フランスのパティスリー(ケーキ屋さん)で販売員として働くには?

パリのショップ フランスで働く

お菓子に関わる者の憧れの国、フランス。いくつものパティスリー(フランス語でケーキ屋さんのこと。法的には、パティシエの資格をもつ職人がいるベーカリーのみにパティスリーの呼称が認められています)が軒を連ね、ショーウィンドウを見てまわるだけでも、カラフルでおしゃれなお菓子をたくさん目にすることができます。

食べ歩きツアーをしたり、お菓子作りを習ったり、お菓子愛好家にとってフランスですることはたくさんあります。では、フランスのパティスリーではどんな働き方をしているのでしょうか。今回は、パリのパティスリーで販売員として働く方法、そして働き方を紹介します。

パティスリーへの応募方法

応募

まずはパティスリーへの応募方法です。

フランス語の履歴書の作成

私の場合ですが、まずフランス語の履歴書を作成しました。そして働きたいパティスリーのサイトのリクルート画面(RECRUTEMENT、CONTACT、CANDIDATUREなど)を探し、そこに履歴書を添付して送りました。

履歴書の送信

規模の大きいパティスリーではリクルート画面があり、常にそこから履歴書が送付できるようになっていますが、そのようなシステムがないパティスリーではメールアドレスに直接履歴書を送ります。

日本人向けの求人も多い

その場合は志望動機や簡単な自己紹介、ビザの有無などを書いてから履歴書を添付します。また、パリは日本人が多いので、日本人向けの求人サイトもいくつか存在します

そのようなサイトで希望のパティスリーの求人があれば、実際に日本人を探していることが多いので採用されやすくなります。

私が受けた会社では、面接はフランス語で行われましたが、英語で自己紹介をして下さい、とも言われました。規模の大きい有名パティスリーの場合は、外国からのお客様も多いため英語力は必須です。

パティスリーで販売員になる

ケーキ

話せた方が良い言語

まず、基礎的なフランス語会話は必須です。パティシエとして働くならともかく、お客様と直に接するので、その国の最低限の言葉は話せるようにしておきます。

パリは国際都市なので英語ももちろん必要な場面がありますが、やはりフランス語が圧倒的に必要とされます。販売員といっても、仕事内容は接客だけではなく、上司や同僚との伝達や研修、日々の仕入れなどは全てフランス語で行われます。

販売員を目指すなら、まず第一にフランス語は話せるようにしておきましょう

その他必要な言語は先程あげた英語、そしてプラスアルファで話せる言語があればさらにPRポイントになります。

フランス語の挨拶

フランス語の内容でいうと、まず挨拶や基礎的な会話ができるようにしておきましょう。日本語の「いらっしゃいませ」にあたる言葉はないので、お客様が入店されたら、

  • 朝〜午後なら「Bonjour(ボンジュール、こんにちは)」
  • 夕方から夜にかけては「Bonsoir(ボンソワール、こんばんは)」

と必ず言いましょう。

  • 女の人なら「madame(マダム)」
  • 男の人なら「Monsieur(ムッシュー)」

をつけるとより丁寧です。ちなみにこれは自分が客になる場合も同じで、入店する際に挨拶をしないと店員さんにとても嫌な顔をされます

挨拶の必要性

日本人からするとお客なのに「こんにちは」と毎回わざわざ入店するのは不自然な感じがしますが、フランスでは絶対です。大型スーパーなどに入店するときは必要ないですが、レジで清算するときに必ず挨拶をします。

あとはお客様に何かお願いする時(お支払いはこちらです、お会計は〇〇ユーロです、など)は必ず最後に「s’il vous plait(シルブプレ)」とつけましょう

私は最初のうちは文法や数字を気にしながら切羽詰まって話していたので、最後にシルブプレをつけるのを忘れがちになり、同僚に何回も注意されました。

数字

次に大事なのは数字を覚えることです。数字を徹底的に頭に入れて、自然に言葉に出てくるまでにしておかなければなりません。接客で挨拶の言葉を間違えても問題になりませんが、数字を伝え間違えれば問題になります。

しかもフランス語は60までの数字は十進法なのですが、70を表す数字は60足す10、80は4掛ける20という言い方をします。例えば「99ユーロ」、というのに「4(掛ける)20(足す)19ユーロ」と言わなければいけないのです。

これに慣れるまでにかなり時間がかかり、苦労しました。

私はお会計の時の数字は何とか乗り切れたのですが、大変だったのはリスニングの方でした。ときどきお客様からの電話で、担当者が不在だというと折り返し電話をかけてくれということで電話番号を伝えられることがあります。

フランスの電話番号は10桁なのですが、2桁づつ言うのです。例えば、「0686789939」という電話番号の場合、日本語だと「ゼロロクハチロクナナ……」という風にそのまま読みますよね。

