現在、韓国慶尚南道にある美術館「シアン美術館」で日本人美術作家の川田剛氏の個展が開催中です。会期は2月28日まで。
- 展覧会名:川田剛個展2016(Kawata Tsuyoshi Solo Exhibition2016)
- 展示期間:2017年2月28日まで
- 展示会場:韓国 シアン美術館別館展示室
- 展示構成:インスタレーション、彫刻など総30点余り
- お問い合わせ:シアン美術館学芸研究室
シアン美術館のHPでも見ることが出来ます(韓国語)http://m.blog.naver.com
川田剛さんとは?
現在、韓国大邸在住の美術作家です。川田さんは、長崎大学大学院で井川惺亮に師事。長崎大学の美術交流相手校である韓国 慶北大学校に交換留学しました。大学院修了後、韓国で一般企業に就職。
留学先で知り合った韓国人女性と結婚され、美術作家として制作活動を続けながら、韓国で暮らしています。在住歴15年以上になります。
当初は韓国で別の職に就いて働いていましたが、本来、美術作家である彼は、精力的に美術制作をするようになり、今は完全に美術作家として生活しています。
川田剛さんの作品とは?
川田剛作品の特徴
川田さんの作品は、ユニークな形態が特徴的です。上の写真にある作品は植物の芽のようにも見えます。生々しいような、生命力を感じさせるような、それでいて、さらっとしていて無機質にも見える、独特な作品です。
また、全体的に、フォルムが美しく緊張感があります。
大型作品については、プラモデルの枠組みの形にヒントを得ています。人体のパーツを1つ1つ分解し、プラモデルの枠組みの中に入れたようなこのスタイルは、大学時代の頃から今に至るまで共通し一貫している彼のスタイルです。
展示の際は、1点1点ただ並べるのではなく、それぞれの作品が互いに相乗効果を生み出し、空間を展示前とは異なるものに変える「インスタレーション」という表現手法により展示しています。
「インスタレーション」とは、絵画・彫刻・映像・写真などと並ぶ現代美術における表現手法・ジャンルの1つとされています。これは、1970年以降に一般化したと言われています。
今ではこのような作品を作っていますが、意外な事に、元々は絵画専攻でした。
身体表現による形態の必然性
彼がずっと自作に追求しているのは「身体表現による形態の必然性」。モチーフにしているのは手と脚です。
なぜその形態なのか?
川田さんは、制作を通し、身体を客観的に見据えて来ました。
モチーフになっている手と脚ですが、身体の中で写真や鏡といった媒体は通さずに最も直接見る機会が多い箇所ため、特に手に対しては、作品制作を直接的に行う事によりモチーフとなっています。
形態に対する問題意識
現在は、形態までもが消費的なものになってしまっています。私たちの周りは消耗品的形態で溢れています。
例えば携帯電話のデザインにしても、以前のものを見た時に、当時は魅力的なデザインであったのにもかかわらず、新製品が続々と出る中、その魅力が失われてしまう事があります。
「消耗品的形態に囲まれた現在の状況は、私たちの美的感覚を混乱させる」と彼は言います。
時代の変化に影響されない美とは何か。このような問題に重点を置き、川田さんは身体表現による形態の必然性を追求しています。
個展での彼の制作ノート
今回の個展での彼の制作ノートの中に、次の様な言葉があります。その中から、彼の「美」に対する考え方、追及の仕方を探る事が出来ます。
■「私は美術とは、ただ自然を再現する単純な行為ではなく、自然の中で学び、考え、新しい美を追求する非常に知的な行為だと思う」
「あるものをそのまま再現する」という美の追求は、カメラが登場した時点で終わりを告げました。
今も、カメラとまた違う観点で、描く事で美を追求し新しいリアルさを追求するスタイルもありますが、彼が追い求める美とリアルは、また別のところにあります。
■「個性が重要視される現代において、多様になればなるほど、それだけで異なるだけで、実際には逆に個性は失われる」
今の美術は、あまりにも多様化しています。
