今夏韓国清州市内で、日本人造形作家・野田智之さんによるワークショップ「ART BASE PROJECT」が行われました。前編では、ワークショップの様子や作品、全日程についてご紹介しました。
後編では、現在その作品たちがどうなっているか、また「ART BASE PROJECT」の背景などについてお伝えします。そこには、清州市のNPO「PublicAIR (パブリックエア) 」と黄金町(日本)とのつながりがありました。
ロードギャラリーにて展示中(2017年12月まで展示予定)
ギャラリーへの展示でまた作品たちは違って見えます
※全5回に分けて作り上げた作品たち。
現在は清州市内のロードギャラリーにて展示されています。(ロードギャラリー:清州市西原区忠烈路ハンブル教会向かい)
外で見る作品は新鮮です。また、1つ1つの作品らが新たに1つの作品として展示される事で、これまでとは違った見え方になります。
ロードギャラリーの見所
主催者PublicAIR (パブリックエア) の本島真由美さんに、このギャラリーの見所を伺いました。「15分おきにモーターで部分的に動きます。動くところを是非見て欲しいです。また、夜の方がよりきれいに見えます」との事でした。
清州在住の方や観光で清州市に訪れる機会のある方など、是非一度ご覧下さい!
「ART BASE PROJECT」が生まれた背景
野田智之さんが選ばれた理由
今回、何故「ART BASE PROJECT」で野田さんが選ばれたのか、野田さんから次の様に教えて頂きました。
私は2011年から1年間黄金町のアートレジデンスでお世話になりました。作品制作の他、黄金町アートスクールの講師として月に1回、1年間にわたって毎回異なった子ども向けワークショップを企画・開催してきました。
その中で、黄金町のアートディレクターの山野慎吾さんに地域の方々と関わりながらアート活動をするということを学びました。
今回の「ART BASE PROJECT」はTOYOTA FOUNDATIONの助成金、地域の子どもたちとWSを行いながら、モニュメントを制作する事が決まっていました。
黄金町のアートディレクターである山野さんがワークショップを数多く行っている私を推薦してくれました。そして私が選ばれました。
また、本島さんからは次の様にうかがいました。
「野田さんは海外での子どもワークショップの経験も多数あり、また、面白いパブリックアートの作品を作ってくれそうだと感じました」
ワークショップのきっかけ
そもそも、黄金町(日本)と清州市(韓国)PublicAIR (パブリックエア)のつながりにより、今回のWSの話が始まりました。どのようにしてこの流れになったのか、PublicAIR (パブリックエア) の本島さんにお話をうかがいました。
このプロジェクトは元々、黄金町の方の発案でした。
というのは黄金町があるエリアは、外国人家庭や、片親家庭が多く、経済格差により、アイデンティティ形成や言語面において、学校以外で学習の機会が少なく、十分に教育を受けることができない子どもが貧困を引き継ぐ、というような問題があります。
そこで、そういった子ども達のために、既存の学校教育以外の創造活動の基盤を作り、また、パブリックアート制作という活動を通して、他者とコミュニケーションをとり、自分なりの社会との関わり方を学ぶ、ということを目的としてこのプロジェクトは始まりました。
そして一方、清州のサジクドンは、再開発地区に指定されましたが、いまだに再開発が進まず、高齢化が加速し、生活環境が悪化するという問題を抱えています。そして経済状態は停滞し、貧困が子どもの教育環境に影響を及ぼしています。
そういったサジクドンを拠点として、パブリックエアが様々な地域再生の取り組みをアートを通して行っているというのを黄金町では何年も前から知っていたので、パブリックエアにこのお話が来ました。
黄金町(日本)と清州市(韓国)PublicAIR(パブリックエア)
黄金町(日本)と清州市(韓国)PublicAIR(パブリックエア) とのつながり
黄金町(日本)と清州市(韓国)PublicAIR(パブリックエア) とのつながりは、3~4年前に始まったと言います。
PublicAIR (パブリックエア)で開かれたセミナーに黄金町のディレクターである山野さんをお呼びしたそうです。そこで、黄金町の成り立ちをプレゼンしてもらった事がきっかけとなり今も付き合いが続いているそうです。
黄金町(こがねちょう)とは?
