日本でも、コンサートホールや劇場でクオリティの高い生演奏を聴ける機会がずいぶん増えてきました。しかし、やはりヨーロッパと比べると、日本でクラシック音楽家としてプロになるのはとても難しいのが現状です。
ヨーロッパでも特に、芸術関連の施設が国からしっかりとしたサポートを受けて機能しているのがドイツです。
クラシック音楽の本場で実力を試してみたい方、国際的に音楽家として働きたい方に向けて、ヨーロッパでオペラ歌手として活動する私がドイツで働くことのメリットをお伝えします。
ドイツの音楽家は公務員として好待遇
ドイツの劇場は全て国公立です。そのため、劇場に正式雇用されて勤務する人はみんな公務員です。市立劇場の場合は市から、州立劇場の場合は州からお給料が支払われます。
そのため、各種保障やうれしい特典もしっかり付いています。例えば、公共交通機関のチケットが割引になる年間パスが支給されたり、外国人局や市庁舎での各種手続きが普通よりスムーズに進んだりします。
劇場を通すと待ち時間が最小に
私たち外国人がドイツで就労する場合、外国人局で労働許可を申請しなければなりません。通常だと長時間待たされるケースが多いのですが、所属する劇場を通せば劇場勤務の外国人を担当している人と直接アポが取れるので、待ち時間は最小限で済みます。
ちなみに私の勤めている劇場では、雇用されている音楽家の半数ほどが外国人です。その中には若干名の日本人も含まれています。
ドイツの音楽家を守る大きな労働組合ネットワーク
※ドイツの歌劇場の代表、バイロイト祝祭劇場。ドイツオペラの巨匠、ワーグナーの作品のためだけに設立・使用
ドイツの劇場に勤務する人の多くは、ドイツ国内全域にネットワークのある労働組合に加入します。代表的なものにVDO(Vereinigung deutscher Opernchoere und Buenentaenzer e.V.)があります。
この組合に加入していれば、会員カードでドイツ国内の劇場全てのチケットが割安になります。先日の私の例を挙げると、ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場で、149ユーロの席が15ユーロで購入できました。
もちろん、労働組合は契約のトラブルなどのときにも力になってくれる頼もしい存在です。
ドイツの音楽家は終身雇用
※バイエルン州立歌劇場内部の様子
ドイツの劇場では、終身雇用制度が今なお存在しています。同じクラシック音楽の本場イタリアやフランスではまずあり得ない制度です。
オペラ歌手、ダンサー、役者などのソロ契約の場合は、勤続15年を迎えると終身雇用契約に切り替わるというルールがあります。合唱、オーケストラ、また音声や大道具などの技術担当は、雇用の時点で終身雇用という場合が大半です。
私たち日本人のような外国人は、最初の2年間、問題なく仕事に従事することができれば終身雇用が保証されます。就労許可とビザは、勤続5年で永住権に切り替えることができます。
ドイツの音楽家は演奏だけで生活していける
日本でクラシック音楽家として生きていこうとすると、舞台に立つだけで生計を立てるのはほぼ不可能です。プロといわれる音楽家たちもみな、学校や自宅で生徒を取って教えたり、全く違う職種の副業をしたりして生活しています。
これは、イタリアやフランスといった近隣諸国でも多く見られるパターンです。
一方、ドイツの劇場に所属すれば、長期契約で毎月決まった額のお給料がもらえます。いつ仕事が途切れるかとドキドキしながら暮らさなくて済むわけです。これは、クラシック音楽に従事する人間にはとても貴重な側面です。
もちろん、充分に生活していけるだけの額が支給され、勤続年数やポジションによって昇給もあり得ます。
ドイツの音楽家にはたくさんの有休と長期休暇がある
※筆者が住むトリーア市のパレス・ガーデン
休みが取りやすいのも、ドイツの劇場に勤務する者にとっての大きなメリットです。例えば、所属している劇場以外で単発の仕事などが入った場合、事前に申請さえすれば問題なく休みを取ることができます。
もちろん、公演がある日は通常より休みにくくはなりますが、どうしても必要な場合は決まった額のお金を払って休暇を取ることができます。特に優先されるのは、オーディションの予定が入った場合です。
クラシック音楽家にとって、オーディションは一生付き合っていかなければいけないもののひとつです。そのため、劇場側の理解も深いので、大事なオーディションが入ったときはみんな遠慮せずに休みを申請します。
夏のロングバケーション
夏には40日ほどのバケーション期間があります。劇場にもよりますが、主に7月中旬から8月下旬までが休みになります。この間は公演もありません。皆それぞれに海外旅行や地元への帰省で羽を伸ばし、次のシーズンに備えます。
夏場にはヨーロッパ各地で野外のオペラフェスティバルなども開催されているので、半分遊んで半分外での仕事を入れるといった有意義な過ごし方もできます。
まとめ~強い気持ちで良い環境を手に入れよう
ご紹介してきたように、クラシック音楽家として働くには、ドイツはとても良い環境です。もちろん、外国人である我々が仕事を得るためにはたくさんの高い壁を乗り越えなければいけません。
ドイツ語の習得やドイツ流の演奏の仕方への適応など、難しい課題はたくさんあります。それでも、クラシック音楽家として働きたいという強い気持ちがあれば、実現は可能です。せっかくなら、良い待遇・環境で音楽を追求したいですよね。
就職活動は気力の勝負です。明確な目標を掲げ、気持ちを強く持って挑戦してください。
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