「海外就職したいけど不安でハードルが高い」と思う方にお勧めなのは「青年海外協力隊」。2年前後を海外で活動・生活できる有償のボランティアです。
私は2014年から2年間をフィリピンで青年海外協力隊員として過ごし、その後「開発コンサルタント」として日本とフィリピンを往復しつつ仕事をするきっかけを得ました。
海外就職を迷う人にとっての青年海外協力隊のメリットや注意点を、私や他の協力隊経験者の話を交えてご紹介します。
※この記事は筆者の体験にもとづいています。2018年秋の募集以降、制度が新しくなっています。詳しくは派遣元のホームページをご確認ください。
●JICA海外協力隊:https://www.jica.go.jp/volunteer/
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青年海外協力隊とは?
国際協力の一環として、JICA(ジャイカ=独立行政法人国際協力機構)によって開発途上国に派遣される有償のボランティアが青年海外協力隊です。
なお、JICAのボランティアには活動内容などによっていくつかの区分があり、青年海外協力隊はそのうちの一つです。
20~39歳の日本国籍の男女を対象に毎年2回募集・選考があり、最低70日程度の合宿訓練を経て、年間1,000名規模が世界約70~80ヶ国に派遣されます。
青年海外協力隊をおすすめする4つの理由
海外就職を迷う方に、なぜ青年海外協力隊がお勧めなのでしょうか。それは経済面、応募時のスキル面、健康・安全管理面、進路選択面の4つの面でメリットがあるからです。
メリット1. 経済的負担が少なく、少額だが収入がある
- 赴任前の講習・語学訓練に手当あり(4万円/月×2ヶ月強)
- 赴任中は、現地生活費以外にも手当あり(5万円/月×24ヶ月)
- 2年の任期満了で帰国した時に、さらに手当あり(72万円 ※雇用保険受給選択者の場合は24万円)
- その他、最低限必要な旅費・宿泊費以外に移転料・支度料などの支給あり
要するに必要な費用は支給され、2年の任期後には152万~200万円の貯金ができます。
日本で会社に勤務するよりは少ない金額ですが、日本の高い家賃・食費を考えると社会人2~3年目の一人暮らしの貯金と大差ありません。
お金を払って海外留学やスタディツアーに行くよりも、はるかに負担は少ないです。
メリット2. 能力・スキルのハードルが低い
- 英語が苦手でもTOEICスコアが330あれば応募できる
- 社会人経験が少ない・ない場合でも応募できる
- 派遣後、企業での勤務・派遣ほど「成果」を強く要求されない
青年海外協力隊では120種類以上の「職種」の募集があります。そのうち、語学力や資格などの条件付きは全体の半数前後。
その条件は「社会経験3年以上」「企画・調整業務の経験」といったものから、単に「大卒」「専門学校卒」や「農業に対する興味」のようなゆるい条件まであります。さらに、そのゆるい条件すらないものが半数近く。
実際に協力隊には、社会人経験のない新卒者や大学生(大学休学者)もいます。日本での仕事とは全く関係のない職種で受かった人も多いです。
- 例1)日本では観光会社に勤務 → フィリピンで理科教師
- 例2)日本では介護福祉施設に勤務 → 東ティモールで環境教育
メリット3. 健康・安全管理面でのケアが手厚い
- 必要な予防接種や赴任中の健康診断が無料
- 赴任国ごとに健康管理スタッフがいて、現地の信頼できる病院の情報や、赴任国の衛生事情などをふまえたアドバイスをもらえる
- JICA側で天災や治安状況を常にウォッチしており、状況に応じて注意喚起や安全地域への退避など対策がある
海外の企業に単独でアプローチするなら、衛生・治安事情は自分で調べて準備・対策する必要があります。熱で苦しんでいる最中に現地の人から苦労して情報収集、という状況もありえます。
それに比べて協力隊は、海外経験の少ない人でも安心できる体制が整っています。
メリット4. 進路選択の幅が広がる
- 赴任中に培った現地のコネや現地語能力、現地生活力で、海外就職への道がグッと近づく
- 海外就職を考え直し、日本で就職活動する場合にもプラスに働くことが多い
海外で本格的に就職するかどうか迷う人には、これが一番のメリットかもしれません。
赴任後に海外就職の実績多数
協力隊員として赴任する2年は「海外での就職が自分に向いているか?」を検証するのに十分な時間を与えてくれます。また、日本の会社員に比べて2倍、3倍以上の時間的な余裕ができるので、赴任中に就職活動を並行できます。
2年間も海外生活の実績があって現地語が話せる人材は、現地の日系企業では喉から手が出るほど欲しい人材です。
特に公用語が英語でない国では引く手あまたで、半数近くの協力隊経験者が現地で就職した例があるほか、赴任国以外の国での就職実現者も多々います!
