海外で働くというとなんだかかっこいい響きがあり、やりたいことがあってそれに向かっているキラキラしたイメージではないでしょうか。
でも、私はどちらかというと逃げるようにドイツのベルリンにやって来ました。そして、そのまま引きこもってしまうのが怖くて働き始めたのが日本食レストランです。
ワーキングホリデーの働き口として真っ先に挙がることの多い日本食レストラン。海外に行ってまで日本食レストランで働くのは嫌だという声も聞きます。しかし、人生をリセットしてこの仕事を選んだ私の選択は、結果として正解だったなと思います。
日本での仕事を辞めてドイツへ渡るまで
学生時代には塾講師のアルバイト、その後、新卒で民間の教育関連企業に入社しました。アルバイトを含めると合計8年間ずっと教育という軸で仕事をしてきたことになります。
生徒・学生の指導はもちろん、経理・労務・経営補佐などバックオフィスも経験し、高校・大学時代に留学経験もあったので、最終的には留学カウンセラーとして大学の教務課で学生の留学サポートを担当していました。時には翻訳(日英・英日)をし、ポスターやパンフレットを作ることもありました。
とにかく何でも屋でしたが、ずっと一貫して「自分らしく生きることを支えたい」という思いを持って仕事に向き合ってきました。
しかし、その思いとは反対方向に物事が動いていったのです。
理想とズレていく毎日に疑問
営利・非営利問わず、また他の多くの仕事同様に、達成すべき数字(ノルマ)がありました。数字は確かに必要です。でも、「自分らしく生きることを支えたい」という私の思いとは逆で、利益・社会的立場・世間体を最優先した「大人の事情」によるものです。
そして、そんな「大人の事情」の犠牲になるのはいつも生徒たちでした。つまり、暗に「ささいな不安など取るに足りない」「用意された道を外れてはならない」ことを、若い彼らに感じさせることになっていたのです。
このままでは、「自分らしく生きることを支える」こと、そして自分自身も「自分らしく生きる」ことなんてできない。そう思って退職し、教育とは別の手段を探すためにいったん環境をリセットすることを決意しました。
自分らしく生きられる場所を求めてドイツへ
私が「自分らしく生きること」を大切にするようになった原点は、実は移民・難民への関心でした。そして、退職を決意したタイミングで難民受け入れに寛容な姿勢を貫いていたのがドイツだったんです。
ドイツはワーキングホリデーのビザ取得が比較的容易、ベルリンならドイツ語ができなくても英語で生活できる。そんな情報を手にし、旅行ですら訪れたことのないベルリンにワーホリビザを持って渡ったのです。
ドイツの日本食レストランで働くことになった経緯
渡航前は、それまでに経験のあった翻訳を中心に、時間を有効に使いながら生活費を稼いでいこうと思っていました。しかし一方で、ドイツで生活を始めた当初は人や社会とつながることにひどくこだわっていました。
知人・友人が1人もおらず、自室で一日中パソコンと向かい合う生活を続けるのは嫌だ。そう思ったのが、現地で働こうと考え始めたきっかけです。
そんな時に近所の日本食レストランへ入ったところ、雰囲気がとても好みでした。後日、そのレストランが求人していることを知ります。
恥ずかしがり屋で引っ込み思案なところがある私は、不特定多数の人と接する接客業は今まで避けてきました。でも、せっかくのチャンスだと思い、ケルネリン(ウェイトレス)として働いてみることにしたのです。
英語力のおかげで採用も接客は未経験
ドイツ語の学習歴もなく、当初はLöffel(スプーン)やGabel(フォーク)すら分からない状態でのスタートでした。
しかし、お客さまは英語が問題なく通じる方がほとんど。英語から徐々にドイツ語に慣れていってくれれば問題ない、ということで採用していただけました(英語は業務に支障ないレベルです)。
でも、接客に関してはまったくの未経験。正直、向いているのかどうか分かりません。何より、海外の日本食レストランで働くことについてあまり良いうわさを聞かないため、本当にこれでいいのかなと思ったこともありました。
ドイツの日本食レストランでの仕事内容は?
