ドイツといえばビール、ソーセージ、ジャガイモといった言葉が出てくるのではないでしょうか。ヨーロッパの先進国でおなじみの国のはずなのに、日本からは遠い異国、どこか現実味がないといったイメージもありそうです。
私は、大学卒業後すぐにそんなドイツへ渡り、今はドイツの企業でパン職人として働いています。
ここでは、ドイツの魅力をもっと知ってもらうために、また今後海外で働きたいと考えている人のために、私が単身ドイツに乗り込んだ理由とその方法をお伝えしようと思います。
※この記事は筆者の体験に基づいています。
行動力と決断力は人生を大きく左右するものだと改めて感じました。思い切って一歩踏み出すのは難しいようでいて、意外となんとかなってしまうものなのだと私も思います。
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ドイツに移住しようと思ったきっかけ
「なぜドイツに行こうと思ったの?」
これは初対面の人に必ずといっていいほど毎回聞かれることです。
両親の影響もあり旅行が好きで、私にとって海外は身近な存在でした。でも、あくまで旅行が趣味なだけで、留学、ましてや海外就職などはまったく考えていませんでした。
ヨーロッパ一人旅でドイツに魅了される
大学時代にたくさんの国を旅し、4年生の冬に1カ月、ヨーロッパを一人で巡った時のことです。
小さい頃からお菓子作りが好きだったのでフランスに強い思い入れがあったのですが、いざ行ってみると物価が高い上、雰囲気などにも心惹かれるところがなく、憧れは打ち砕かれました。
それに比べてドイツは各都市をまわればまわるほど、どの都市も似ているようで独立した文化があると感じました。素朴なケーキやパンはどれも驚くほど安い上においしい!経済的にも先進国なのに、建物など街並みには中世の面影があり、とても感銘を受けました。
何より、外国人の私に道を教えてくれるなど親切な人に助けられる場面が多く、今すぐこの国に移り住みたい!とまで思ったのです。
ドイツに住みたい!内定辞退し移住への道を模索
年末に日本に帰国した後も、ドイツに住みたいという気持ちは一向に変わることはありませんでした。その強い決心を持ったまま、まず当時いただいていた就職内定の辞退を申し出ました。
卒業間際に今後の未来を蹴るという選択はかなり勇気のいるものでしたが、自分の人生にチャレンジしてみようと決断したことで一歩前進しました。
手に職をと考え職業訓練にたどりつく
次に考えるべきことは、一体ドイツで何ができるのか、何をしに行くかです。ドイツ語もまったくできない私にとって、大学で学んだ心理学は言葉の壁の前で一切使えそうにありません。
ならば手に職をつけてからと、長年続けていたパン・お菓子作りを日本でしっかり勉強し習得してから渡独するという道も考えました。
そんな時、ドイツにある職業訓練制度の存在を知ったのです。世界で一番多く種類があるといわれているドイツパン。これを学びぶために本場ドイツで訓練を受けてみようと、目的がはっきり決まりました。
ドイツの職業訓練制度とは
ドイツは手工業の推奨・若者の育成に力を入れており、各分野の職人を輩出することで伝統的な技術や文化を残そうとしています。その取り組みの一つが、職業訓練制度です。
訓練を受けるのに年齢・国籍などの制限はなく、技術を身につければ職人として精肉・車の製造・木靴作り・フラワーアレンジメントなど幅広い分野でさまざまな仕事があります。
大学進学とは異なるもう一つの進路
ドイツでは中学を卒業した16歳前後で、大学を見据えた進学校もしくは職業訓練学校のどちらかを選択します。
訓練学校は日本でいうところの高等専門学校のようなもので、専門的な何かを学ぶのが目的です。親の家業を継ぐ子どもや、手に職をつけ将来職人として働きたい子どもが訓練学校に進みます。
もちろんどちらも途中で進路変更することは可能ですが、学んでいることがまったく違うため、変更する人はほとんどいません。
働きながら学ぶ
この訓練制度は、職業にもよりますが3~4年間続きます。企業で実技を学び、理論や一般教養を週1回通う訓練学校で学びます。
訓練生とはいえ、週5日40時間労働して給料をもらうので、社会に出て自立するという精神面も養っていきます。
給料はその企業が社員に支給する一般額の3分の1程度ですが、企業には訓練生の学費やサポート・指導なども行う義務があります。
試験に合格すればGeselle=職人の称号を獲得
訓練中、学校の成績、企業での勤務態度などの評価が頻繁に行われ、テストは全部で2回あります。訓練期間のちょうど真ん中で一度、そして最後に卒業試験を受けなければなりません。
実技・筆記ともにそれぞれ合格すれば、晴れてドイツ語でGeselle(ゲゼレ)と呼ばれる職人の称号がもらえるのです。この称号は国家資格で、その職業に就く場合は必須です。取得できなければ、訓練の経験があってもただの素人と変わりありません。
