就職活動、それも海外で仕事を見つけるとなると、日本とは違う点がいろいろあると思いますが、私がイタリア・ミラノで見守った知人の就活もなかなか型破りなものでした。
その知人は料理の修行にイタリアに来ていました。当初、彼女はイタリア語がほとんどできず、簡単なあいさつをやっとしゃべれる程度。
そんな彼女がミラノで無事に仕事を見つけるまでを、料理の世界に関しては無知に等しい私がなぜ手伝うことになったのかも交えてご紹介します。
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イタリア・ミラノで就活する料理人A子はこんな人
具体的な就職活動の内容に入る前に、彼女(以下A子)について少しご紹介します。
A子は日本に住んでいた間は、雑誌にも取り上げられたことのある有名なイタリアンのレストランに勤めていました。前菜からドルチェ(デザート)まで一通りの部門は経験し、今回は特にドルチェを勉強したいと思いイタリアに来たと言っていました。
A子がミラノを選んだ理由は、留学経験のある先輩に「せっかくならイタリアのあちこちを回っていろいろなお店に触れるべきだ」とアドバイスされたことと、交通の便がよく住みやすそうだと思ったことです。
イタリア語の勉強は後回し
ただ、冒頭で紹介した通り、彼女はイタリア語がほとんど話せない状態。言葉は働きながら学べばいいと後回しにしてきたのです。「知識として頭に入れたところでただの頭でっかちになるだけだから、現場で生きているコミュニケーションだけを学びたい」と彼女は言っていました。
実はこういった傾向は、技術職の人たちにはありがちなんです。もともと現場と実力の世界だからでしょうか。
お目当ての修行先があるわけでもなく、自分の足で歩いて気に入ったお店を探し、就活するつもりだと話していました。
言葉もしゃべれず、コネもない
このプランを聞いた時、私は正直驚きました。というのは、私はA子の他にも料理関係で留学に来た人たちを知っており、彼らの状況とA子の状況が完全に異なっていたからです。
確かに、イタリア語をあまりしゃべれなくても料理の修行に来る人はたくさんいます。でも、そういう人たちはたいてい先輩知人のつてで就職先が決まっていて、現場に入るだけだったのです。
つまり、最初からイタリア語でうまくコミュニケーションが取れなくても、見よう見まねで作業を覚えられる環境が彼らには用意されていたのです。
彼女のプランにあった私の通訳
しかしA子の場合、お店の人とコミュニケーションが取れなければ先には進めません。この人は一体どうやって就活するんだろうと思っていました。
すると、「空いている時間があればでいいんだけど、しゃべれるようになるまでちょっとリサーチに付いてきて通訳してくれない?」
こう頼まれたのが今回の体験のきっかけです。
イタリアでの幸せすぎるリサーチ、3食ケーキもあり?
こうして始まった私たちの就職活動、まずはどのようなお店があるのか調べなければなりません。
お店のケーキを“ショーケース買い”
街を歩いてPasticceria(パスティッチェリーア:お菓子屋さん)を見つけたらとりあえず入ってみて、まずは目でリサーチ。そして、気になるものがあればすべて買って実際に食べてみるのです。
私が普段ケーキを買ったとしても、1つとか2つのことがほとんど。彼女がショーケースの中のケーキを片っ端から買う姿はなんとも気持ちのいいものでした。
それらをテーブルの上に並べると、もはやデザートビュッフェの気分です。すべてのケーキを半分ずつに切って、2人で分けて食べました。
好きなことを仕事にするにはマイナス面も
いつもこんなに買うのかとA子に尋ねると、「一人の時はやっぱり食べられる限界もあるから、それなりの量しか買わない。今日は2人いるおかげでいろんな種類を試せる」と言っていました。
どうやら私は通訳としてだけではなく、試食数を増やすためにも役立っているようです。
「こんなにケーキを食べられて幸せ!」とA子に言うと、「これが3食続いたり、毎日繰り返したりすることは結構苦しいもんだよ」と返ってきました。
好きなことを仕事にするのは幸せなことだけど、仕事にしてしまうとマイナス面が生まれてしまうとは正にこのことだなあと思いました。
リサーチはミラノの外へ
私は自分の予定もあったので、毎日のようにA子にくっついてお菓子を堪能するわけではありませんでした。
でも、A子はお菓子屋さんだけでなくレストランのデザートメニューも含め、Gambero rosso(ミシュランのようなもの)に載っているお店のお菓子など、気になるものはたくさん食べ歩いていました。
A子がイタリアに来て1〜2カ月過ぎた頃には、ミラノ以外の地域のお店にも足を延ばしてリサーチしていたみたいです。
イタリア・ミラノ就職に向けて次のステップ、履歴書を作成
食べ歩きリサーチの成果もあってか、修行したいお店の候補が絞られてきました。いよいよ就職に向けて準備を始めなければなりません。
そのお店にコネがあるわけでは、もちろんありません。何回も通ったところで、お店からはよく来てくれる常連さんという認識しかされません。
