私はドイツを拠点に活動しているメッゾソプラノです。2011年に本格的にプロのオペラ歌手として歌い始めて以来、イタリア、スイス、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ諸国で主に仕事をしています。
とはいえ、オペラ歌手が実際どんな風に仕事をしているのか想像がつかない方が多いと思います。
そこで、先日無事に初日を迎えたあるプロジェクトの公演当日の私のタイムスケジュールをご紹介します。ドイツの自宅近くにある劇場、いわばホームグラウンドでの公演です。
ドイツ公演当日、11時:起床
※近所の公園も華やぐ季節です。
初日を迎える前1週間ほどは最終稽古期間(ドイツ語でEndeprobe)となるため、毎日夜遅くまで働きます。この日の前夜も帰宅が22時を過ぎていたので、無理にでも11時までは寝ようと思っていました。
8時ごろに一度目が覚めましたが、夜に集中力のピークを迎えなければいけないため、あえて二度寝。
起床後、トーストとカットフルーツだけの簡単な朝食を済ませ、最低限の身だしなみを整えます。
ドイツ公演当日、11時30分:スポーツジムへ
ほぼ毎日、自宅から徒歩7分のスポーツジムに通っています。たっぷり汗をかき、スチームサウナで温まるととてもリラックスできます。
通い始めたきっかけは、身体が資本の職業なので免疫力を高めて丈夫になりたいという思いでした。ダイエットのためではないので、トレーニング量は多くはありません。
マシーンを使った筋トレを15~20分ほどしてから、サイクリングマシーンを30分、約11キロこぎます。10分程度スチームサウナで温まり、シャワーを浴びて身支度を整え帰宅します。
家を出てから帰るまで約2時間です。
ドイツ公演当日、14時:昼食
ジムから帰ったらお昼ごはんを作って食べます。ランチタイムには少し遅めですが、夜に照準を合わせて生活リズムを組み立てるので、あまり早く食べてしまうと上手く一日が回らなくなります。
日本のテレビ番組をネットで見ながら、ゆっくり1時間ほどかけて食べます。
ドイツ公演当日、15時:プレゼント準備とリラックスタイム
ドイツの劇場には、公演初日に甘いものなどの小さなプレゼントを交換して健闘を祈る習慣があります。プレゼントには一筆添えたり、写真を付けたり、それぞれのアイディアが楽しみの一つにもなります。
私は今回、唯一の日本人出演者だったので、折り鶴をチョコレートに添えてプレゼントすることにしました。そのため、膨大な数の折り鶴を用意。数日前から仕事の空き時間を利用して折っていたのですが、この日もまだその作業を続けました。
ドイツ公演当日、17時15分:出勤
※出勤途中に通るパレス・ガーデン。
自宅から劇場までは徒歩15分ほどの道のりですが、この日はプレゼント用のお菓子を買ったり食材の買い出しをしたりするため、少し早めに家を出ました。劇場は中心街を通り抜けた先にあるので、途中で買い物に立ち寄るのに便利なお店はたくさんあります。
18時にメイクルームへ入らなければいけないため、17時50分には劇場に着き、服を脱いでガウンに着替えて準備します。
ドイツ公演当日、18時30分〜19時25分:待ち時間
メイクを終えたら用意してきたプレゼントを配って歩きます。共演者や裏方の人たちとプレゼント交換をするたびにハグを交わし「Toi Toi Toi!」と魔除けのおまじないを耳元でささやき合います。
カタカナにすると「トイトイトイ」ではありますが、実際には「T」の発音だけを3回繰り返すのが一般的です。
プレゼントを配り終えたら発声をしに小部屋へ移動します。20分ほど声を温めた後、楽屋に戻って衣装に着替え、本番開始を待ちます。
※劇場の監守室に住んでいる猫と遊んで時間をつぶすこともあります。
ドイツ公演当日、19時30分:本番開始
ドイツの劇場では比較的時間通りに公演が始まります。この日もほぼ時間ぴったりの開演になりました。
途中、同僚たちとふざけ合いながら写真を撮ったりして出番を待ちます。食事も待ち時間に済ませますが、お腹いっぱいだと肺活量が落ちて歌いづらくなるので腹5分目ほどに控えます。
このプロジェクトでの私の役は、衣装チェンジが3回ほどあります。カツラも取り替えます。いずれも衣装さんとメイクさんが手伝ってくれます。
20分の休憩を1回挟み、およそ3時間で公演終了です。
ドイツ公演当日、22時45分:初日のお祝いパーティー
公演後には、出演者のほか演出家、指揮者、劇場の支配人などのお歴々、オーケストラのメンバー、そして一般客も参加できるパーティーがあります。
今回の舞台では私は顔を真緑に塗られているのでメイク落としに時間がかかり、若干遅れての参加となりました。洋服とアクセサリーだけはパーティー仕様ですが、顔はすっぴんです。
お客さんの生の声を聞けるのが、パーティーに参加することのメリットです。公演直後なので、みなさん少々興奮気味に握手を求めてきてくれます。
ドイツ公演当日、24時:帰宅
私は早々にパーティーを抜け出して帰宅しました。オーケストラメンバーの日本人の子と帰り道が一緒になったので、夜中でも安心して歩けました。
普段は同僚に車で送ってもらうことも多いのですが、この日はこっそり抜け出したため徒歩で帰りました。
まとめ〜舞台は別世界、暮らしぶりはみんなささやか
公演期間中はこんな風に過ぎていきますが、普段のスケジュールはとても不規則で、忙しい時と暇な時の差が大きくなります。
オペラ歌手というと別世界の職業のように思われることが多いですが、蓋を開けてみればみんな普通の、どこにでもいそうな人間ばかりです。
自転車や徒歩で通勤したり、お菓子を食べたり、折り紙を折ったり、スポーツジムに行ったりしてささやかな普通の暮らしをしています。
この記事を読んだ方が、少しでもこの業界に興味を持ってくだされば幸いです。
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