今回は、韓国の真ん中あたりに位置する忠清北道・清州市にある「清州美術創作スタジオ」についてご紹介します。
これは、「アート・イン・レジデンシィ」事業の1つです。韓国では、各地で「アート・イン・レジデンシィ」事業が行われています。
「アート・イン・レジデンシィ」事業とは?
「アート・イン・レジデンシィ」事業とは、アーティスト・芸術家が、一定期間ある土地に滞在し作品制作を行う事ができる事業のことを言います。
耳慣れない言葉なので、一般的にあまり知られていないかもしれません。この言葉について「初めて聞いた」という方も多いと思います。
日本の「アート・イン・レジデンシィ」と韓国の「アート・イン・レジデンシィ」運営機関の違い
実は日本でも、各地で、多数この「アート・イン・レジデンシィ」事業は行われています。
ただ、日本の場合は、どちらかと言えば地域活性化あるいは復興などに結びつけるものが多く、外国人作家を招請し観光客に結び付けたり話題を呼んだりと、その地域を新たに芽吹かせる意義が強いように思われます。
それを運営する組織は大抵、自治体あるいはNPO法人などのようです。
それに対し、韓国では、運営する機関は様々です。民間ギャラリーが運営している場合もあれば、美術財団が運営している場合もあります。
清州市が運営する「アート・イン・レジデンシィ」そして「地域の美術館」である「清州美術創作スタジオ」
今回ご紹介する「清州美術創作スタジオ」は、忠清北道(チュンチョンブッド)にある清州市(チョンジュ市)が運営しています。
この清州美術創作スタジオは、市内しかも図書館のすぐ横という便利で行きやすい場所に位置しています。
また、そこではアーティストが1年中スタジオ内に滞在していることから、アート・イン・レジデンシィ事業のみならず、無料で気軽に入れる美術館といった役割をも担っています。
清州市では昨年2015年に清州市立美術館ができたのですが、それまでは、清州市ではこの清州美術創作スタジオがいつでも展覧会が見られる場所であったため、近所の住民たちは今も「美術館」と呼んでいます。
ここの見どころは、常に展覧会が観られることは勿論ですが、常にアーティスト(入居作家)と触れ合うことができることです。大げさに言えば、公開制作が1年中行われているようなものです。
芸術家に会うという機会は日本でも滅多にないと思います。
日本語で書かれた清州美術創作スタジオの案内文には、「日常の中で出会える親しみやすい文化空間」と表現されています。
観光客や清州市の市民たちは、この清州美術創作スタジオに無料で入ることができ、ギャラリーで展覧会を観て、また、希望すれば、各アトリエを訪問し入居作家たちと触れ合うことができます。
清州美術創作スタジオとは?
先ほど、「清州市が運営するアート・イン・レジデンシィ」と申し上げました。
それでは、具体的にそこでどのようなことが行われているのでしょうか?
清州美術創作スタジオでは、基本的に、アーティストたちはそこに1年間入居し、生活しながら作品制作を行います。
毎年秋に入居作家公募が出され、冬に審査が行われます。審査を通過したアーティストたちが翌年4月以降から入居出来るようになっています。
入居作家審査スケジュールおよび審査方法
毎年、清州美術創作スタジオ入居作家の公募は9~10月に出され、12月頃に審査が行われるようになっています。
審査方法は二次に分かれて行われます。最初に書類(作品のポートフォリオ)での一次審査があり、その後、一次審査を通過したアーティストたちに対し、二次審査で面接が行われるようになっています。
清州美術創作スタジオの決まりや施設紹介
入居定員は15~24名前後、入居期間は1年間あるいは短期(3か月・6か月)となっています。海外在住の外国人作家の場合は短期間となります。
施設は、アトリエが15部屋あり、その中にはベッド・基本的なキッチン設備やトイレなどがあります。
アトリエのスペースは54平方メートルと広く、また天井の高さも十分確保されているため、入居作家たちはその中で作品制作を行うのみでなく暮らすことができます。
清州美術創作スタジオで入居作家たちが行うこと
審査に通った作家たちは、基本的に4月中旬~5月頃から清州美術創作スタジオに入居し始め、1年間滞在するようになっています。
入居作家たちは、その1年間の間、リレーで各人、個展を行い、その間の成果を発表するようにされています。
更に、時には清州市民たちと共に、アートイベントやワークショップなども行います。
アートイベントについては、清州市民たちにとっても、これに参加することで、多様な現代美術を体験できるようになっています。
ワークショップについては、外部の美術評論家など専門家を招き作品について話し合い、より自身の作品について見聞を深める機会となります。
集大成「オープンスタジオ」
1年間、作家たちは各自の制作についてより良い表現に挑戦しようとし、時には美術評論家と自作について話し合い、切磋琢磨し成長していきます。
そして最終的に、4月初旬「オープンスタジオ」と呼ばれる大規模なグループ展が行われます。
このオープンスタジオで、入居作家たちは1年間の成果を発表します。言わば1年間の集大成であり、美大での卒業制作展のようなものとも言えるかもしれません。
その間、その1年間清州美術創作スタジオに滞在中の個々人の作品や制作過程を公開するようになっています。
清州美術創作スタジオでできること
ここで観光客や清州市民は、1年間を通し、「展覧会を観ること」「アーティストのアトリエを訪問すること」「アートイベントに参加すること」などができます。
展覧会を観ること
