「青年海外協力隊」は、JICA(ジャイカ=独立行政法人国際協力機構)によって発展途上国に派遣される、国際協力のためのボランティアです。ボランティアというと無償のイメージがありますが、協力隊には手当や現地での生活費・活動費が支給されます。
全隊員共通の主な手当はJICAから公開されていますが、派遣国ごとに異なるような細かい手当は全貌がつかみにくくなっています。
そこで、私が赴任したフィリピンの場合を例に、手当の詳細を活動内容や勤怠ルールとともに赤裸々にご紹介します。
※この記事は筆者の体験にもとづいています。
JICA海外協力隊:https://www.jica.go.jp/volunteer/
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青年海外協力隊の活動内容って?
協力隊が行う活動の共通項は「途上国の発展に貢献することを目指す」こと。派遣期間は原則2年で、具体的な活動内容は人それぞれです。
HIV感染予防のセミナーをしたり、かまどを作ったり、算数を教えたり、一緒に野菜の有機栽培を始めたり……。
配属機関からの「要請」に基づき活動
協力隊の募集枠は、途上国の配属機関が協力隊にやってもらいたい活動を申請することで発生します。そのため、募集時点での予定活動内容を「要請」と呼びます。
「職種」は自分で指定して応募しますが、その職種を必要とするどの「要請」に配属決定となったかは、選考合格通知とともに連絡されます。
例えば、私の「要請」は以下の通りです。
- 職種:コミュニティ開発
- 配属先:フィリピン国中部にあるパナイ島イロイロ州の州政府
- 活動内容:障害者の物理的・社会的バリアフリー環境の形成のために、他関連機関や隊員と協力し、障害者施策の実施・制度確立、障害者の能力向上、啓発活動などを行う
「要請」「職種」について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
実際の活動内容は「要請」通りか?
前述したように活動の予定内容は、派遣国の配属機関が「要請」として事前に申請したものです。しかし、「要請通りにいかない」「要請通りでなくてよい」のが青年海外協力隊の特徴のひとつです。
「要請」として書かれているのは大枠のみで曖昧なことも多々あります。また、実際に赴任地域・配属機関と接すると、そのニーズの変化を感じたり、より優先度の高いことを発見したりすることもあります。
そのため状況判断で、「隊員自身がもっとも貢献できると思える活動」をする自由度があるのです。
私の派遣中の活動内容
「障害者支援」という要請の大枠の中で、以下の5つを2年間のメインの活動として実施していました。
- バリアフリー環境形成のための啓発セミナーの実施
- 障害者登録のデーターベースの仕組み作り
- 障害児のための奨学金制度の開始
- 障害者支援の協力隊グループの組織運営
- 義足を製作できる3Dプリンタの開発
上4つは配属機関である州政府担当者とともに進めましたが、5つ目は現地のクリニックや他の隊員と協力して、義足ユーザーに焦点を当てた活動もプラスしました。
当初の「要請」と大きく異なる場合も
他の隊員の例では、以下のように「要請」と「実際の活動」に差が出たケースもあります。
(元々の要請→実際の活動)
- 漁村の所得向上→自家用野菜栽培の普及
- 衛生環境の改善→台風被害地域の復興支援イベント運営
- 会計管理の定着→地域特産品作り
目的や目標が明確な企業からの派遣の場合は、こんなにも差は出ませんね。
このように、要請をどう具体化するか、あるいは要請と関係のなさそうな内容に切り替えるかは、配属機関と自分自身に委ねられているのです。
青年海外協力隊の勤務時間や休暇は?
JICAには、赴任国以外での休暇取得については制限があります(後述)が、休みを含む日々の勤怠ルールは「配属機関に従う」の一言につきます。
協力隊員はJICAから手当を支給されていますが、配属機関からは給料をもらっていないボランティアという立場です。
そのため、配属機関の正職員と同じように勤務することを求められる場合もあれば、隊員の自由でよいとされる場合もあります。
どちらに転ぶかは配属機関次第、まさに運です。
週休2日だった私の場合
私の配属先は勤怠に厳しい方だったため、正職員と同様に週5日、平日8~17時の定時での勤務が求められました。
それでも残業はほぼなく、日本での会社勤務に比べれば求められる業務量も少ないため、自由になる時間は遥かに多くなりました。
青年海外協力隊の気になる手当!日本円での支給は?