従業員を募集しているかどうかもわかりません。大きなお店であれば、インターネットなどに求人情報が掲載されることもありますが、A子が選んだのはどうやら個人経営のお店でした。
募集しているかどうかは重要でない
まずはコンタクトを取って従業員を募集しているかどうか確認する必要があります。私は電話で聞こうとしましたが、A子に「もし募集していない場合は『募集していません』という回答になるだけだから、直接行って直談判する」と電話を止められました。
A子曰く、正式に募集していなくても大きな会社などではないため、経歴や熱意などに魅力を感じてもらえれば採用されるチャンスがあるとのことでした。さすがは現場主義の世界です。
でも、いくら直談判とは言え、何か素性の分かるものを持っていかなければなりません。
就活にはCurricrum Vitaeが必須
エントリーの必要書類などが案内されているわけではないので、「興味があったら連絡してください」という感じで名刺をポンと渡してくるのもいいかもしれませんが、見ず知らずの外国人が「採用してくれ」と直談判するわけなので、名前と電話番号だけではさすがに弱すぎます。
紹介による就職の場合は、採用が決まってから会社などの書類に必要事項を記入するという流れになることもあります。しかし、それは例外的で、イタリアでも基本的には日本と同じように履歴書(Curricrum Vitae)の提出が先に求められます。
そこで、まずはCurricrum Vitaeを作成することにしました。
イタリアのCurricrum Vitaeの書き方
Curriculum Vitaeと検索すると、EU書式のひな形も調べることができ、フリーダウンロードできるページもあります。ここではCurricrum Vitaeに最低限書かなければならない事項をご紹介します。
- Nome/名前
- Codice Fiscale/個人納税番号(インターネット:http://www.codicefiscaleonline.com/ で番号だけ調べることもできますが、携帯電話の契約手続きなどにも必要になるため、できれば税務署に行ってカード発行の申請を行うことをおすすめします)
- Naizionalità/国籍 Giapponese
- Data di nascita/ il 日(数字) 月(アルファベット)
- Lugo di Nascita/生まれた都市、生まれた国
- Indirizzo(presente)/ 現在住んでいるところの住所
- Terefono/携帯電話の番号
- E‐mail/メールアドレス
- Tipo di Permesso di soggiorno/滞在許可証の種類、Valido fino a(有効期間) 日.月.年
- ESPERIENZE PROFESSIONALI/個人の経歴
- 職業に関して卒業した大学や専門学校
- 職歴
- 今までの賞歴や取った資格など
以上を文章でまとめます。
ミラノでの採用を目指し履歴書を持ってお店へ
履歴書ができあがり、いざ直談判です。電話では断られる可能性が高いからと、ダメもとで直接お店に履歴書を持って行くことにしました。
A子が選んだお店は、ミラノの繁華街からは少し離れた地区のPasticceriaでした。ナポリ菓子を扱っており、リサーチの食べ歩きの時点からA子が大絶賛していたお店です。
中に入ると、まずいつもの通りお客さんとしてお菓子を注文しました。イートインのスペースがあり、お菓子を食べながらお店の人の手が空くのを待ちます。
ひとまず履歴書を受け取ってもらう
日本人が来店するのはめずらしいようで、お店の人もA子のことを覚えていて、「チャオ!また来たね!」と親しげにあいさつしてくれました。
お店の人の手が空き、今だ!と履歴書を出して修業させてほしい旨を伝えると、最初は驚いたようでしたが、一応預かっておくと受け取ってくれました。
基本的にはA子が習いたてのイタリア語で交渉していましたが、私も最後に「もし可能だったら採用可否にかかわらず連絡してあげてほしい」と付け加え、お店を後にしました。
ミラノのお店から連絡が!採用決定
2日後、A子のもとにお店から採用を伝える電話がきました。
A子が持っていたのは語学学校就学用の滞在許可証だったので、その許可証で働ける範囲での採用です。シフト制で週休2日、まずはレジ係からとのことでした。
給料は週ごとにタバコ屋で受け取る
お給料は1週間ごとの支払いです。
イタリアでのお給料の受け取り方は、日本のように銀行振り込み、または手渡しのこともありますが、一番特徴的なのはTabacchi(タバッキ:タバコ屋さん)で受け取るシステムです。
Tabacchiに、雇用先から発行された領収書のようなものを持って行くと現金化することができ、銀行口座がなくても手渡し以外の方法としてお給料を受け取ることができます。ただしTabacchiで一度に支払える金額は限られているため、利用は週ごとの支払いをしている職場や職種に限定されます。
