「もうすぐ30歳。日本で自分なりにキャリアアップをしてきたし、今の状況も悪くないけど、一度海外で自分を試してみたい。だけど見知らぬ土地に行って、果たして自分はやっていけるだろうか……」
そんなことをお考えの方は、意外と多いのではないでしょうか。
私もドイツへ出発する前は同じように思っていました。でも、何事もやってみなければわかりません。私のドイツでの仕事経験をお話しすることで、そのような不安が少しでも取り除ければうれしいです。
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ドイツで働く前に日本でしていた仕事
経理職を10年
私は、日本の地元企業で10年ほど働いていました。所属は経理課です。10年も働けば、経理の仕事は一通りできるようになります。
伝票入力から決算までできるようになった後、いつしか「どこか全然違う場所に行ってステップアップしたい」という気持ちが湧いてきて、退職を決意しました。1999年のことです。
日本とは違う環境で自分を試したい
当時、日本ではまだ終身雇用が当たり前で、キャリアアップのための再就職は今ほどチャンスがありませんでした。そして私の仕事のスキルや学歴は、ごくごく平凡で特別なものではありません。
そんな状況の中、どうせなら「一度日本とは全然違う国で、自分がどこまでできるか試したい」という気持ちが強くなったのです。
「もし海外でダメでも日本に戻ってきて経理の仕事を探せば、何かは見つかるだろう」自分の中でそう思えるようになったことも、海外に行くという気持ちを後押ししてくれました。
ドイツを転職先に選んだ理由
環境をガラッと変えるにはアジア圏外
私の目的は海外で働くことではなく「できるだけ日本と違う環境に行って自分の限界を試す」こと。だから候補地はアジア圏でないところが希望でした。
また、せっかくなので学生時代に習った英語を使う国ではなく、まったく違う言語の国に行きたいという思いもありました。それでヨーロッパが候補になったのです。
実際にヨーロッパ諸国を旅し、「ドイツなら長期間住める」と感じたのが決め手です。
その国を好きかどうかが重要
町の雰囲気や物価などの情報ももちろん助けにはなります。でも、最終的な決め手は理屈ではなく「自分はここが好き」という直感的なところだったので、説明するのはなかなか難しいです。
あこがれてやって来た国でも、実際にはどうしても性に合わなくて病気になったり、帰国してしまったりする人がいるのも事実です。海外転職を検討している人は、決定する前に、試しに候補地に行ってみることをおすすめします。
ドイツで大学を卒業し、就職活動を始める
海外で働くことが目標ではなかったので、まずは南ドイツの大学町に語学学校生ビザで入国しました。2000年のことです。
そして、語学学校でドイツ語を勉強してドイツの大学に入学、学士・修士課程を卒業し、仕事を探し始めます。
2009年に卒業後、そのまま大学で短期の助手としてアルバイトをしながら一般企業のフルタイム職を探しました。希望の職種は日本で経験のある経理、そしてドイツ語と日本語の翻訳・通訳などの事務系です。
ドイツの日系商工会議所に登録したり、ドイツの日系サイトなどを見ながら何社か面接に行きました。
ドイツ就活で苦労した点は「英語力不足」
ドイツの大学卒業後、仕事を探し始めてから北ドイツのある企業に就職が決まるまで10カ月ほどかかりました。一番のネックは、英語力の不足でした。
日系企業の社内共通語はやはり英語
私の強みは「日本語・ドイツ語ができること」と「日本での経理の知識」。この2点なので、日系企業か、ドイツ系で日本との取引がある企業でないと自分の強みが生かせません。
でも日系企業だと、日本からの駐在員はドイツ語ができず、ドイツ人との共通言語は英語です。ドイツ人と日本人と個々に話すときはドイツ語・日本語でいいのですが、共通の会議となるとやはり英語が必要になります。
私はドイツの大学を卒業したので、ドイツ語はもちろんビジネスレベルです。しかし、英語はせいぜい中級レベルでなかなか厳しいものがありました。
ドイツ語に加えて英語ができれば無敵
ドイツで働くなら、ドイツ人同僚の本音を感覚的にすばやく理解するためにもドイツ語習得は必須です。でも、会社の規模が大きく、インターナショナルになるとやはり英語のスキルも必要になってきます。
実際、ドイツで3か国語をビジネスレベルで話せる日本人はとても少ないです。ドイツ滞在の長い日本人はドイツ語習得に時間がかかるので、どうしても英語力は弱くなります。
逆に、日本人駐在員は最低限のビジネス英語はマスターしていますが、ドイツ語はできません。
ということはつまり、ドイツ語も英語もでき、加えて日本での社会人経験がある人材は引く手あまた。就職にはまったく困りません。
ドイツの日系ベンチャー企業に就職
お互いの条件が見事に合致
確かに、英語以外を公用語とする国での日本人の就職はなかなか難しいものです。でも、企業のニーズにピタッとはまれば、他の人が真似できないベストマッチを生みます。