常時、何かしら展覧会が行われています(数日間、時間をかけて展示を行うので、展示準備中の場合もあります)。
ギャラリーは1階と2階に分かれ、天井の高い広いスペースの展示空間で充実した展示を観ることができます。
アーティストのアトリエを訪問すること
これが一番と見どころと言えるかもしれません。
日本でも、通常、制作中のアトリエを訪問するというのは一般人には難しく、また、敷居が高いものです。気分的にも、なかなか簡単には入れないでしょう。
これが無料で気軽に入ることができるのですから、特に美術に興味がない場合でも、仮に清州市へ寄る機会があれば、一度は行ってみることをおすすめします。
アートイベントに参加すること
清州市民でない、韓国内外の観光客の方の場合はなかなか難しいでしょうが、アートイベントに参加することもできます。
滞在中、時期があえば、参加してみてはいかがでしょうか。
清州美術創作スタジオの見どころ
展示空間
美術館として考えると少々小さいかもしれません(美術館も場所により様々ですが)。しかしギャラリーとして考えると、建物が綺麗で広いと言えます。
特に天井が高いため、作品が映えます。規模の大きい作品や展示も多く、十分見ごたえがあります。
各アーティストのアトリエ
15室もあり、各部屋にベッドルーム・キッチンなどが備えられ、しかも広さは54平方メートルというアトリエは、なかなか圧倒されるものがあります。
アトリエと言うより、普通に生活する場所としても十分快適な空間です。
韓国の他のアートインレジデンシィと比べても「清州美術創作スタジオの施設は中でも充実している方だ」と、韓国の他のアートインレジデンシィ経験者からも聞いたことがあります。
清州美術創作スタジオへ実際に行ってみた感想
アトリエを見る楽しさ
日本では、以前から、「アトリエの写真を集めた」写真集というのが割と人気があるようです。書店でも時々見かけることがあります。
「パリのアトリエ」「ニューヨークのアトリエ」などが有名なようです。
では、それを見るのがなぜ楽しいのかと言えば、「個人の部屋とも、完成された美術作品を展示する空間とも一風違う、その人の嗜好や内的世界を垣間見ることができる楽しさ」が大きいように思います。
作品も、完成されたものではなく、制作中です。また、アトリエに置いてあるちょっとした物や雑貨などを見ると、その人の好きなものや傾向が何となく読み取れます。
このアトリエの空間と言うのは、ある意味、作品や展示空間以上に、その人の美への世界を如実に物語るものです。
常に公開されているアーティストの制作空間及び展示室
通常ならば、特に日本では、「アーティスト」「アトリエ」というのは普通積極的に表に出るものでもなく、滅多にアトリエを見るということはないでしょう。
勿論、知り合いがたまたま作家で招待された、あるいは美術館で開催中のアーティストの公開制作が行われている、といった場合は別ですが、いずれにしても、「(1年間)常に開かれたアトリエ」というのはなかなかないと思います。
それがこの清州美術創作スタジオでは常に見ることができます。
更に、「美術館」と言う訳でもなく、かつ、「ただアトリエにお邪魔してみた」という訳でもなく……。
「常に公開されているアーティストの制作空間及び展示室」という意味で、面白い空間だと思います。
是非ここでは、ただギャラリーを見てそのまま帰るのではなく、アーティストたちのアトリエにお邪魔してみることをおすすめします。
清州美術創作スタジオの注意点
休館日があります
美術館と同じ扱いのため、月曜日及び祝日などはお休みです。
アトリエに行く場合は事務室に一度声をかけ、場所を確認しましょう
ギャラリーに比べ、アトリエは場所案内が少なく分かりにくい可能性があります。
また、全てのアーティストが常時部屋を開けている訳ではないので(不在の場合もあれば、前日の制作疲れで寝ている場合や夜型の作家の場合もあり)、一度事務室に一声かけて相談してみた方が良いでしょう。
参考までに、日本では「アトリエ」といった呼び方が一般的ですが、英語では「アトリエ」を意味するのは「studio」、韓国もやはり「スタジオ」と呼びます。
一声かける場合は、「ステューデオへ カゴシッポヨ(スタジオへ行きたいです)」と言うと伝わりやすいかもしれません。
アーティストの不在が重なる時期に気を付けましょう
1~3月頃にはあまりアーティストはいません。
韓国では1、2月に旧正月があることが多いので、その時期、地元に帰省していたり、3月頃には多くの作家が作品を作り終えているため、スタジオを出る前に最後に旅行していたりすることがあります。
【基本情報】
- 名称:清州美術創作スタジオ
- 住所:〒28774清州市上党区龍厳路55
- アクセス:ソウルから長距離バスで2時間30分
- 営業時間:午前9:30~午後6:00
- 電話番号:+82-43-201-4057~8
- 公式サイト:www.cmoa.or.kr
まとめ
いかがでしたか?
一般の方には耳慣れない「美術創作スタジオ」「アートインレジデンシィ」ですが、内容が分かってくれば、抵抗は少ないのではないかと思います。
芸術の街パリでは、美術学校が観光地になっていたりもします。
韓国は他のイメージが強く、一見、芸術のイメージはありませんが、実は芸術に関して熱い国でもあります。
日本ではあまり見ることがない「美術創作スタジオ」。韓国清州市付近へ来ることがあれば、是非、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
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