フランス語だと「06(ゼロロク)、86(ハチジュウロク)、78(ナナジュウハチ)、99(キュウジュウキュウ)……」という風に2桁づつ区切って読みます

この読み方を最初知らなくて、てっきりそのまま読まれるものと思ってメモしていたら大変なことになりました。

「06、86(4X20+6)、78(60+18)、99(4X20+19)……」とお客様が伝える数字は、私には「064206601842019……」と聞こえているわけです。

メモをとったものの、こんなに電話番号が長いわけがない、と焦り「すみませんがもう一度繰り返して頂けますか?」と聞いたものの、やはり同じ結果になりわからないまま電話を置くことになりました。

同僚が戻り事情を説明すると、お客様の名前から会員名簿を調べてくれ電話番号が載っていたので事無きを得たのですが、もし大切な用事などで電話番号が不明だった場合を考えると冷や汗が出ました。

フランスで販売員を目指す方は、とにかくまず最初に数字を頭に叩き込みましょう

資格

販売員になる為に特別な資格は必要ありません。ただフランスでは飲食店のサービス業も調理師などと同じように専門職として、高等職業学校(Écoles supérieures professionnelles)の中のホテル学校(école hôtelière)で技能をしっかり学びます

日本には同等の学校はありませんが、洋菓子学校などに通った学歴、ソムリエやティーインストラクターなど食に関する資格、アルバイトなどでもサービス業に従事した職歴などがある場合はしっかり履歴書に記入し、アピールしましょう。

場所によって異なるパティスリーの仕事内容

モール

パリ、またはフランス国内はパティスリーが多く、同じ販売員として働くのでも場所によって働き方に多少の違いがあります。

ブティック(小規模な店舗)販売員として働く

パリ市内にあるパティスリーのブティックで働く場合は、ある程度のフランス語能力が求められます。百貨店などに比べると地元のお客様も多く、フランス語でコミュニケーションをとる場面が多くなります。

開店、閉店準備、電話対応、衛生管理、レジの出金管理などひとつのお店をまわしていく総合的な能力が求められます。

百貨店販売員として働く

パリ市内にはたくさんの観光客向けのショッピングセンターがあり、そこに有名パティスリーが入っています。

代表的なものはオペラの裏にある2大百貨店ギャラリー・ラファイエットとプランタン、あとはルーブル美術館と地下で直接つながっているカルーセル・デュ・ルーブルなど。

その場合はブティックより来店客が多く観光客の数も多いので、フランス語より英語など、他の言語能力が重視される傾向があります。

私の同僚の中国人はフランス語はほとんどできず、中国人観光客の相手だけをして、それ以外のお客様とのコミュニケーションは英語で済ませていました。

フランス語があまりできなくても、日本人であれば日本人観光客が多い売り場は採用されやすいといえます。仕事内容はブティックに比べると限定的で、接客がメインになります。

パティスリーの販売員として働くメリット

カフェ

これは主に私にとってのメリットになってしまうのですが、販売員として働いて次のようなメリットがありました。

お客様の反応が見える

私はもともとパティシエール(菓子職人)として働いていました。そして販売員としてお客様と接することが増えると、自分がお菓子を見ている視点とお客様が見ている視点の違いに気づかされることが多く、その違いはパティシエールをしているだけでは決して気づかないことでした

例えば自分がパティシールをしているときは、繊細なデコレーションをしたりして見た目にこだわることでお客様の目をひきたい、という思いが強かったです。

しかし実際店員として働いてみると、ショーケースでお菓子を一日中状態の良いまま持たせるには繊細なデコレーションよりもある程度「保存に耐える」「移動に耐える」ケーキを作る方が大切だと感じました。

販売員がケーキを並べ、箱に詰め、それをお客様が持ち帰るわけですから、いざ食べるときにぐちゃぐちゃになってしまっていたらケーキの美味しさも半減してしまいます。

パティシエールをしていたときは作り終えたらそこで仕事が終わり、と思っていましたが、最後にお客様が口に入れる瞬間まで想像して作ることが大事だと気づきました。

自分が関わりたいと思う業界で、違う役割として働きさまざまな角度から業界を分析することができたのは良い機会になりました

研修が受けられる

これは働く会社にもよりますが、私が働いた会社ではまず研修期間の1ヶ月、マカロンとケーキ、チョコレートの種類を全て覚えるために試食をしながら味の説明を受けます(もちろん働きながらです)。

私にとっては憧れのパティスリーだったので、全種類を網羅できて感激でした。研修期間が終わってからも、接客のための研修が月1回、新製品の試食・品評会などが月に2〜3回はあって、お菓子好きにとっては魅力的な環境でした。

美しくおいしいものを作りだすのがパティシエールの仕事でしたが、販売員として味の構造を知り、その魅力や違いをお客様に伝えるのが販売員の仕事とすると、とても有意義でした。

あとは接客しながらフランス語や他の言語も覚えていけたこと。パティシエールとして働いていた頃はどうしても裁量制、つまり決められた量を作るまで帰れないので労働時間が長くなりがちでしたが、販売員は時間がきっちり決まっていて終了時間が明確なことなども良い点でした。

