欧米人が一番楽しみにしている冬のイベントは、まちがいなくクリスマスです。しかし、スイスのジュネーブ市民にはクリスマスより楽しみにしているお祭りがあります。それは、Escalade エスカラードと呼ばれるお祭りです。
普段はおとなしいジュネーブの人々が、大人から子供まで熱狂するエスカラードとはいったいどんなお祭りなのでしょうか、ご紹介します。※1スイスフラン=110円
エスカラードの開催時期
エスカラードは、毎年12月の第2金曜日から日曜日にかけての3日間、スイスのジュネーブで行われます。
金曜日は、学校ごとに行われる子供達の仮装行列がメインイベントです。土曜、日曜日にはジュネーブ市内を走るエスカラードマラソンが行われます。
仮装して走るマラソンや普通のマラソンなど、子供から大人まで参加できるさまざまな距離のマラソンが用意されます。
旧市街では中世の服装に身を包んだ市民が屋台を出したり、大砲の発射実演やメインイベントの時代行列などが行われます。
エスカラードの歴史
エスカラードは、ジュネーブで400年に渡って続く伝統的な行事です。
1602年12月11日にジュネーブがサヴォワ公国から独立を勝ち取ったことを記念するお祭りで、市民が自分たちの力で独立と共和制を維持した歴史から、いまもジュネーブ市民の誇りとなっています。
ESCALADE エスカラードとは、梯子をよじ登ることを指すフランス語です。
1602年、夜闇に紛れサヴォワ軍が奇襲をしかけてきました。ジュネーブの城壁をよじ登り、夜のうちに攻め込んでジュネーブを占領しようとしたのです。
異変に気がついた一市民ロワイヨームおばさんが、煮えたぎった野菜スープを城壁にかけたはしごを登ってきた敵の頭からぶっかけて撃退した……という故事にならい、命名されています。
ジュネーブでは、この故事とエスカラードの歌を小さな頃から学校で教えられます。こうして小さい頃から、エスカラード祭りはジュネーブ市民のアイデンティティとなっているのです。
エスカラードのメインイベント、時代行列
エスカラードで必見のイベントは、1,000人以上の市民が中世の衣装を着て町を練り歩く時代行列です。この時代行列のすごいところは、市民が身にまとっている衣装がすべて世襲であることです。
1602年当時、祖先が兵士であった人は兵士のコスチュームで、農民だった人は農民のコスチュームで、先祖代々の衣装を世襲し、パレードに参加しているのです。
パレードでは、ほんものの松明に火を灯し、大人から子供までが先祖代々の衣装に身を包み行進します。まるで映画の撮影か、中世に迷い込んだかのようなリアリズムに感動します。
騎馬隊や馬車、楽隊も参加し、雰囲気を盛り上げます。特に子供達のいる一団は可愛くて必見です。子供とはいえ、一人前の立派な衣装を着て、一生懸命歩いています。
エスカラードの日にしか通れない路地を通ってみよう
ジュネーブの旧市街にLe Passage de Monetier ル・パッサージュ・ドゥ・モヌティエール=モヌティエール通りと呼ばれる小さな通路があります。
この小道は、城郭に入るための通路で、城壁の中に掘られたトンネルのようなものです。人一人がやっと通れるほどの狭い通路で、敵が押し寄せても、一気に城の中まで攻め込まれないよう工夫して作られた通路だと言われています。
現在はアパートの入り口となっているため、ふだんは関係者以外は通ることができませんが、エスカラードの日のみ、この道が限定公開されるのです。
暗いトンネルの中では、時代装束に身を包んだ市民が松明を炊いて足元を照らしてくれます。中世の雰囲気満載です。
当時の臨場感を味わおうと、たくさんの人が列をなしてこの小径を通り抜けていきます。
エスカラードでチョコレート菓子を食べよう(1)
エスカラードの季節が近づいてくると、ケーキ屋さんやチョコレート屋さんのショーウィンドウ、そしてスーパーにも鍋の形をした不思議なチョコレート菓子が並びます。
手のひらに載るくらいのサイズのものから、バケツのような大きなものまで、様々な大きさのものが売られます。鍋型チョコレートにはジュネーブの紋章が描かれ、中には野菜をかたどったマジパンのお菓子や小さなチョコレートが入っています。
このチョコレート菓子は、先に紹介したロワイヨームおばさんの故事にならったお菓子で、おばさんが敵兵に投げつけた野菜スープ入りのお鍋がモチーフとなっています。
このチョコレートは、La Marmite(ラ・マルミット=鍋)と呼ばれ、子供達はエスカラードの仮装行列の後にこの鍋を割ってみんなで食べるのを楽しみにしています。
エスカラードの季節にジュネーブを訪れたら、ひとつお土産にいかがでしょうか?家族やお友達と割って食べると盛り上がります。チョコレートはスイスの名産品、お味は折り紙付きです。
エスカラードでこれを食べよう(2)
エスカラード当日、ぜひ味わってもらいたいものが他にもあります。旧市街の屋台で売られている野菜スープとホットワインです。
