私はイタリア・フィレンツェのジュエリー店で販売スタッフとして働いています。
日本でも同じジュエリーの販売スタッフや、専門商社の社員として社会経験を積んできました。しかし、イタリアで働き始めてみると、仕事に対する考え方はもちろん、同じ職種でも仕事の仕方や内容が日本とはかなり違いました。
驚くようなこと、そして、やりがいを感じることがたくさんあるイタリアのジュエリー店の職場事情をご紹介します。
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イタリアのジュエリー店で働くことになった経緯
私が勤めている会社は、フィレンツェの家族経営の高級貴金属店です。イタリアで就職活動を始めた際に、転職サイトで偶然、日本人を募集しているのを見つけ、運良くそこで採用されました。
この店で扱うハンドメイドの貴金属は、高価な物が少なくありません。日本人のお客様も多く来店することから、日本語で細かなサービスを提供したいというのがオーナーの考えで、そのため日本人販売スタッフの募集を始めたそうです。
接客するのは日本人のお客様がほとんどなので日本語を使うことが多いのですが、一緒に働く販売スタッフの大半はイタリア人です。そのため、基本の就業ルールは全てイタリア流。初めのうちは戸惑うことも多々ありました。
イタリア流の働き方1. オンとオフの区別が明確
プライベートを犠牲にしない
仕事のために自分の時間を縛られることはまずありません。就業はあくまで契約で決められた時間だけ。それ以上の残業は絶対にしません。
仮に終業直前に接客をしていたとしても、定時になれば別の販売スタッフにバトンタッチして早々に帰宅できます。
私が特に驚いた点は、大事なイベントや、家族に大事な用があるときなどは、有給休暇が簡単に取れることです。
これはイタリア人が、仕事のために自分の時間を犠牲にしないスタイルを貫いているところが大きいと思います。仕事を優先して家族や大事な人たちをおろそかにすることはあり得ません。
仕事を頑張るのは時間内のみ
とはいえ、私が働くのはフィレンツェの中心地にある店舗なので、ある意味では観光業です。繁忙期はとても忙しく、仕事はスタッフ一同でしっかりこなします。
しかし、仕事に全ての力を注ぎ、燃え尽きてしまうような働き方は、こちらでは美徳とされないのです。
イタリア流の働き方2. マニュアルがなく自由
販売員とお客は対等
私は日本の百貨店のジュエリーショップで仕事をしていたことがあります。素晴らしい販売スタッフや商品に恵まれ、大変良い経験ができました。
しかし一方で、大量の接客マニュアルや厳しい規則に息が詰まる思いをしたことがあったのも事実です。そして何より、お客様が一番であるという接客方法に息苦しさを感じていました。
イタリアと日本の大きな違いは、販売スタッフとお客様の関係が対等であること。もちろん、小さな決まり事や規則はあります。しかし、日本のような細かい接客マニュアルなどは一切存在しません。
販売スタッフは、好きなように接客して仕事を楽しむことができるのです。
本音でアドバイス
イタリアで働き始めた当初、とても驚いたことがあります。
日本では、他人の目で見れば絶対に似合わないと思われる商品でも、お客様本人が良いと思えばそれが全て。販売スタッフが余計な口出しをすることはないでしょう。
しかし、イタリアでは販売スタッフがはっきりと「これはあなたには似合わない、別の商品の方が映える」といった風に、本音でお客様にアドバイスすることが多いのです。
そのため、自分の接客の仕方やセンスに自信を持って、自分らしく仕事をすることができます。
イタリアのジュエリー店で働いて喜びを感じるとき
世界中の人々の物語と出会う毎日
フィレンツェは古くから貴金属で有名な町です。私たちの店舗には、イタリアに限らず世界中からジュエリーを求めてお客様が訪れます。
洋服やバッグを買うときにもわくわくするものですが、ジュエリーを購入するときは少し違って、特別な機会が多いのではないでしょうか。そんな特別なときのためのジュエリーをご提案する毎日は、たくさんの物語との出会いに溢れています。
フィレンツェでプロポーズをするつもりのアメリカ人男性、生まれてくる子供のためにラッキーアイテムと言われるてんとう虫のピアスを探すイタリア人のご夫婦、仕事で頑張った自分へのご褒美にネックレスを購入したいという日本人女性……。
ストーリーに合うジュエリーを探す
宝石には一つずつに物語があります。販売スタッフは、お客様が来店される度にそれぞれのストーリーを伺って、それぞれに合った商品をご提案します。
そして、幸せそうにジュエリーと共に帰られていく姿を見て喜びを感じるのです。
イタリアのジュエリー店で働いてやりがいを感じるとき
値切り交渉にどう対応するか
販売スタッフの仕事で一番重要なのは売り上げを上げることです。一方、高額なジュエリーを買いにいらっしゃるお客様にとっては、良い商品を少しでも安く買うことが大事なポイントです。
日本人と比べて、欧米人やアジアの人たちは値切り交渉をしてくる人が多いです。つまり、商品についているプライスが正規価格だと信じていない人が大半なのです。
この仕事を始めた当初は、お客様との交渉にかなり手こずりました。
予算に合う別商品をご提案
近くには競合店もあります。値段交渉が上手なお客様だと、他店のグラム単位の金の価格を控えておき、私たちの店舗を訪れるとその価格を提示して、同じところまで値下げできるかどうか迫ります。
商品の値下げは販売につながる一番の近道ですが、利益を下げてしまっては意味がありません。そこで、お客様の希望の予算をお伺いし、少し違った商品の提案をしてみると、意外に即決していただける場合もあるのです。
気難しいお客様が迷ったあげく、最終的に私がおすすめした商品を選び、感謝の言葉をかけていただくときほど、この仕事のやりがいを感じることはありません。
まとめ~自分らしい接客を目指して
自由で規則に縛られないイタリア流の接客スタイルは、慣れるまでに時間がかかりました。しつこく値下げを求めてくるお客様と利益を求めるオーナーの間に挟まれ、販売方法に悩むこともありました。
しかし今は、自分らしい接客でお客様に合ったジュエリーを提案することを一番心掛けています。
そして、いつか私の販売スタイルが確立できれば、個性豊かなスタッフとともに、今よりも素晴らしい売り場ができる……それを信じて、私は今日も仕事を続けています。
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