことがある同僚に「ねえ、オーストラリア人は健康診断とかどうしているの?」と、聞きました。
すると、
「健康診断?日本みたいな、職場で受けたりするのとか、人間ドックみたいなの?ないねぇ。」
「えっ、じゃあどうやって健康管理するのよ」
「それが問題なんだけど、オーストラリアには予防医学という発想がないんだよ。だから『なんか変だな』って自覚症状がでてから、病院へ行くんだ。それで行ってみたら手遅れってことが多いんだよ」
と、教えてもらいました。
日本の労働者は、手当や福利厚生の面からは、世界的には恵まれているんだ、とわかりました。
海外で事務職として働くと税率が高い
3万から5万ドルの給与、というと体感価格で300万円代から500万円代になります。
正社員で、中程度の事務職としては、まあまあの金額と考えてもいいかもしれませんね。ただ、日本と違ってオーストラリアは、中間所得層の税率が高いのです。
私がオーストラリアにいた頃は、中間所得層の税率がおおよそ30%。働いた分の3割が所得税として天引きされていました。
各種の手当が無い中、3割を税金として支払うのは厳しかったです。
高福祉・高負担の社会だから、と自分を納得させようとしても、Pay slip(ペイスリップ)と呼ばれる給与明細を見てため息がでました。
短期的に夫が失業した時に、既に2年以上在住していたので、いよいよ社会福祉を受けられる!と失業手当の受給申告に行きました。
ところが担当した係官は「Not poverty enough」、つまり「まだ、すっごいビンボーとは言えないね」とほほ笑んで、失業手当の給付が却下されました。
その脇で、おそらく生涯1度も働いたことのない若者が、失業手当を受給しているのに。私の払った税金を返せ!と強く思ったのは言うまでもありません。
海外で事務職として働くと生活の基礎経費が高い
働いて得た給与から、3割天引きされてしまう収入。
各種手当が無い中で、さらに追い打ちをかけるのが、生活の基礎となる経費の高さでした。固定電話は、1通話の固定額なので、あまり問題にはなりません。
国際電話も、Skypeを使うので問題なし。携帯電話も選べば、日本よりもずっと安いプランがあります。
問題は電気・水道・ガス、といったライフラインの金額です。全てが民営化されているので、会社の業績によって、待ったなしで値上げされます。
1戸建てに住んでいた頃、冬のガス・電気だけで1か月500ドル、体感価格5万円程度を支払うことはよくありました。
さらに、健康に関する出費がかさみます。Medicareという国民健康保険は、GPと呼ばれる一般開業医の診療の時に、政府が規定した診療報酬の85%をカバーしてくれます。
ただしこの「政府が規定した」が曲者で、立地や設備の良いクリニックは、規定報酬に自分が設定した金額を上乗せします。結果的に、Medicareでカバーできる金額が半分程度、ということも多くありました。
選ばなければ、費用が安いクリニックもありますが、病気の時こそ、信頼できる医師にかかりたいもの。それには、やはりお金がかかるのです。
どこの病院にかかっても、ほぼ同じ金額を払う、日本の診療報酬制度が懐かしく思えました。
さらに、入院や事故などに備えて、ほとんどの人がPrivate Insurance、プライベートと呼ばれる民間医療保険をかけています。
実際に、クリニックで手に負えない状態で、Hospitalと呼ばれる総合病院に行くと、最初に聞かれるのが「プライベートにはいっていますか?」なのです。
プライベートに入っていたら、入院費は最悪、保険会社からとれるけれど、プライベートに入っていない人は、支払わずに姿を消すリスクがあるからというのです。
また、Hospitalも公立と私立があり、公立は値段が控え目なので、いつも大混雑です。
救急で担ぎ込まれて、長蛇の列になっているところでも、「プライベートを持っています」と申告すると、並んでいる人を追い越して、列の先頭につくのです。
まさに命の沙汰も金次第。知ってしまってからは、恐ろしくてプライベートを辞めるなんて考えられませんでした。
