海外で新しい資格に挑戦したいと思っても、英語が母国語でない人にとってはハードルが高く、最初の一歩はなかなか踏み出しづらいのが正直なところではないでしょうか?
今回は、心理学という難しい分野で大学院修士号を取得し、ニュージーランドのオークランドで心理療法家・ヒプノセラピスト(催眠療法士)として、今までに50カ国以上の国籍を持つ方々にカウンセリングをしてきた白井聖子さんに、夢実現までの道のり、そして海外移住におけるストレス対処法などについても語っていただきました。
心理療法家を目指したきっかけ
私が心理療法家をめざしたのは38歳のときでした。ちょうど40歳近くになるにしたがって、私自身がパートナーとの関係でいろいろと悩んでいた時期でした。
また、ニュージーランドに来て何人かの友人から「幼少期に受けた虐待に今でも苦しんでいる」「母親が統合失調症で辛かった」などという話を打ちあけられたのです。
深くショックを受けたと同時に、悩み苦しんでいる友人をみて助けたいのに助けてあげられないという無力感に襲われたのです。人間の苦悩の深さや悩みの複雑さを実感しました。
そのうちに、自分の悩みの根本を理解し周りで悩み苦しむ全ての人々を助けてあげたい、と強く思うようになり心理療法家を目指しました。
学校入学から修士号取得まで
2010年、私はAuckland University of Technology (AUT)のGraduate Diploma in Psychotherapy Studiesコースに入学し勉強を始め、その後にMaster of Psychotherapyコースを受けました。
(ニュージーランドで心理療法家として登録するにはMaster大学院の資格が必要になります。)
このコースの入学資格は、学士号を取得している、またはそれと同等の資格を取得していることが求められます。私は日本の4年制大学を卒業していましたので、私にとって必要だったのはIELTSポイントでした。
私の入学時では、IELTS (アカデミック) 7ポイント以上で、リーディング・スピーキング・リスニング・ライティングのすべてが6.5ポイントかそれ以上でなければいけません。おかげさまで私はIELTS 7.5ポイントを取得し、晴れて入学を果たしました。
コース内容
Graduate Diplomaコースは当時フルタイムで1年、Masterコースは3年で終了するコースでした。私は正社員として働きながらの勉強でしたのでパートタイムを選び、合計6年かかってコースを終えました。
授業は先生から教わるというよりも、事前に渡される資料を予習しその内容をグループで議論するというスタイルでした。試験は論文形式で、大量の資料を読み、深めた理解を論文にまとめます。初めはそのやり方に慣れず「なぜ先生が教えてくれないの?」と、とても不満に思ったものです。
しかし、授業を進めるうちに受身でないことでより理解が深まっていることに気づき始め、この授業スタイルは心理療法家になるためには理にかなったやり方なのだと思いましたね。
膨大な量の論文と格闘
とにかく大変だったのは英語で与えられた課題を読み論文を書く、ということでした。
AUTに入学するまで私は英語で教育を受けたことがありませんでしたので、分厚い課題を読むのに最初の1ページに2~3時間かかってしまい、読み終わる頃には冒頭の内容などすっかり頭から抜けてしまっているという感じで、本当に苦労しましたね。
キャンパス内には英語を母国語としない生徒のために論文の書き方などを指導してくれるサポート部門がありましたが、私は幸いにパートナーがニュージーランド人なので、彼に論文のチェックをしてもらい、なんとか乗り切りました。
現場実習~修士号取得
授業の一環として現場実習があり、学校側が提携している病院や施設などでインターンとして働かなければなりません。
私はオークランドのTe Atatuというエリアにある依存症リハビリセンターを選び、そこで週3日2年間無給で働きました。
また、学校が運営しているクリニックでも現場実習が行われました。そこで実際に、いちカウンセラーとして一般のクライアントさんと接したときの緊張感は今でも覚えています。
そして、晴れて修士号を取得し卒業証書を手にしたときは本当に嬉しかったです。パートナーや友人たちのサポートがなければ、到底ひとりではできなかったことで、本当に心から感謝しています。
なぜ起業?