2回までの試験不合格は次年度に挑戦できますが、万が一そこで合格できなかった場合には受験資格も剥奪となり、同じ地域では学校に通い直すこともできなくなります。
ドイツで職業訓練を受けるため、いざミュンヘンへ
パン職人になるための方法は分かったものの、まずは職業訓練制度を採用し、なおかつ自分を受け入れてくれるパン屋を探す必要があります。
また、授業や訓練についていくためにはもちろん言葉が理解できなければ話になりません。
ドイツ語習得のため語学学校へ
現地企業である程度大きな会社を日本で探すのは不可能だと思い、大学卒業後の3月にドイツのミュンヘンに渡り、インターネットで探して申し込んだ寮完備の語学学校に通い始めました。
ミュンヘンを選んだのは、ドイツ旅行の際、大都市ながらも首都ベルリンよりどこか温かみのある雰囲気が好きだと感じたからです。
ドイツでは9月が新学期・新年度のスタート。3月から半年で、ある程度ドイツ語の習得をしなければいけません。学生の間はビザの関係でバイトができないので、貯金を使いながら節約し、ひたすら勉強する毎日でした。
語学学校でコネができ、とんとん拍子に
大変な毎日でした。でも、ラッキーなことに語学学校の元生徒さんである日本人の方がパン屋で同じように職業訓練をされているということが分かったんです。こうして、職業訓練を受けるためのパン屋探しはつてもでき、うまい具合に進みました。
つたないドイツ語でしたが履歴書作成や面接などに挑み、オーナーが英語が話せたこと、過去にも日本人を雇ったことがあることなどで親切にされ、快く受け入れてもらえることになりました。
ドイツでパン職人を目指し職業訓練スタート
ところが、いざ9月から職業訓練がスタートしてみると、専門用語ばかり。それまで習ったこともない単語、でもパン作りには欠かせない「イースト」や「発酵」が分からない……。まったく理解できず、苦しい日々が続きました。
高校生の一般教養にあたる授業もあり、ドイツの選挙制度など政治や、数学なども学びます。
しかし、日本語なら簡単な問題でも、質問の意味が分からなければ解くことができません。最初のうちはとにかく語学の習得に力を入れました。
同僚やクラスメイトと助け合う
学校の授業も予習復習に追われる毎日でしたが、同僚やクラスメイトに教えてもらい、助けてもらいながら、チームワークも深まっていきました。実技では日本での製パン基礎技術を習得済みだったので、クラスメイトを私がフォローするなど助け合えたのも良かったです。
職場では同僚と一緒に同じように仕事をします。準備や掃除などは訓練生の仕事です。また、学校の試験前には居残りをして練習などもさせてもらいました。
なお、クラスメイトの受け入れ先のある企業では、練習時の材料費などを一部自己負担させることもあったそうです。受け入れ先を選ぶには待遇などにも注意が必要です。
短期間で合格、Geselle(ゲゼレ)に!
中間試験では成績優秀者に選ばれ、3年間の訓練を半年縮めることができると提案を受けました。早く一人前になりたかった私は期間を短縮して卒業試験を2年目の冬に受け、見事合格してGeselle(ゲゼレ)の資格を得ることができたのです。
合格すると学校や勤め先にも行く必要がなくなるため、これで私の訓練生活は幕を下ろし、新たにパン職人として働く日々が始まりました。
ドイツでパン職人として働く私の仕事内容
パン屋は朝6時に商品を揃えて開店するので、焼き場は夜中にスタートします。23時には生地を計量し、成形したり焼いたりし、掃除を含めて朝10時頃まで働きます。
仕事は完全分業です。作業工程ごとに担当し、手が空いていれば協力し合うものの、基本的には自分の業務のみを行います。オーブン担当であれば毎日その日のパンを全種類焼き続け、慣れも技術もしっかり身についたらプロと呼ばれます。
訓練生の間は、各ポジションの補佐役として1カ月ごとに指導を受けながら、それぞれの作業を教えてもらっていました。これは貴重な研修だったんだと、現場で働くことで気づきました。全体をまんべんなく学べ、また自分がどの部門に適しているのかを知ることもできたからです。
まとめ〜興味と行動力は言葉の壁を越える
何か特別な専門の学問をしていなくとも、興味と行動力さえあれば言葉の壁も越えて海外で就職することは誰にでもできます。
ぼんやりと「海外で働きたいなぁ」と思ったら、どこで何をするのか、明確に目的を見つけましょう!それが、思いや夢をかなえるための第一歩です。
実際に旅行で訪れてみたり、ニュースに目を通したり。また、日本で売っている商品であってもさまざまな国のものに興味を持ってアンテナを張ることをおすすめします。
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