このプライベートの掛け金が、当時、2人で年間約2,000ドル、当時の体感価格で約20万円でした。政府が確定申告時に、25%を返金してくれますが、やはり大きな出費です。
その代わり、プライベートのプランによっては、指圧、鍼灸やマッサージ、アロマセラピーの診療費、眼鏡・コンタクトレンズの作成費、さらには不妊治療費まで、決められた割合または金額まで支払ってくれるます。
命の沙汰も金次第に備えつつ、慢性肩こり症の私は、指圧や鍼灸に通う時に安心して使うことができました。
一方で、歯科診療、薬代、そしてSpecialistと呼ばれる専門医の診療や技術に対しては、Medicareもプライベートもカバーしません。全額自己負担です。
これも馬鹿にならない出費でした。
海外で働く事務職の給料はTax Returnでどれだけ取り戻せるかにかかっている
年末調整のないオーストラリアでは、普通の労働者も全員Tax Returnと呼ばれる確定申告を行います。
会社が発行するPAYG、「年間給与支払額証明書」をもとに、自分の必要経費をそこから引き、最終的な申告をして税額を計算します。
その結果で、さらに税金を支払うか、または還付されるかが決まります。
確定申告は、国税庁のオンライン、または郵送で自分でもできます。会計士さんに依頼すると楽ですが、その費用も馬鹿にならないので、自分でする人も多くいます。
でも、私達は会計士さんにお願いしていました。それは夫が半分自営業をしていたことと、会計士さんが節税や、税金を取り戻す知恵を持っていたからです。
サラリーマンの必要経費なんて、日本に居たら考えずにいましたが、オーストラリアでは必要経費と「認められるもの」を積み重ねて、いかに節税をするか、が収入を守るために大切なのです。
その「認められる」範囲を知っているのが会計士、ということで、毎年お願いして、しっかりと税金還付を受けることができました。
ある時、会計士さんから
「あのね、必要経費って制服のクリーニング代も入るんだよ。例えば電車の中で、化粧品会社の制服を着ている人を見たことない?」
「ああ、ある!なぜ制服で通勤しているのか、不思議だったの!」
「あれはね、自分の服を汚さずに済むからなんだよ。そして制服が汚れたら、クリーニングに出すんだけど、そのクリーニング代が全額必要経費になるんだ」
「あらまあ」
「で、ある年に国税局が全国のクリーニング屋さんの売上額と、全国で必要経費として申告されたクリーニング代の総額を比べたんだ」
「うん、それで?」
「そうしたらね、クリーニング屋の売上高の倍も、必要経費の申告額があったんだ!」
「うわっ、それ、凄い!」
「そう、どっちも嘘をついているってことだよね」
と会計士はウィンクで教えてくれたのでした。
海外で働く事務職には高福祉だからこそ高負担
オーストラリアで働くというと「のんびりしていて、高福祉で、お給料も高い」という良いイメージだけが先に立つかもしれません。
けれども実情は違いました。税率や、社会福祉制度の違いなどで、思ったよりも経費がかかりました。
それでも私には働く場があり、最終的には一戸建てを買って、のんびり暮らす日々が与えられた分、恵まれていたと思います。
オーストラリアの税率は、日本よりもはるかに高いのですが、それは高福祉のため。
子供がいる場合には保育園費用の補助や、お年寄りには訪問介護サービスなど、福祉を必要とする人は、申請すればきめ細やかなケアを受けられるのも、高負担の結果です。
また、24時間365日、電話での無料通訳サービスがあります。この通訳サービスは60以上の言語に対応していました。
病気や事故の時に、母語なら話せるけれど、英語ではうまく説明ができない、という場合には、その通訳サービスで医師とのやりとりができます。
このように弱者に対するサービスを充実させるために、税金を負担していると思えば、負担のしがいがあるという気持ちになりました。
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