私が働くのは、客席が30ほどのカフェ風のレストランです。お客さまの案内、注文取り、ドリンク作り、サーブ、レジ打ち、電話対応、掃除などを行っています。
手の込んだドリンクメニューが多く、お抹茶をたてたり、フレッシュジュースを絞ったり、日本酒カクテルを作ったりと大忙しです。その合間に注文を取り、でき上がったメニューを席まで運びます。
これを1人で、混雑する時間帯は2人で回さなければいけません。体力も必要ですが、うまく段取りをつけてスムーズに対応することが求められる仕事です。
日本についての会話をすることも
時間がある時にはお客さまとの会話もでき、日本について聞かれることもたまにあります。どちらかといえば、お客さまの「日本の〇〇に行ったことがあってね〜」というお話の聞き手になることが多いです。
このレストランはドイツ人にとって、日本の話ができる貴重な場としての役割もあるのだと思います。
ドイツの日本食レストランで働いてよかったこと
所得税がかからず生活にも困らない
おいしい賄いが食べられること、所得税がかからない月上限額450ユーロ(約53,000円)で働ける=ミニジョブであること、加えてチップをいただけること。これは、日本食レストランならではのメリットです。
ベルリンの物価の安さもあり、月50時間勤務のこの仕事だけで家賃と食費はカバーできます。毎月安定して働けるので、最低限の生活が保障されるという意味でも安心です。
※1ユーロ=約117円(2017年4月)
ドイツの文化に触れられ刺激がある
日本食レストランといっても、ドイツの会社でお客さまもドイツ人が大半。ドイツの風習や考え方など新たに得られる知識がたくさんあり、とても刺激的です。
例えば、こちらでも人気の「みそ汁」。日本ではご飯と一緒に食べますが、ドイツでは前菜としていただきます。
また、日本の飲み会のように大勢で集まる場合でも、適当に数品頼んでシェア・割り勘ではありません。それぞれが食べたいものを注文し、お会計も自分の注文したものを払うという個人主義スタイルにも驚きました。
よかったことナンバーワンは「人との出会い」
日本では出会えないような人たちに出会える、これが一番よかったことです。日本にいたら出会わなかったであろう日本人ともつながることができました。
ドイツ人オーナーのもと、現場で働くスタッフはほぼ日本人で、画家・記者・音楽家・プロサッカー選手を目指す人などバックグラウンドが実にさまざまな人たちの集まりです。
生計を立てる目的で、偶然にもここで一緒に働くことになった人たち。ふとした瞬間に、それぞれの想いに触れることができたことも貴重でした。
どんな仕事にも意味はある
私はこれまで、ライスワーク(食べるための仕事)ではなくライフワークで生きていきたいと思っていました。きっとこれが、一瞬とはいえ、日本食レストランで働くことを躊躇した理由です。
でも、彼らと出会い、ライフワークを支えるためのライスワークなんだなと思うようになりました。
ドイツで働くために準備しておくべきこと
到着後の手続き
ドイツで働くなら、仕事探しの前に住民登録を済ませておくことが必要です。住民登録がないと銀行口座が開設できず、お給料がもらえません。
また、レストランで働きたい場合は衛生局で30分程度の衛生研修を受け、「ローテカルテ」と呼ばれる証明書を入手しなければなりません(ローテカルテの取得にも住民登録が必須です)。
就労ビザ、まずはワーホリがおすすめ
ドイツ語がまったくできない、接客未経験という私でも雇っていただけたのは、ワーキングホリデービザを持っていたからだと思います。私は以前、アメリカで働こうとしましたがビザの関係で断念した経験があります。就労OKビザは海外で働く上で必須です。
ドイツの場合、30歳まではワーキングホリデービザを申請する資格があります(申請時に31歳になっていないことが条件です)。
- 参考:ドイツ連邦共和国大使館・総領事館 http://www.japan.diplo.de/wh
もしあなたが30歳以下の場合、まずはワーキングホリデービザが使えるうちにドイツへ行けるよう計画を立てることをおすすめします。ワーキングホリデー中に実績や経験が認められて、雇用主にビザスポンサーとなってもらえる可能性につながるからです。
まとめ〜チャレンジしてみなければ分からないことがある
せっかくドイツまで来たのだから、もっとドイツらしい職場を……という気持ちはもちろんありました。でも、人や社会との接点がほしくて日本食レストランで約8カ月働いてみて、今ではとても満足しています。
今後は違う道に進む予定ですが、その方向に光を見つけることができたのは日本食レストランで働いてみたからです。
せっかくなら、目の前のチャンスにチャレンジしてみるのもいい経験です。今まで知らなかった自分に出会えるかもしれません。
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