「今の仕事に満足していますか?」
日本で働いていた頃、電車の吊り革広告にあったそんなキャッチコピーを見た私は、うなずける人なんてほんの数パーセントしかいないだろうと気にも留めませんでした。ところが、そんな自分が数年後、なんとイタリアで実際に満足できる仕事に就くことができたのです。
インテリアデザイン会社の社員として忙しい日々を送っていた私が日本から飛び出す勇気を持てたのは、ほんの小さなきっかけと馬鹿げた思い込みのおかげでした。
イタリア行きを決めたきっかけはちょっとした偶然
美大を卒業して東京のインテリアデザイン会社に就職し、忙しい毎日を過ごしていた頃、たまたま手に取った雑誌に目が留まりました。学生時代から憧れていたイタリアのインテリアデザイナーの特集でした。
仕事に追われ、憧れという言葉すら忘れてしまっていましたが、その記事を読んでいるうちに、かつて思い描いていたデザイナーの理想像が沸々と甦ってきました。しかし、現実にあるのはただ忙しいだけの毎日です。
「なんか違う!」「これがやりたかったことなの?」
考え出したらもう止まりません。そして、なんとも勝手なことに、イタリアに行って憧れのデザイナーの事務所で働こう!と固く決意してしまったのです。
思い込みは大きな原動力
よく考えたら、イタリアの巨匠デザイナーの下で働けるなんて本当に馬鹿げた思い込みでした。しかし、それが原動力となって生活は一転。仕事に追われるだけだった毎日が、イタリア行きのことで頭がいっぱいの楽しくて仕方ない日々に変わったのです。
たまたま、あのタイミングで、あの雑誌を手に取った。そんな小さな偶然は普段の生活の何気ない瞬間にあって、それを見逃さずにつかんでみたら何かが大きく動き出すこともあるのです。
出発までの楽しく、充実した準備期間
まずは当分暮らせるだけの資金を貯めることから始まり、海外移住の情報収集を徹底してやりました。
もちろんイタリア語なんて全く話せず、中学生レベルの英語力しかありません。でも、そんなことより行きたい情熱の方が強く、きっと現地へ行けばなんとかなる!と、またもや勝手な思い込み。
しかし色々調べているうちに、とりあえず何かしらのビザが必要ということが分かりました。そこで、イタリアの語学学校と提携している日本のイタリア語学校へ申し込み、日本で3ヶ月間その学校に通うことにしました。
イタリア語に触れるようになってからはますますモチベーションが上がり、出発の日まで約1年、忙しく充実した準備期間があっという間に過ぎて行ったのです。
イタリア生活の始まりは何もかもが新鮮
いよいよ念願のイタリア生活の始まりです。でも、ミラノに渡って約半年間、正直全く就職活動はしていませんでした。
初めてのイタリア生活は戸惑いと困難の連続。滞在ビザ、住民登録、銀行、アパートなど、ただ普通に住むだけの事務的な対応に右往左往で、就職活動どころではなかったのです。
しかし、同時に異国での生活が楽しくて仕方ありませんでした。イタリア人は優しくて本当に親切で、いろいろな本に書かれている通りの陽気な人たちでした。 そんな彼らに囲まれると、嫌なことも吹っ飛んで行きます。
少し慣れた頃にはプチ旅行を始めたりして、イタリア満喫の日々に明け暮れていました。
でも、半年ほど経った頃そろそろ軍資金が底を尽き始め、これはまずい、と真剣に仕事探しへと動き出しました。
イタリアでの私流就職活動
イタリアのインテリアデザイン界は実力主義。もちろん私の学歴、経歴なんて全く関係ありません。だからこそ、イタリアで働くことが魅力的だったのも確かです。
ひたすら電話をかけて直接交渉
インテリアデザイン事務所録を雑誌で調べ、尊敬するデザイナー順にリストアップ。そして直接電話をかけました。
求人が出ているわけでもないのに、これもまた唐突ですが「働きたいから会ってほしい」と、下手なイタリア語で直接交渉です。もちろん、1件目は心臓が飛び出るほどドキドキしていました。
面接で作品を認められる
何件かはボスが不在と断られましたが、最初にボスとアポが取れた事務所に後日、ポートフォリオ(作品集)を持参し、面接してもらえました。そして幸運にも、その最初のボスにオファーを頂いたのです。
あっさりした就職活動に見えるかもしれませんが、ただの幸運ではありません。学歴や経歴に関係なく作品が評価され、それまでの頑張りが認められたのです。
そのはっきりした実感が何よりうれしく、これが本来私の働きたかったフィールドなんだと再確認しました。
イタリアの職場の雰囲気はやっぱりラテン
イタリア人は働かない、昼寝するなどと書いてある本もありますが、この業界はどこの国でも忙しいようで、みんなまじめに働いています。
日本であまりにもハードだったので、のんびり仕事ができると思ってほっとしていたのに、週末出勤や徹夜もあって正直なところ想定外でした。
忙しくても常に陽気
しかし、どんなに忙しくてもみんなポジティブで常に明るいです。仕事が遅れていても笑いやおしゃべりが絶えません。
忙しいときほどなぜか休憩が増えてすぐにカフェタイムになり、一日4、5回、いや、もっとあるかもしれません。不思議ですが、その方が上手く仕事が進むことをみんな知っているようです。
日本での私は期日に追われ、間に合うように終わらせることへのストレスが溜まるばかりでしたが、クールな仕事への向かい方を彼らから学んだように思います。
イタリアの職場では外国人にも平等にチャンスがある
その後、日本に帰国した私が当時働いていたミラノは、 今も昔もデザインの盛んな街です。
スタッフはイタリア人よりも外国人が多いほど国際的な事務所だったので、イタリア語のみならず英語も同時に身につきました。さらに、言語だけでなく各国のデザインの在り方、価値観の相違など、同僚たちからもたくさん刺激をもらいました。
能力があれば国籍は関係ない
事務所によって進め方やプロデュースの仕方が異なるため、日本との違いを一概に語ることはできませんが、一つ言えるのは、イタリアではチャレンジの場をすぐに与えてもらえるということです。
そして、能力が認められれば外国人であっても関係なく仕事を任されます。その責任とプレッシャーは重いけれど、それが満足できる仕事への最短の道だということに私自身も気付きました。
認めてもらえる悦びがあり、それがモチベーションになってさらにスキルアップしていけるのです。
もちろん、挫折は幾度となく経験しましたが、再チャレンジの場を常に与えてくれる懐の大きなお国柄に救われたと思っています。
イタリアでの仕事、悪い面もあるけど良い面はその何倍も!