訓練・派遣期間に対する見返り、または給料代わりとも言える青年海外協力隊への手当。これは日本政府の国際協力予算から支払われます。つまり、元は日本国民の税金から捻出されています。
協力隊員に支給される手当には、
- 日本の銀行口座に日本円で振り込まれるもの
- 赴任国の銀行口座に米ドルや赴任国の通貨で振り込まれるもの
があります。
手当は、活動内容や成果、配属機関での勤怠状況に左右されず、派遣国で過ごしていれば一定額が保証されます。
ここではまず、日本円で支給されるものを見ていきましょう。
赴任前
日本で負担した実費の返金
派遣前に日本国内で必要になった交通費や宿泊費、合格後に各自で受診する健康診断の料金などは、精算手続きを行って日本の口座に返金されます。
用途自由な赴任経費
赴任地への移動や支度料の名目で支給されるのが「赴任経費」。移転費は一律9万円ですが、支度料は赴任国によって異なります。
支度料はアフリカなど物が現地で入手しにくいと思われる国ほど高い金額がもらえる傾向があります。フィリピン派遣の場合は9万円弱と最安値レベルですが、多い国では12万円強が支給されます。
この赴任経費は実際には使用用途は問われず、貯金に回すのも自由なので、この赴任経費を元手にノートパソコンやタブレットを買う人もいます。
赴任中・帰国後
派遣されている間に貯金ができる
振り込まれる日本円で最も金額が大きいのは、訓練・派遣期間に応じて支払われる「本邦支出対応手当」および「帰国初動生活手当」「帰国社会復帰手当」。
後述しますが、生活・活動に必要な費用は別建てで赴任国の口座に外貨で振り込まれるため、現地でかなりの贅沢をしなければ、赴任中の「本邦支出対応手当」も自動的に貯まっていきます。
2年の任期を満了すると、これらの合計が152万~200万円程度になります。
社会保険料との関係
なお、「帰国社会復帰手当」は雇用保険受給者は支払対象になりません。協力隊の場合は雇用保険の受給期間を延長できますが、「帰国社会復帰手当」か「雇用保険料」のどちらにするかは支給額を加味して選択するとよいでしょう。
また、赴任中は住民税の支払いは不要ですが、国民年金や健康保険は任意加入です。年金や健康保険料についてのJICAからの直接的な支払いはないため、継続する場合は「本邦支出対応手当」から捻出することになります。
青年海外協力隊の気になる手当!外貨での支給は?
次に、赴任国の口座に振り込まれるのは現地での活動・生活に必要とされる費用です。
フィリピンの場合は、BPI(Bank of the Philippine Islands、フィリピンアイランド銀行)が振込先に指定されており、渡航直後に米ドル用とペソ用の2つの口座を作りました。
日本のJICA本部から所定のタイミングでドルで振り込まれるのが「住居費」と「健康管理手当」。それ以外はJICA現地事務所の管轄らしく、ペソの口座に振り込まれます。
赴任地域によって異なる住居費(ドル支給)
住居は赴任国によって、配属先から無料提供される場合と、「住居費」としてJICAから支給される場合があるようです。
フィリピンの場合は後者です。さらに、同じフィリピンでも居住地域によって金額が上下します。
私の場合は州都への派遣だったので、3ヶ月での上限が510ドル(約57,400円)でした。
田舎町への派遣の場合は上限300ドル(約33,800円)でしたが、2014年10月分以降から420ドル(約47,300円)にアップしています。
赴任国によって異なる生活費(ペソ支給)
現地生活費は赴任国によって3ヶ月あたり900~1,500ドル(約101,300~168,800円)と幅があります。
フィリピンは3ヶ月で945ドル(約106,300円)なので、派遣国の中では現地生活費も最安値レベルです。「現地住民よりも少しだけ良い生活」はできますが、気をつけないと足りなくなるのでコントロールが必要です。
金額の大小は、赴任国の物価以外に、治安の危険度、生活環境の厳しさなどの「ハードシップ手当」が加味されているとか。実際に、フィリピンよりも遥かに物価が安いのに、現地生活費を多くもらえる国の方が多いくらいです。