野菜スープはもちろん、ロワイヨームおばさんのおはなしにちなんだもの。細切れに刻んだ野菜をコンソメスープで煮た素朴な味わいのスープです。ベーコンが入っている場合もあります。
これをかけられたらたまらないな……なんて思いながらアツアツのスープを飲むのも乙なものです。
ホットワインがおすすめ
もうひとつ、身体をあたためるのにおすすめなのが、Vin Chaud(ヴァンショー)、ホットワインです。スイスの12月は底冷えするので、ホットワインで身体をあたためないとイベント鑑賞が厳しいものとなります。
ホットワインは、エスカラードの保存と運営を取り仕切るCompanie de 1602 コンパニー・ド・ミルシッソンドゥという団体のロゴマークがデザインされたプラスティックカップに入っています。
一杯7スイスフラン(約770円)で売られています。お祭りの屋台の飲み物にしては、ちょっとびっくりする値段かもしれませんが、プラスティックカップも含めたお値段で7スイスフラン、カップを返却するなら2スイスフランが返却されるシステムです。
このカップも記念のお土産になります。
エスカラード見学の際の服装
エスカラードが行われるのは12月。日本も寒い季節ですが、スイスの寒さはその比ではありません。最高気温がマイナス……という日もあるほど寒く、また天候が安定しないシーズンでもあるので、運悪く雨や雪が降ったりします。
エスカラードを見学する際には完全防寒で臨みましょう。
スイスの人々を見ていると、Monclerブランドなどの高級ダウンに、UGGなどの内側に毛の生えたムートンブーツやスノーシュー、マフラー、手袋、毛糸の帽子……ととにかく肌が外に出ないよう、完全に防寒しています。
子供達も、スキーウェアのようなダウンの上下を着て、ブーツに手袋、マフラー、帽子にすっぽり包まれています。
ここはスキー場か?とツッコミたくなるほどの防寒着ですが、外に長時間いる場合は、これほどの装備でも寒さを感じるほどです。
ジュネーブの救世主ロワイヨームおばさんの名を冠したレストラン
エスカラードが行われるのは、一年のうちたったの3日間。エスカラード開催中にジュネーブに来るのは、なかなか難しいことです。
期間外にジュネーブに来る機会のある方は、エスカラードの立役者ロワイヨームおばさんの名前のついたレストランでお食事をされるのはいかがでしょうか。
コルナヴァン駅から徒歩5分、Manor マノーデパートのすぐ近くにある雰囲気のあるレストランです。前菜、メイン、デザートがセットになったMère Royaume ロワイヨームおばさんセットが45スイスフラン(約4950円)です。
美しいステンドグラスを用いた内装のレストランは、特別なお食事シーンにもおすすめです。
基本情報
- 名称:Auberge La Mère Royaume オーベルジュ・ラ・メール・ロワイヨーム
- 住所:Place Simon-Goulard 4 CH 1201 Genève
- アクセス:コルナヴァン駅より徒歩5分
- 営業時間:月曜日〜金曜日のランチとディナー、土曜日はディナーのみ営業、土曜日のランチと日曜日の営業は要相談
- 電話番号:+41(0)22 731 29 20
- 公式サイト:http://lamereroyaume.ch/
ジュネボワの精神が見れるエスカラード祭り
住民の半分が外国人といわれるジュネーブ。普段生活していても、色々な人種が行き交い、さまざまな言語が聞こえてきて、生粋のジュネーブ市民の存在を感じることはほぼありません。
しかし、このエスカラードの日には、先祖代々に受け継がれてきた衣装を来て、寒さの中、大人から子供まで誇らしげにパレードをするジュネーブ市民の姿に感動を覚えます。
お祭りのクライマックスでは、旧市街の大聖堂の前に市民が集まり、大きな焚き火を囲んでエスカラードの歌を合唱します。
普段はおとなしく、存在感のないジュネーブ市民が、この日ばかりは誇らしげに胸を張って自身のルーツを主張する姿を見て、ジュネーブの歴史やジュネボワ(ジュネーブ市民)の精神性を目の当たりにさせられます。
まとめ
エスカラード祭りはジュネーブ市民の間では大人気のイベントですが、一般に広く知られれるお祭りではありません。そのため、観光客がわざわざこのお祭りのために押し寄せてくる……といったことはありません。
ホテルも比較的空いている時期で取りやすいのではないかと思います。ホテルを予約する際は、エスカラード祭りの主な会場となる旧市街にあるホテルを予約することをおすすめします。
ジュネーブ人の誇りで、伝統あるこのお祭りをぜひ見てみてください。2018年は12月7日から9日にかけて行なわれる予定です。
- エスカラード協会1602のホームページ:https://www.1602.ch
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