黄金町(こがねちょう)は、神奈川県横浜市中区にあります。実は、以前は「風俗街」「外国人風俗街」としてのイメージが強かったこの黄金町ですが、今はアートによる取り組みが行われ、環境が大きく変わってきています。
特に2009年4月には「特定非営利活動法人黄金町エリアマネジメントセンター」が設立され、地域の住民とアーティストとの交流・促進が行われています。
そこで「黄金町バザール」のディレクター、また現在はNPO法人黄金町エリアマネジメントセンターの事務局長をされているのが、前述の山野真悟さんです。
PublicAIR (パブリックエア)とは?
※PublicAIR (パブリックエア):清州市西原区興徳路64番地7
PublicAIR (パブリックエア)とは、2010年清州市で創立された非営利団体です。 文化芸術を通した地域の方々との交流、アーティストの創作環境活性化を目的とされています。
日頃は、地域住民を対象とした陶芸教室や絵画教室及び子どもアート教室等が開かれている他、年に1回サジクドン地域にアトリエを持っているアーティスト達のアトリエを公開するオープンスタジオも行われています。
野田智之さんへ今回のワークショップについてうかがいました
さて、皆が楽しんだこのワークショップ。野田さんご本人へ、今回のワークショップについてお話をうかがいました。
(以下、「ワークショップ」をWSとします)
― 今、全てWSが終了した訳ですが、「ART BASE PROJECT」全部を振り返ってみていかがですか?
たくさんの方々に出会えました。それが一番面白い事だと思います。
― 非常に充実していた今回のWSですが、野田さんの中で達成感はありましたか?あれば、どういう部分でしたか?
最初、子どもたちの表情が硬かったのですが、後半では笑顔でコミュニケーション出来た事です。
― WSが始まる前の野田さんの心境について教えて下さい。特にWSへの意気込み、今回のテーマやビジョンなど、どのような事を目指して臨まれたのでしょうか。
私は15年間子どもたちに絵画・工作を幼稚園や保育園で教え続けています。WSも自分のアート活動の一部だと考えています。子どもたちの心を解放すれば、100%素晴らしいものが湧き出て来ます。その時を共有するのが生き甲斐でもあります。
今回、国は違っても間違いなく素晴らしいアイデア、子どもたちとの楽しい関わり合いに出会えると確信していました。そこに私の作品を合体させて何が生まれるかを見てみたかったのです。
― 逆に、WSをする中で、違和感や当初の予定と違った部分などはありましたか?
男子の参加人数が少なかった事ですね。これまで行って来たWSでは男子の参加が多かったので意外でした。
― WS中、日韓の違いのようなものを感じる場面はありましたか?
日本では小学校高学年になるとアニメやゲームのキャラクターを描く子が見られるのですが、今回のWSではそれが見られませんでした。
― 子どもたちが作った力作は、現在ストリートギャラリーに展示されていますね。野田さんから見ての見所とはどのようなところですか?
子どもたちが作った作品と私の作ったものが合体して動くところです。
― 今後の野田さんのご活動にどのように生かせそうでしょうか?
世界各国でWSを行い、アートを通じて子どもネットワークが出来たら面白いかなと思います。
― 「ART BASE PROJECT」受講生の子どもたち他、皆さんへ何かメッセージがあればお願いします。
絵を描いたり、工作、アートが楽しいという気持ちをずっと持ち続けて欲しいです。作った本人に、作品について色々な質問をして欲しいですね。
野田智之韓国清州滞在記
ここまでWSについて触れて来ましたが、韓国という国に滞在して、野田さんの中でどのように感じたか、韓国滞在での発見などを野田さんにうかがいました。
― 韓国滞在期間全てを通して、韓国について、どのように感じましたか。
私は食べる事が好きです。様々な食べ物を食べる事が出来、とても刺激になりました。韓国語が出来れば、地域の方々や子どもたちともっとコミュニケーションが出来るので、それを今後の課題としたいです。
― 清州市については、いかがでしたか。
「新しい」「古い」が共存していて変化や動きを感じました。また、居心地の良さを感じました。
野田さんとの会話の中で、「ソウル」という韓国の代表的な都市ではなく地方都市である「清州市」に魅力を感じ、楽しんでいらっしゃるご様子が印象的でした。
野田智之さんとは?