2010年、10カ月の就職活動を経て、私は北ドイツの日系ベンチャー企業に就職しました。自作パソコンのパーツの開発・販売をする会社です。
当時その会社は日本人社長がドイツに着任する予定で、その社長の秘書兼ドイツ語の通訳として、会計の知識もある日本人を探していたのです。しかも、その社長は日本語と英語のバイリンガルなので、英語の通訳は必要ありませんでした。
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初仕事は社長のビザ申請代行
社長以外、社員は全員ローカル。新入社員である私の労働ビザの取り方も分からなかったので、自分で自分の労働ビザの手配をしました。
そして、新しい社長の労働ビザ取得が私の初仕事となります。社長以外に日本人がいないので、会社の共通語はドイツ語だったのも幸いでした。
自分の持っているスキルと、会社から求められているものがピッタリ合い、働いていて楽しかったです。10年というブランクを経て、久しぶりに社会に復活できたのも新鮮で楽しく、バリバリ働きました。
給与も最初は平均的なものでしたが、最初の数年でどんどん上がっていきました。
なんと社内ベンチャーも提案
さらには、自ら提案して一人で社内ベンチャーまで立ち上げてしまいました。IT関連の会社なのに、なんと異業種の飲食業です。
ベンチャー企業で自由な社風だったので、好きなようにやっていいと許可をもらい、知識もないまま意欲だけで始めました。
それまでの仕事が減るわけではないので、もちろん業務は増える一方です。しかも、成功する保証などない状況でよく始めたと自分でも思います。でも、自分のアイデアで、そしてそれが絶対にいいアイデアだという自信を持って楽しくやっていたので、仕事だと感じていませんでした。
街に初のラーメン店を開業
問題が山積みで数年間かかりましたが、180万人が住む北ドイツのハンザ都市に初のラーメン店を開業することに成功します。2015年の3月でした。
おかげさまで、行列のできる店へと成長しました。
※ハンザ都市:中世後期に北海とその周辺で発生した、商業的に栄え法的自治権を持つ都市。
ドイツの日系ベンチャー企業で一般社員から代表に
ラーメン店を開業しただけではなく、2015年の1月から私は会社の代表にもなりました。2010年に私の入社のきっかけを作った日本から来た社長が、5年経って日本に戻ることになったのです。
入社したときには、まさか自分の発案でこの都市で初めてのラーメン店を開業するとは思いもせず、しかも会社の社長になるとは想像したこともありませんでした。
望む望まないに関わらず、自然な流れで成るように成るものなのですね。
社長として心がけたこと、気づいたこと
会社が未来へ向けて常に前進を目指す以上、完ぺきな状態というのはありません。常に前進あるのみ、代表就任後もそれまで通り、自分のできる限りのことをやっていきました。
そして、4年間その会社で働いていたのに、まるで違う会社かと思うほど新しい気付きがありました。
会社の大小に関係なく、社長は本当にすべての代表だということ。最終意思決定者であり、トラブルはじめすべての責任者であること。意思決定の過程には助言はあっても、決定する瞬間はひとりで孤独であること。知識として知っていることと、当事者になることの違いの大きさ。
これらの経験は、例え望んだとしても決して誰もができることではありません。
退職し次のステップへ
そして3年たった2017年の末、私はその会社を退職しました。また次のステップに行く時期だという気持ちが強くなったのです。
決めるまではもちろん悩みました。しかし、決めた後はすぐさま社内の調整をし書類関係を整え、無事に会社を次世代に引き渡すことができました。 あっという間の7年でした。
これから先のことに不安がまったくないわけではありません。でも、ドイツに来た当初と同じ気持ちで、楽しみながら新しいステップを踏み出しています。
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ドイツの求人状況は絶えず変化しているため、時期により求人数や条件が異なります。
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まとめ〜海外就職で大切なのは「最初の一歩」
目の前のことを一生懸命やっているうちに、いつの間にか長い年月が過ぎていました。
私は決して最初から、ドイツで大学を卒業して、就職して社内ベンチャーを立ち上げて社長になる、と決めていたわけではありません。最初からラーメン店を経営したいと思っていたとしたら、決してITの会社には入らなかったでしょう。
新しい経験を積んで、日本では会うはずのなかった人たちと知り合い、視野も広がりました。ドイツに来てよかったと心から思います。
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