A子が採用されたお店は、このTabcchiを通してお給料を払うシステムでした。
給料受け取りには個人納税番号が必要
なお、イタリアではお給料は税金を引かれた金額が支払われることがほとんどです。その際には上述のCodici Fiscaleの番号が必要になるので、必ず提出しましょう。
A子の実力と日本人であることが採用の決め手
ところで、なぜA子はこのPasticceriaに採用してもらえたのでしょうか。
お店の人曰く、実は特に人手を募集していたわけではなかったけれど、将来的なビジョンとして日本出店に興味を持っていたことが一番の理由でした。これを機会に日本人とつながりが持てると思ったということです。
また、A子はいくつかのスイーツのコンクールで入賞経験がありました。そのことはもちろん履歴書に書いており、その経歴から採用には申し分ないと判断されたようです。
イタリアで就活するならビザの問題は避けて通れない
最後に一つ、注意事項としてA子のある体験をご紹介します。
現場シェフからスカウトされるも……
実は、今回採用されたお店で働く前に、A子にはあるホテルの調理場への就職の話がありました。
イタリアでの仕事の確約は持っていなかったとはいえ、短期で開催される料理イベントのスタッフとしての仕事をもともと紹介されていたのです。そのイベントでの仕事が終わった後、主催のホテルのシェフからスカウトされたのでした。
後日改めて面接したいとのことで約束の日に履歴書を持って面接に行くと、例のシェフが待っていました。そこでは採用のための面接というよりは、もう働くことが決まった前提で「ひと月1,500ユーロ(約19万円)だけどいいか?」というような就業条件の説明をされたそうです。
※1ユーロ=約127円(2018年8月現在)
学生の滞在許可証では採用不可
ところが、就職が決まったと喜び勇んで帰った翌日、今度はホテルの人事部から電話があり、「採用は見送らせていただきます」と言われたそうです。
調理場のトップとは採用に関して合意しているのに、とパニックになったA子から電話を代わり事情を聞くと、どうやら滞在許可証の問題で採用できないということのようでした。
前述した通り、当時A子が持っていた滞在許可証は語学学校就学用のものでした。
彼女は、たとえ調理場で働けたとしても学生アルバイト程度しか稼げないと思っていたこと、また語学学校にも通って働きながら必要な語学力を身につけたいと思っていたことなどから、学生としてのビザで入国していたのでした。
就学用と就職用の厚い壁
もし初めから就職ビザで入国する場合は、ビザ申請時に就職先の確約が必須です。つまり、日本出国時に就職先が決まっていなかったA子は、そもそも就職用のビザを取得することができませんでした。
イタリアには就学用の滞在許可証を就職用に変更する手続きを行える機会が定期的にあります。特に、外国人がイタリアの大学を卒業してそのままイタリアで就職する際などに利用される制度です。
ただそれは、事業者毎に申請できる枠が決まっていて、彼女が就職しようとしたホテルのその時期の枠は埋まっていました。
スキルがあっても法律には抗えない
シェフから提示されていた就業条件では、就学用の滞在許可証の就業規則から大きく反れてしまいます。逆に、その就業規則に合わせて働きたいとも交渉してみましたが、そういった形態では雇っていないと断られました。
現場主義のA子は「シェフは採用を認めた」と、何回もホテルに電話して交渉するよう頼んできました。しかし、法律として決まっている以上は交渉の余地がありませんでした。
ビザによっては希望の仕事に就けないことも
A子は「これだからイタリア人は自由すぎる」と、採用できないにもかかわらず採用決定のような言い方をしたシェフに怒りの矛先を向けていました。
でも、シェフ自身はもしかしたら、A子が持っている滞在許可証の種類をよく確認していなかったのかもしれません。または、手続き関係は事務方、現場はシェフがまとめるというように役割分担がされていたのかもしれません。
どちらにしても、滞在許可証の種類によっては希望の職種に就けないこともあるということを教訓として得られました。
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まとめ〜ビザの問題をクリアして熱意と実力で勝負!
イタリアでも大きな会社になればなるほど、採用情報を見てアポを取り、履歴書提出、そして面接というように、就職決定までの流れは基本的に日本と同様になります。
しかし、どんな方法で採用されたにしても重要視されるのは滞在許可証の種類です。働き方は滞在許可証で決まるので、雇い主側には必ず明確に伝わるようにしましょう。
A子の就職活動は料理人という特別な職種でのものでしたが、こんな風に熱意と実力で仕事を見つけることもイタリアでは可能です。でも、法律で決まっていることはしっかり確認してくださいね。
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