フランスの接客

職人

お客様第一の接客研修

私が働いた会社では常に接客のための研修が行われるほど、サービスに対して厳しい会社でした。そのため言葉づかいや商品の勧め方なども常にチェックされ、時には覆面の調査員が販売員をチェックしてまわるため、態度が悪い販売員は注意を受けたりひどい場合は解雇されることもありました。

例えばお客様がある商品について説明を求めたときまず商品の説明をしますが、そのあとで決してそれより高い商品を勧めてはいけない、などの説明を受けました。

安いものからだんだん高いものへと値段を釣り上げて商品を勧めていく商法もあるので意外に思ったのですが、パリのさまざまな売り場を見てみると、言葉のわからない観光客にいたずらに高い商品を勧めて売り上げを伸ばそうとする店も多いので、そういう接客を禁止するためなのだと思います。

接客フレーズ

あとはお客様ひとりひとりを大切にするということで、

「Bonjour Madame、Monsieur(ボンジュールマダムムッシュー)、Bienvenue chez 〇〇(店名)(ビエンヴェニューシェ〇〇)、je suis à votre service(ジュスイアヴォートルセルヴィス).」「こんにちはマダムムッシュー、〇〇へようこそ。私がサービスを担当いたします)」

というフレーズを各お客様に言わなければいけない、とマニュアルにあるのです。

しかし長すぎるので、大抵の場合言っている途中でお客様の注文に遮られるか、早口言葉のようにして言い切る同僚もいてどうにも現場に即していないマニュアルだとおかしく思っていました。

けれどもフランスの接客で本当に店員の態度が悪く嫌な思いをすることも多いので、これくらいマニュアルにして「お客様第一」を徹底しないと丁寧な接客は実現できないということなのでしょう。

そういう意味ではフランス的な接客と正反対といってもいいかもしれません。

フランスらしい接客の仕方

その接客の中でとてもフランス的だと思ったことがあります。それはお客様に対して常に自分が今していることをお客様に説明しなさい、と言われたことです。

例えば、私が入社してすぐの頃、上司が席を外していて私がひとりで対応していたときのことです。お客様でかなりたくさんの量のお土産を買われた方がいました。

ひとりで慣れないレジを打ち、ひとつひとつプレゼント用にリボンを掛けていたら他のお客様がやってきて、列を作って待っています。私は焦ってしまってとにかく早く終わらせようとリボン掛けを続けているところに、上司が帰ってきました。

状況を察知した上司はすぐに商品の梱包を待っているお客様のところへ行き、私が入社したばかりで接客に慣れていないことを説明し、長く待たせているお詫びにマカロンの試食を差し上げました。

そしてそのお客様へ、急いでいるなら同僚の梱包を手伝いすぐ商品をお渡しするけれど、もう少し待って頂ける時間があるなら他のお客様が待っているのでそちらの対応をしたいのだけどどうだろうか、と聞きました。

お客様の方は観光客で急いでもいないので、それでは他の店を見てまた商品を取りにくる、と言って立ち去って行きました。

他のお客様の対応をした後、上司が私にこう説明しました。お客様にいつでもこちらの状況を説明すること。そうすればお客様は不安に思うことはない

この場合、私はとにかく黙って急いで物事を片付けていくことがお客様に対する誠実さだと思いましたが、上司によると黙っているのが一番良くなく、お客様は状況がわからず不安に思うとのことでした。

このようなやり方はフランスという国の成り立ちに影響されているのかと思いました。フランスは多民族国家なので、日本のように空気を読む、ということがありません。常に自分にはどういう意図があり、このようなことをしているかを相手に開示する必要があるためだと思います。

これは娘の保育園での出来事ですが、2歳の娘は手を洗うのが大好きで、水遊びのようにいつまでも手を洗っていることがよくあります。保育園の帰りも、入り口の横にあるトイレでいつまでも手を洗っていて、私がよくそれを怒っていました。

すると園長さんがやってきて、娘を抱き上げると入り口に貼ってある「フランス国内の水の消費量」のグラフを見せて、「ほら、年間こんなに水が無駄に使われているんだよ。水を大事にしないといけないんだよ」と一生懸命説明していました。

私は2歳の子供にそんな表を見せても……とびっくりしました。しかしフランスの子育てを見ていると、年齢に関わらず、とにかく説明することが大事と言われます

この場合も、ただ怒るのではなくどうして水をたくさん使ってはいけないのか娘に説明するべき、という意味だったのでしょう。

子育てでも小さい頃からそうなので、接客では特にこと細かに説明をすることが求められるのだと納得できました。

まとめ

お店

日本人からすると、相手の要求を言葉にせず察してあげるとか、何を言われても黙ってその要求に答えてあげる、というのが良い接客という気がします。

一方、常にこちらの状況を言葉にして説明して納得させ、必要ならば相手と交渉して円滑にサービスをしていく接客方法は、日本とは違いますが移民大国であるフランスらしいやり方だと思います。

フランスでサービスに関わる方は「とにかく言葉にする」ことを参考に接客してみて下さい。

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