苦労した点、悔しかったこと
仕事のやり方の違い
日本でも同じ職種だったので、技術面の問題もなくスムーズに仕事に取り掛かれたことは良かったのですが、どうしても日本での仕事のやり方と比較し過ぎて、違うやり方をなかなか受け入れられなかったのは難点でした。
外国語での専門用語
様々な専門用語を外国語で覚えるため、帰国してまた同じ仕事を始めようとすると、日本語では分からない用語が多くなってしまうこともありました。
異文化の壁
仕事の打ち合わせなどで意見の相違があると、言葉の壁があるからではなく文化の違いだから分からないのだろうと片付けられてしまうことがあり、悔しい思いをしました。
良かったこと、得られたもの
「主張できる自分」への変化
一番良かった点は、仕事を通して自分が変われたことです。言いたいことの半分も主張できなかった自分が口論できるまでに変われたのは、主張することの大切さを学べたからです。イタリアでは、主張しないとその場にいないのも同じ、誰からも相手にされません。
ただ、主張すると言っても意見を押し通すことではなく、意見があることを主張するという意味です。その違いも大切さも、イタリアでの仕事を通して学びました。
多国籍の友人
様々な国籍の人と働けたおかげで出会いの幅が広がり、一生の友が各国にできました。彼らとの付き合いを通してデザインにおける感性のみならず、人生観もどんどん豊かになっていきました。
どこでもやっていけるという自信
言葉の壁さえなければどこの世界でもやっていける!そう自分に自信が持てるようになったことも、イタリアでの仕事経験から得られた財産です。
海外で日本人として上手く働くには
インテリアデザイン業界に限らず、海外で働くなら「外国人であることを逆手に取る」ことがうまく仕事を進めるコツです。
私もそれに気付いてからは働きやすくなりました。無理にイタリア人のようになろうと頑張る必要がないと分かり、気持ちが楽になりました。
会社に必要な存在になる
私は外国にいても日本人なんだ、と自己認識することで仕事への構え方は大きく変わります。
文化や習慣の違いをあえてプランに盛り込んだり、異国感を醸し出すデザインを提案したりすると、ヨーロッパでは喜ばれることも多々ありました。アジアの文化は彼らにとって独特です。使わない手はないですよね。
また、日本からの仕事を受けるようボスに提案したり、日本のコンペ情報を常に紹介したりするなど、日本人の存在がその会社に有利であることをアピールするとチャンスを手にしやすくなります。こいつは利用できる人材だと思わせればいいのです。
実際、日本の仕事が多く入るようになり、自分の存在は会社にとって必要不可欠なものになっていきました。
イタリアで働くために必要な準備
最低限のイタリア語日常会話くらいは習得しておいた方が良いですが、語学が堪能でなければ海外で働けないという思い込みは捨てることをおすすめします。
語学は現地で働き出せば、ハイスピードで上達します。準備するならむしろコミュニケーション能力を身につける方が大切です。
具体的には、日本の業界の知識はもとより、文化や歴史、宗教、 最低限の時事情報など、日本を語れる材料をより多くインプットしておくことが一番大事な準備です。
実際私はこの準備をしていなかったので、日本人のくせに何にも知らないの?と会話がストップしてしまい、悲しい経験を多々しました。国や言語に関わらず、会話を広げるためには幅広い知識が必須ですよね。
まとめ~目標が明確である方がうまくいく
海外で働く目的は何なのか、そこで何をしたいのか。人によって動機は違うでしょうが、私はイタリアのデザインに憧れて、イタリアで満足できる仕事がしたいと願い日本を飛び出しました。
ただ海外で働きたい!という思いだけでひた走るよりも、その国で自分が目指したいものは何かをまず明確にした方が、きっと速く確実です。その上で、単純な思い込みからでも勇気ある第一歩を踏み出してみてくださいね。
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