彼の言葉通り、個性を重要視される現代において、皮肉な事に、個性を追えば追うほどむしろ個性は失われます。
奇をてらった美術表現も多いですが、その時には印象に残っていても、ただ印象が強いだけで後々にまで残る美の在り方とは違う部分もあります。
■「形態は、人々に感動を与える優れた形態であるとき、それは個性とすることができ、このとき作った人の個性が評価されるだろう」
形態の追求そしてそれが美しいものへ昇華される事が人々へ感動を与え、個性が評価される。その姿勢が彼の作品のフォルムの美しさ、緊張感へとつながるのかもしれません。
■「今私が興味を持っている自然の形が決定される原因は、以下の2種類である。一つは、私たち人間を含む脊椎動物が骨や筋肉などの構造によって形が決定されるということ、もう一つは、細胞が分裂と膨張を繰り返して皮膚などが突出して形が決定される」
私たち人間を含む脊椎動物の表面に現れる形は、中の骨格や筋肉により決定されています。「中身が外の形に影響を与えている」その内容は、彼が大学院で書いた修士論文の中に当時既にありました。
その頃から、彼は一貫して独自の美の表現を貫き続けていると言えます。また、分裂し膨張する事により生まれるユニークな形態。中には、大きく膨れあがった手のような作品もあります。それも彼の作品の特徴だと言えます。
「美術作家」と名乗ることに対する日韓の受け入れ方の差
日本と「美術作家」
日本は、美術面において、国民的に非常に素晴らしい感覚を持つ国だと思います。しかし残念な事に「美術作家」として生きにくい国でもあるように感じます。美術を志すのは非常に困難な道、成功するのはほんの一握りです。
世界的に有名な日本人美術作家は多くいますが、では一般的な日本人の中で「美術作家」に対しての認識はどうかと言えば、日本では少々難しい部分があるかと思います。
例えば初めて会う人同士の会話の中で、「仕事は何をなさってるんですか?」「はい。美術作家です」という流れは、あまり一般的ではないように思います。(それがその人の展覧会の会場での会話であるとか、そういった事情であれば別ですが。。)
勿論、 日本での場合、美術作家が「美術作家」と名乗れないとは言いません。ただ、日本の場合は、何となく「それによりいかに生計を立てているか」が判断の基準になってしまう部分を大きく感じます。
その作品が例えば「ギャラリーで売れたかどうか」、「美術の仕事として契約や収入につながっているかどうか」、という事を聞いて初めて、相手は信頼するようなところがあります。
あるいは、美術制作が仕事に直結したものではなく、趣味であればむしろ評価されるように思います。
韓国と「美術作家」
対して韓国の場合は、日本よりは「美術作家」「アーティスト」といった言葉や対象に対して抵抗が少なく感じます。むしろ、リスペクトされる事も多いです。
先ほどの会話「仕事は何をなさってるんですか?」「はい。美術作家です」という流れは、韓国では日本よりはスムーズに進みます。
韓国の場合も、「 それによりいかに生計を立てているか」が重要な部分は確かにあります。しかし、「生計と関係なく、ただ純粋に美術制作活動をしている」という場合でも、日本よりはすんなりと受け入れているように思われます。
実際、美術作家同士の夫婦などよく見ますが、彼らがどこか会社その他で働いているかと言えばそうではなく、美術財団やその他国や市の美術関係プログラムなどにより支援金を受け、美術活動をしている事も多いです。
韓国は日本に比べ「その美術活動が生計につながるかどうか」に関係なく「美術活動をしている」と言いやすいところがあります。そういった意味で、韓国は日本に比べ、美術作家たちが息をしやすい国である気がします。
美術作家、川田剛さん
彼の素顔及びプロフィールについてご紹介します。
川田剛(Kawata Tsuyoshi)
- 1974年:神戸生まれ
- 1993年:兵庫県立明石高校美術コース卒業
- 2001年:長崎大学大学院教育学研究科修了
- 現在:韓国国立慶北大学校非常勤講師