これまでで十分に野田さんの人となりや活動について知って頂いたかと思いますが、最後に野田さんのご経歴や発表歴などについてご紹介します。
経歴
1974年生まれ。愛知県在住。
大阪芸術大学美術学科(彫刻コース)卒業。
2000年同大学大学院芸術制作研究科修了。
個展
- 2000年<アートイング東京2000:16×16>展(ガレリアラセン、東京)
- 2001年<日下画廊>(大阪)
- 2003年<グスタフM>(名古屋)<いたみホール美術企画Vol.6「SITE」野田智之展>(兵庫)<エビス アート ラボ・ギャラリー> (名古屋)
- 2004年<+Gallery>(愛知)
ワークショップ
- 2001年<うごくもの、つくろう。>(群馬県立近代美術館)
- 2008年<世界に一つしかないぼくの宝ものモーターキットでうごくモノつくろう!!>(まいづる智恵蔵、京都)
- 2011年<リサイクルアートをたのしもう!>(黄金町バザール、横浜)
- 2012年<石の上にも3年コラージュ>(金谷美術館、千葉)<夏休み工作!うごくもの作ろう!>(越後妻有アートトリエンナーレ2012、新潟)
グループ展
- 1997年<第5回名古屋国際ビエンナーレARTEC’97>(名古屋)
- 1998年<キリンコンテンポラリー・アワード’98>(東京、大阪)
- 1999年<CDというメディアの饗宴>(神戸アートビレッジセンター)<アワードOB5人展>(キリンプラザ大阪)<interrlink‐介在する行為‐>(大阪ビジネスパーク)
- 2000年<野田智之・赤土浩介>(大阪府立現代美術センター)<フィリップモリスアートアワード2000 最終審査展>(東京)<アートイング東京2000:16×16>展(セゾンアートプログラム・ギャラリー、東京)<あそびじゅつ―現代美術の世界へ>展(東京)<そこにある水のように>(豊科近代美術館)
- 2001年<こどもとおとなの美術入門 う・ご・き>展(群馬県立近代美術館)
- 2008年 <竜宮への時間 メディアアートと丹後の伝説>(まいづる智恵蔵、京都)
- 2011年 <黄金町バザール2011>(横浜)
- 2012年 <大地の美術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012>(新潟)<黄金町バザール2012>(横浜)
- 2013年<てしかがアートフェスティバル2013>(北海道弟子屈)
- 2014年 <てしかがアートフェスティバル2014>(北海道弟子屈)
- 2015年 <てしかがアートフェスティバル2015>(北海道弟子屈)
- 2018年 <てしかがアートフェスティバル2018>(北海道弟子屈)※2月参加予定
アートレジデンス
- 2013年<Banboo Curtain Studio,Taiwan2013>(台湾)
- 2014年<Gram International Art Residency2014,Paradsinga>(インド)
- 2017年<PublicAIR2017、清州市 >(韓国)
まとめ
最近では、毎日のように隣国・近国の報道が行われています。必ずしも良い内容ばかりではなく、不安を与えるものも多くあるのが残念でなりません。それでも、韓国地方都市・清州市でも、このような熱い日韓美術交流も人知れず行われています。
「今、世界はとても不安定です。もっと子どもたちの未来最優先の考え方が当たり前の世界にならなければと思います」
それが、野田智之さんからうかがった中でも特に印象的なメッセージでした。
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