日本へ戻っても求められる人材に
一方で、「やっぱり日本で働きたいなぁ」と思い直した場合でも、協力隊の経験は強烈なアピールポイントになります。
15~20年以上前は、協力隊というと「組織不適合者」やヒッピーのようなイメージで企業から敬遠されていました。
しかし、時代は変わりました。今や日本企業はチャレンジ精神のある若い「グローバル人材」を求め、地方自治体では協力隊経験者向けの採用枠があるほどです。
会社に籍を残したままの参加も可能
海外就職を目指す方には少ないでしょうが、勤めている会社の承認を得られれば「現職参加」という制度があります。
赴任期間は原則2年ですが、「合宿訓練を含めて1年間または2年間」のように短縮し、その後に元の会社で仕事復帰するという手段もあります。
応募から赴任までのスケジュールは?
青年海外協力隊員の募集は、春と秋の年2回です。1次の書類選考の通過者が2次の面接選考に進めます。
応募書類を提出してから2次の合格通知まで約3ヶ月半、海外赴任までは訓練を挟んで最短8ヶ月、最長14ヶ月。この期間の長さは、一刻も早く海外に行きたい人にとっては難点でしょう。
面接
2次の面接は東京で、運が良ければ神戸会場や北九州会場もあります。
面接日は待ち時間が長く、指定された平日の朝9時から最大18時までの拘束。日本で会社勤めをしながらこっそり選考を受けたい人には少しネックです。
訓練
合格後の訓練は、福島県二本松もしくは長野県駒ヶ根での合宿が最低70日程度。
さらに、職種や応募者の経験値によって、この合宿訓練とは別に「技術補完訓練」が課される場合もあります。1日だけだったり、農家宅に泊り込みで3ヶ月なんて場合も!「技術補完訓訓練」の有無は、説明会などで情報を仕入れましょう。
赴任国や仕事は選べるの?
仕事は「職種」レベルで選べ、赴任国の希望も出せます。しかし、自分では決定できません。
第3希望まで提出可能
希望を絞る手順は以下の通りです。
- 応募する「職種」を選ぶ
- 「職種」ごとに募集されている「要請」を選ぶ
前述したように、青年海外協力隊の「職種」は120前後あります。行政サービス、環境教育、野菜栽培、観光、音楽、柔道、看護師、コンピューター技術、自動車整備……などなど。
中には「陶磁器」「シンクロ」のようなニッチな職種もあります。「自分にもできそう!」と思える内容が絶対にあります!
そして「職種」ごとに、「ネパール国ワリン市での住民グループの組織化」のように仕事の募集(「要請」と呼ぶ)があります。この「要請」を、1次審査での応募書類に第3希望まで記入できます。
赴任地域の希望の出し方は?
「あれっ、国はどうやって選べるの?」と思いますね。上述の通り、希望は「職種」ベースであり、国別に提出する様式になっていません。
フランス語圏の国に行きたいなら、まず「職種」を選び、その中にある該当国の「要請」をピックアップして希望として提出します。考えていた「職種」にフランス語圏の国がなければ、別の「職種」への変更も検討しましょう。
派遣先は不便な地域
さらに念頭に置くべきなのは、行き先は開発途上国だということです。
そもそも協力隊は途上国支援のための派遣なので、派遣先にバリバリの先進国はありません。アフリカやアジアが多く、探せば東ヨーロッパが数ヶ国見つけられる程度です。
また、協力隊の半数程度は都市部ではなく田舎への派遣です。
自分以外に外国人はおらず、スーパーなどの大きな店舗はなく、現地住民の利用する屋外市場しかない町や村です。海外で企業に就職する場合、勤務先の多くは首都か地方都市なので、この差は踏まえておく必要があります。
希望はどの程度考慮されるの?
