私はフィリピンに住んでいたころ、日系企業で通訳として働いていたことがあります。
陽気で明るいフィリピン人たちと遊びに行ったり、おしゃべりをしたりすることはとても楽しいです。ただし、仕事となると話は別です。
特に、日系企業など日本人とフィリピン人が同じ現場で働いているところでは、考え方や価値観の違いが衝突します。通訳として日本人上司とフィリピン人部下の間に立つと、言語を訳すだけでは乗り越えられない壁にぶつかるのです。
私が目撃した、フィリピン人と日本人の考え方の違いを示すいくつかのエピソードをご紹介します。
最初に決めるべき年間スケジュールはクリスマス会
携帯電話の部品を製造する某会社で、年間スケジュールを決める大きな会議が開かれていました。各部門のマネージャーたちが集まって1年の仕事の流れを話し合います。
最初にホワイトボードに書かれたもの、それはなんと「クリスマス会」。カレンダーの12月20日に大きな赤い丸がつけられました。
これをベースに発注や納期のスケジュールを立てていくのです。クリスマス会にかぶってしまうことは絶対に許されません。
その日に向けて仕事以上に力を注ぐ
キリスト教の国なのでクリスマスが大切なことはよくわかりますが、子どもじゃないんだし、クリスマス会はそんなに大事なのかしらと首をかしげてしまいます。
しかし、彼らはこのクリスマス会の余興に大変な労力を注ぎ込みます。仕事以上と言っても過言じゃありません。歌も踊りもプロ並み、音響や衣装も本格的で、その完成度には驚かされます。
日本の宴会芸とはわけが違うのです。
フィリピン人は責任を転嫁する
「すみません。これは私の責任です」や「Aさんの間違いは、私の言い方が悪くてちゃんと伝わっていなかったのかもしれません」のように、自分の責任を認めること、相手の間違いでも自分にも非があると考えることは、日本社会ではよくあることです。
しかし、フィリピンではこんな言葉を聞くことは滅多にありません。たいてい「私のせいじゃない」から始まって、あれが悪いこれが悪いと責任転嫁し、言い訳が延々と続きます。
ただ、フィリピン人をかばうわけではありませんが、日本人のようにこんなにもみんなが「自分の責任だ」と考える文化の方が世界では少ないと思います。
文化の違いが生む状況の悪化
責任を追及する日本人上司と責任を転嫁するフィリピン人部下の間に挟まれると、それはそれは大変です。「一言謝れば許そう」と思っている上司に対し、フィリピン人部下はとうとうと言い訳し続けます。
火に油を注ぎ続けられて日本人上司の怒りはピークに達し、最後にはフィリピン人部下を怒鳴りつける日本人もいます。
こんなやり取りを通訳した夜には必ず熱を出しました。
フィリピン人は人前で怒られるのを嫌う
フィリピン人部下の言い訳に辟易した日本人上司は、頭にきて部下を怒鳴りつけます。しかし、実はこれはフィリピンで一番やってはいけないことです。
フィリピン人は人前で恥をかかされることを何よりも嫌います。恥をかかされたことに逆上して、日本人上司が襲われたり、刺されたりしたこともあります。
叱る時は個室に呼び出して、冷静に、諭すように話すことが大切です。決して怒りに任せて怒鳴ってはいけません。しかし、実際はそううまくいかず、状況が悪化することの方が多かったです。
この時もそうでした。
怒りが伝わらないのは通訳のせい?
日本人上司が怒鳴れば怒鳴るほど、フィリピン人部下は周りから叱られているように見られたくないため、円満に話し合っていることを強調したいのかニコニコしながら上司の顔を見ているのです。
怒り狂う上司は「このばかやろう!口ばっかでちっとも使えない、この能無しが!ってそのまま通訳して」と私に言うのです。本当に嫌な役割です。
後で刺されたくないので、言葉の角を取って、少々丸くしてフィリピン人部下に伝えました。それでも部下は怒る上司の前でヘラヘラしています。
そして、とどめの言葉がこれでした。
「通訳の言ってること、全然伝わってないんじゃないの!?」
もちろん、この晩も熱を出したことは言うまでもありません。
フィリピン人は台風の日は会社を休む
フィリピンには大きな台風が直撃して甚大な被害が出ることがよくあります。
日本人駐在員は台風情報に気をつけ、早めに家を出たり、水没地域を避けて会社に行くルートを考えたりといつも通り出勤し、仕事に滞りがないよう抜かりありません。
無理して出勤するのは日本人のみ
多くの日系企業は町の中心から車で1時間以上離れた工業団地にあります。
バケツをひっくり返すような雨の中、道はぬかるみ、ひどいところでは深さ1メートル以上の洪水になっています。通勤途中に車が止まってしまったり、水が車の中に流れ込んだりすることもあります。
それでも駐在員たちは会社に向かいます。
ところが、ある駐在員がやっとのことで会社に着くと、そこには日本人社員が2人しかいませんでした。2,000人のフィリピン従業員は誰も来なかったのです。
フィリピン人にとっては、そんな日に会社に行くなんてありえないことなのでしょう。
フィリピン人は家族が一番
フィリピン人は家族の絆がとても強く、何よりも大切にしています。友達との先約があっても、家族との用事が入れば必ず家族の方を優先します。
そこを責めると、信じられないという顔をされます。家族を優先して当然なのです。
会社においても、妻や子どもが熱を出せば休んだり、早引きしたりするのは当たり前です。家族を放って仕事に行く方がフィリピン人にとってはおかしいことです。
日本の会社では、家族の誰かが病気でも簡単に休むことはできません。休めても、誰かに迷惑がかかるとか、仕事が遅れるとか、後ろめたい気持ちがあります。
フィリピンのように、日本ももう少し家族優先に休みが取れたらいいなあと考えさせられました。
日本の価値観が絶対ではないことを理解する
国が違えば文化も習慣も違います。そこで培われた考え方や価値観を変えることは簡単ではありません。
フィリピン人はフレンドリーで親しみやすく、日本人がカタコトの英語で話してもそれなりに通じることが多いため、ついお互い理解し合っているような気になります。
でも、実際にはこんなにも価値観が違うので、「どうして当たり前のことができないんだ!?」という怒りにつながります。
これまで自分が信じてきた価値観を変える必要はないと思います。しかし、価値観は一つではないということを受け入れそれを尊重しない限り、フィリピン人と関係を築くことは難しいでしょう。
まとめ~忍耐もいつか報われる
1年目は怒ってばかりいた駐在員の方も、2年目、3年目になるにつれてどんどん気が長くなっていきます。ちょっとやそっとのことでは驚かず、怒っても状況は良くならないことに気づくため、だんだん怒らなくなるのです。
ここにたどり着いた人は、フィリピン人とうまく関係を築き、フィリピン生活を楽しめるのではないでしょうか。
私も日本人とフィリピン人に挟まれ忍耐の毎日でしたが、徐々に歩み寄っていって最後は仲良くなった彼らを見ると、ぶつかったことも無駄ではなかったなと思えるのでした。
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