アフリカに赴任した隊員などは「物価の割に生活費の支給は多いし、お金を使うところもない」ということで、どんどん貯金額が増えるということでした。
全員一律支給の健康管理手当(ドル支給)
赴任国に関わらず、1年以上赴任した時点で支給されます。赴任先の生活環境で最初の1年を頑張った「ご褒美」のようですね。
有効活用したいその他の経費(ペソ支給)
出張手当
赴任中には配属機関での活動だけでなくJICAの行事参加などの「公用」もあるため、出張手当が得られます。
フィリピンの場合は、JICA事務所が首都マニラにあって、赴任地域との物価差や自己負担になる交通費などもあるため、日当で補てんするという形になっていました。
現地業務費
現地での活動のために支給されるのが現地業務費。
そもそも赴任地域のための活動なので、赴任国の配属機関が負担するのが第一とされていますが、お国柄・配属機関の事情によって難しい場合もあるので、JICAに経費を申請できる制度があります。
語学再訓練費など
その他、赴任国によって利用できる制度が設けられている場合もあるので、しっかり把握して有効活用したいものです。
※1ペソ=2.25円、1米ドル=50ペソ、1ドル=112.5円換算(2017年6月)
青年海外協力隊の充実の福利厚生・サポート制度
有事の際のケアから、赴任後の進路支援まで
災害補償・共済制度
全隊員共通で加入するのはJICAの災害補償制度、労災保険、国際協力共済会です。火事などで他人の損害補償が必要なケースを除いては、病気・怪我など一通りをカバーしています。
補償金額が心配な場合は「JOCAプロテクション」という保険(自費、2年間の掛け捨てで8万円くらい)への追加加入も可能です。
なお、途上国でも比較的治安が良いフィリピン派遣の隊員では、この保険への追加加入は半数程度でした。個人的には、赴任する国の治安状況が悪い場合に検討すればよいと思います。
赴任国外での休暇取得
「私事目的任国外旅行制度」と呼ばれ、費用は自己負担ですが、赴任国以外の国での滞在が1年で20日間まで可能です。日本への帰国については派遣期間中に1回のみという制限付きです。
ただし、赴任国内での休暇は前述した通り配属機関次第となります。
配偶者及び子女の呼び寄せ制度
派遣は単身ですが、配偶者や子供がいる場合、派遣期間中に1回だけ一時的に呼び寄せることができ、一部の旅費補助が出るそうです。
忌引き一時帰国制度
1親等の家族に限定されますが、有事の際は国際航空券代など一部旅費が支給されます。
帰国後の進路支援制度
希望者はキャリア相談員のカウンセリング、進路支援セミナーに参加できます。
また、帰国後の進路開拓のために必要だと認められる自己啓発費は、入学受験料や受講料などが「帰国隊員等教育訓練手当」(上限20万円、合計額の80%まで)として申請できます。
さらに自治体や大学によっては、国際協力経験者用の受験枠や特別措置がある場合があります。
現地での活動をサポート
技術情報支援制度
活動に必要な書籍・DVDを日本から取り寄せられる制度です。隊員1人あたり最大10万円/年度!
技術支援制度
技術的に困難な問題に対して、希望者は専門家からアドバイスを受けられます。
「世界の笑顔のために」プログラム
「活動での使用以外」という制限付きですが、日本の一般寄贈者からの品(楽器やボールなど)を現地住民のために申請できます。
まとめ~自分の力を試すのにぴったりの環境
青年海外協力隊は、活動の自由度が高くサポート制度も充実。配属先次第とはいえ、自由になる時間は日本よりも増えることは確実です。手当の金額は多くはありませんが、時間単価で考えれば悪くないかもしれません。
しかし、自由度の高さゆえに活動の方向性に迷っての葛藤も発生する上、判断力も自己コントロール力も求められます。計画・判断・評価すべてを自分で行う面では個人事業主と似ている、というのが私の感想です。
手当は少なくても、裁量の大きさを優先し自分のことは自分で評価する!という気概があれば、協力隊は自分を試せる貴重な経験です。
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