希望の通る割合は公表されていません。第1希望が通る人もいれば、希望していない国への派遣者もいます。私の知る約200名の中では「第1~第3希望に書いていない国だった」という人は全体の1割くらいでした。
ある面接官は「国によって応募数の差があるから難しいけど、できるだけ希望は通したい」と言っていました。
「ベトナム以外は絶対に嫌だ!」という柔軟性のない態度だと選考自体に落ちる可能性がありますが、「勉強したベトナム語を活かしたい」「本社で支店間の調整業務をしていたので、首都の上位機関の方が力を発揮できる」のように筋の通った理由を示して適切に希望を伝えるのがよいでしょう。
派遣先が第3希望だった私の場合
私は「コミュニティ開発」という住民グループの活性化を行う職種を選択。分かりやすい資格・技術のない文系の多くは、この「コミュニティ開発」で応募します。
希望は「タンザニアでの住民の所得向上」「ネパールでの地域活性化」「フィリピンでの障害者支援」の順で提出しました。
結果的に派遣されたのは第3希望のフィリピン。田舎町役場を希望しましたが、実際の派遣は州都(地方州政府)でした。フィリピンという国と障害者支援という分野の希望が多少考慮されています。
辞退は慎重に検討を
いざ合格通知を開封して、どうしても行きたくない国だった場合は辞退も可能です。
辞退しても別時期に再応募はできますが、再合格の保証はなく辞退記録は残るので、十分検討が必要です。
私が青年海外協力隊で海外に行くことを決めた理由
私は34歳の時に青年海外協力隊に応募しました。隊員の7割くらいが20代半ば~30歳の間なので、他の方より遅めの年齢です。
協力隊に応募する直前は、日本企業を相手に企業研修の企画営業職としてバリバリ働いていました。
仕事は好きでしたが、それまで勤めたいくつかの会社は創業数年のベンチャー企業ばかりで、睡眠時間を削るのが常というほど忙しく負荷も大きかったため、少し休憩したいという気持ちが生じていました。
また、プライベートでは海外旅行が好きで、大学時代や転職の合間にはバックパッカーとして30ヶ国以上を旅した経験があり、海外で長期滞在したい気持ちも強まっていました。
次に決まった仕事が協力隊だった
青年海外協力隊にこだわっていたわけではありません。「旅行者としてではなく、海外のどこか1ヶ所に留まって働こう!」という決意が先にありました。
在職中は海外の仕事探しは全くしておらず、金銭的にも多少余裕があったため、担当プロジェクトの区切りのついた3月末で退職。休養をとりながらのんびり職探しを始めたところ、青年海外協力隊に合格という流れです。
正直言うと、第3希望に近かったものの「うーん、フィリピンの都市で障害者支援かぁ」という気持ちはありました。でも、協力隊には昔から興味もあり、前述のようなメリットも多かったので、「えーい、行っちゃえ!」と決断しました。
まとめ~やってみなければ分からないメリットがある
「青年海外協力隊」は、国際協力を目指す人を除くと日本では知名度がイマイチ。また、希望が完全には通らない、選考期間が長い、田舎派遣の可能性などのネックもありますが、安心でオイシイ面も多いです。
現地住民に混ざっての生活・活動は苦労も多い一方で、その現地の人たちや同期の協力隊員との絆も生まれます。
海外での本格就職に迷うなら、ぜひ選択肢に入れてみてください!
※JICAには他にも海外協力隊としての派遣制度があります。また2018年秋の募集以降、制度が新しくなっています。詳しくはJICAホームページをご確認ください。
●JICA海外協力隊:https://www.jica.go.jp/volunteer/
ライター名:YK.くらら
岐阜県出身。早稲田大学卒業後、ベンチャー企業の創業期の中枢メンバーとして、アウトソーシング企業の運営部長、人材開発企業の企画営業マネージャー等を務める。
2014年から2年間は「青年海外協力隊」としてフィリピンの地方州政府にて障害者支援分野で活動。世界30ヶ国以上への訪問経験を活かし、現在はフリーの「開発コンサルタント」として途上国支援に携わるかたわら、ライターとして記事執筆を行う。
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