個展
- 1996年:市場のギャラリー葉月(長崎)
- 1998年:市場のギャラリー葉月(長崎)
- 1999年:長崎新聞社ギャラリー、KTNギャラリー(長崎)
- 2000年:慶北大学校彫塑棟(大邱)、東亜百貨店本店展示室(大邱)、長崎ブリックホールギャラリー
- 2008年:浦上百貨センターギャラリー、スペース嘉昌(大邱)
- 2013年:今年の青年作家招待展、 大邱文化芸術会館、主要グループ展、他
- 2009年:Schema open show、シェマ美術館、清州
- 2010年:Plastic Paradise、清州美術創作スタジオ、川田剛・申京愛(2人展)、鳳山文化会館(大邱)、ギャラリーアウラ開館記念展(ソウル)
- 2012年:青年美術プロジェクト、EXCO(大邱)
- 2014年:滞留sojourn、シアン美術館
- 2016年:第17回全州国際映画祭トロフィー制作、昌原亜細亜美術祭、城山アートホール
韓国慶尚南道にある美術館「シアン美術館」にて開催中
基本情報
名称:シアン美術館
住所: 770-851)慶尚北道永川市花山面カレシル(가래실)路 364 シアン美術館 ※「 カレシル(가래실)路」に当たる漢字がありません。
アクセス:
■KTXの場合
KTX東大邱高速鉄道駅下車→徒歩10分の距離にある東部市外バスターミナルに移動→永川の市外バスに乗車(15分間隔運行)→永川市外バスターミナル下車→ターミナル薬局の前でガサンリ行市内バス利用。
■高速道路で来る場合
- 永川IC→市外バスターミナル方面→ターミナル100m序文五叉路→城方面進入(28国道)→S-oil山武ガソリンスタンドまで直進(15分)→山武ガソリンスタンドの隣30mランプ進入した後そのまま直進(3km)
- チョントン、ワチョンIC→銀海寺方面→チョントン交差点(銀海寺交差点):永川方面に右折→山武三叉路S-oil山武ガソリンスタンドまで直進(約7km)→山武三叉路で左折→山武ガソリンスタンド左側30mランプに入る
- 浦項方向で来る:北永川IC→永川方面→火竜三叉路→城、神霊方向右折→山武三叉路s-oil山武ガソリンスタンドまで直進(約8km)→山武ガソリンスタンドの前30mランプで右折進入→約3km直進
■ 国道で来る場合
- 東大邱→半夜月→白(カトリック大学)→浦項の国道で直進→錦湖交互交差点
- 錦湖交互交差点→100m直進後、自動車専用道路(浦項方面バイパス)進入→城方面に抜け出る→S→oil山武ガソリンスタンドまで直進→S→oil山武ガソリンスタンドの隣30mランプ進入した後そのまま直進
- 錦湖交互交差点→左折(四日温泉方向)→四日の釘を通って前が詰まったT字三叉路まで直進→火山方面に右折→S→oil山武ガソリンスタンドから①のコースと同じ
- 錦湖交互交差点→直進後、永川方面に抜け→Eマート永川点→序文五叉路→城方面に左折(角度の大きな左折注意)→S→oil山武ガソリンスタンドまで直進
- 営業時間:平日10:30-5:30(冬季 10:30-5:00)土曜日・日曜日・祝日10:30 am – 5:30 pm(冬季10:30 am – 5:00 pm)
- 電話番号:054. 338. 9391〜3。
- 公式サイト:http://m.blog.naver.com/cyanmuseum
- 観覧料 : 一般成人3000ウォン、 青少年2000ウォン、未就学児無料
まとめ
真摯な姿勢で美を追求する、川田剛さんの紹介でした。彼が韓国で美術作家として生きる道を選んだのは、ごく当然の流れだったのかもしれません。
以前、川田さんとの会話の中で、次の様に聞いた事があります。「同じ韓国の唐辛子でも、韓国の土壌で育てた場合と、日本の土壌で育てた場合とでは味が変わってくる」そうです。
川田さんの美術作品は、韓国という土壌の中で、どのように花を咲かせていくのか。今後の更なるご活躍を願ってやみません。
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