大学を卒業しいざ働くとなったときに、病院や施設などに所属する人がほとんどです。所属先では施設の治療方針などが必ずありますので、施設で働くということは、自分のアプローチが制限されるようで気が進みませんでした。
また、私が6年間の訓練を通して得た最高の宝は、「ありのままの自分を生きる喜び」を身をもって体験したことです。
私は在学中、周りの反応を気にするがあまり、自分が時折「理解できていない」ことを隠し「分かったふり」をしてきたのです。
そんな私があることをきっかけに「理解できていない自分をまず受け入れる」ということを学んだことでとても楽になったのです。それは、人生を根底から揺るがす学びでした。
ありのままの自分を受け入れる
それ以後、かつての私のように自分を生きられずに苦しんでいる人に私が提供できるサービスを届けたい、「自分を生きる」ということをライフスキルとして多くの人々に届けたい、という思いがどんどんと膨らんでいきました。
正直、「起業など本当にできるのだろうか」「もっと経験を積んでからの方がいいのではないか」と何度も悩みました。
しかし、クライアントさんには「ありのままでいい」と言っておきながら、そのままの自分で一歩を踏み出せずにいる臆病な自分。この矛盾をどうしても打ち破りたかったのです。
そのためには、どこかに所属するのではなく、私は私なりに「今の自分」で勝負しつつ成長するしかない、と思い起業に踏み切りました。
多国籍のオークランドで心理療法家として働くとは
現在は、オークランドの3カ所でカウンセリングを行っており、オークランドは移民の都市といわれるだけあり、今まで50カ国以上の国籍を持つクライアントさんと関わってきました。特に気をつけているのは、それぞれの家族や文化背景を理解することです。
また、オークランドは日本人移住者も多いですが、日本人は人間関係の持ち方や人への配慮の仕方などが西洋人とはまったく違ってきますので、クライアントさんのバックグラウンドによってアプローチはおのずと変わっていきます。
ただし、悩みの内容や個人がおかれた状況は千差万別ですが、差異を超えて共通する「人間の悩みの本質」があります。そこに取り組むプロセスは一貫して同じです。
仕事をするうえでの喜び
心理学でEmpathy fatigueという言葉があり、それは、クライアントさんに深く責任を感じ過ぎて心理療法家など悩みを聞く人が疲れてしまう、という意味ですが、私はそういうことが一切ないのです。
クライアントさんと話をし「彼らの悩みの根本を探っていく」ということは、ときとしてとても辛いことであったりもしますが、お一人おひとりが自身と向きあっている瞬間や自分の心の真実を丸ごと受け入れている瞬間をみると私は感動するのです。
神聖な時間に随行させてもらっている、という感じでしょうか。
私にとって心理カウンセラーのお仕事は、このうえない喜びを感じることができる天職だと思っています。
夢を実現するために
6年間という長い勉強期間でしたが「途中で諦めたい、辛い」と思ったことは1度もなかったです。それはきっと「なんのために心理療法家になりたいと思ったか」という目的や当初の想いを常に再確認してきたからだと思います。
夢を諦めないために私が実践した具体的な方法をいくつかご紹介します。
- ノートに目的、目標を書き出して毎日読み上げる。
- 自分が心理療法家として活躍している姿をリアルに思い浮かべてみる。
- 関わっている方が自分らしく元気になっていく様子を想像する。
こうすることで、脳に仮の成功体験を味わわせることができ、夢実現に向けてのモチベーションが持続しやすいのです。ぜひ、自分なりにアレンジして試してみてくださいね。
ストレスを抱える海外移住者に向けて
海外移住によるストレスや不安は、心理学の世界では「トラウマ」としてみなされています。
もちろん個人差はありますが、言語の壁や文化の違いから自分らしく振る舞えず、人とのつながりが感じられずに自分が赤ん坊になったようで自己の存在価値が激減することからおこるストレスです。
そんなときは、まずは「できないことがあってもいい」と、今の等身大の自分自身を認めることです。
まとめ~インタビューを終えて
白井さんはフワッと人を包み込むような優しさを醸し出されている方ですが、中身は確固たる信念を持つ生命力あふれる、とても魅力的な方でした。
「人々が閉じ込めてしまった自分らしさを解き放つ生き方を育むお手伝いをしたい」とおっしゃる白井さんに今後の夢をお伺いしたところ、「ワークショップをもっとたくさん開催し、本の出版も手がけていきたい!」とのこと。
白井さんにインタビューしているうちになんだか私までも癒されて元気になったような気がします。
補足情報
白井さんは、オークランドでのセッションのほか、電話やメールでのセッションも受け付けていらっしゃいますので、海外どこからでも白井さんのカウンセリングを受けることができます。
また、随時セミナーも開催されておりますので、下記のサイトをご参照ください。
- https://ameblo.jp/lookwithinyou
- Email: seikotherapies@gmail.com
- Facebook: @seikotherapyjp
- LINE ID: @smileseikoxo
また、記事中の学校の情報は白井さんが在学された当時のものとなりますので、最新情報は下記のサイトをご参照ください。
Auckland University of Technology (Graduate Diploma in Psychotherapy Studies)
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