日本に比べて物価が安く、年金が非課税対象になるマレーシアは、日本人の退職後の移住先として非常に人気のある国です。世界のロングステイ先に選ばれる滞在国ランキングでも、10年連続でトップをキープしています。
また、住民税や健康保険税などの徴収がなく、日本とは税金制度が大きく異なる国です。今回は、マレーシアで生活するうえで、知っておくとよい税金事情について紹介します。
マレーシアの個人所得税
マレーシアで働いていて年間収入を5,000リンギット(約13万円)以上得ている人は、所得に応じた個人所得税を支払う義務があります。累進課税制で、年間所得額によって1~28%の税率がかかってきます。
就労ビザ(EP)取得条件は月額給与5,000リンギット以上
外国人の場合は就労ビザ(EP)を取得する条件として、月額給与が5,000リンギット(約13万円)以上である必要があるので、単純計算で年間所得額は60,000リンギット(約156万円)以上となります。
そのため、個人所得税を支払う義務が発生します。
最高税率は28%
2016年度より適用されている税率では、年間所得額が60,000リンギット(約156万円)~1,000,000リンギット(約260万円)までが26%、1,000,000リンギット以上で最高税率の28%の個人所得税が課せられます。
日本における所得税率は、年間所得額が195万円以下で5%、195万円~330万円で10%(控除額の97,500円が適用される)なので、同額の場合、個人所得税だけ見ればマレーシアの方が高税率になります。
居住者と非居住者で異なるシステム
また、マレーシアでは給与にかかってくる所得税の税率が、居住者と非居住者で大きく変わってくるシステムになっています。
マレーシアに6ヶ月以上滞在した履歴があれば居住者とみなされ、マレーシア人と同じ税率が適用されます。非居住者の場合は最高税率の28%がかかってきますので、赴任してから6ヶ月間は手取り金額が少なくなります。
マレーシアにも確定申告がある
一旦、居住者とみなされれば、非居住者として納税していた分も遡って還付してもらえます。確定申告をすれば、この還付を受けることができます。
毎月の給料から引かれる税金は月額給与に基づいた税率なので、ボーナスやコミッションがあれば居住2年目以降も確定申告は必要になります。
確定申告の手続きは、日系企業では会社で一括して申請してくれる場合が多く、筆者の会社でも時期になると弁護士が書類を用意して持って来てくれます。
一方、現地企業や外資系企業では自分で申告するケースが多いようです。マレーシアでは日本のe-Taxのようにオンラインで確定申告できるシステムがあり、外資系企業で働いている知人は毎年、自分で申請していると言っていました。
マレーシア財務省(内国歳入)
- InlandRevenue Board of Malaysia(LembagaHasil Dalam Negeri:LHDN)
- HP:http://www.hasil.gov.my/
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マレーシアの道路税
マレーシアのロードタックス
日本で車を所有していると自動車税を払う必要がありますが、マレーシアではRoad Tax(ロードタックス)と呼ばれる道路税が課せられます。車の排気量や車種、登録地域や個人所有か会社所有かによっても金額が変わります。
道路税は毎年支払う必要があり、納付すると車のフロントガラスに貼り付けるステッカーをもらえます。マレーシアの道路を走っていて時々遭遇する検問では、大抵この道路税の納付有無をチェックしています。
庶民に優しい税制を打ち出しているマレーシアでは、小型乗用車の道路税が非常に安いのが特徴です。
排気量1000 cc以下の一般車両(営業車、SUV、ピックアップトラック以外)だと、個人所有か会社所有に関わらず、年間に支払う税金は20リンギット(約520円)と、日本では信じられないくらいの低コストで維持できます。
筆者が会社から貸与されている車も排気量998 ccの小型乗用車ですが、エンジンは日本のダイハツ製で、普段の通勤や生活には十分なスペックです。
マレーシアで車の購入を検討する際は、道路税を算出するサイトを使って税額を調べるといいかも知れません。
ロードタックス・カルキュレーター
マレーシアの消費税
2015年4月1日より、日本の消費税に相当するサービス税(GST:Goods and Service Tax)が導入され、日常生活での買い物やサービスの利用で、一律6%の税金がかかるようになりました。
しかし、日本のようにすべての商品やサービスが課税対象になるわけではありません。
生活に必要な食料品(米、小麦粉、卵、食肉、野菜、果物、塩、砂糖、食用油)や公共料金(電気、水道)にはゼロ利率(Zero Rate:ゼロレート)が適用され、公共輸送(モノレール、バス、タクシーや高速道路料金)や教育、医療は課税対象外となっています。
個人消費者はガソリンについてもGST適用外です。
更に、ガソリンや液化石油ガス(LPG)の燃料、食用油や小麦粉、砂糖の物品については政府が価格調整をしているため、安定した供給が約束されており、庶民にとって生活しやすい環境といえます。
筆者はGST導入時、既にマレーシアへ渡っていました。3月31日までの駆け込み需要が高まり、4月に入ってしばらくは、どのショッピングセンターも閑散としていたのをよく覚えています。
また、ゼロ利率が適用されているはずの屋台などでも、一斉に便乗値上げをしていたのが印象的でした。
マレーシア税関(GST専用サイト)
マレーシアの物品税
マレーシアにはアルコールやたばこ類、トランプや麻雀牌、自動車などの特定のものにかかる物品税(Excise Duty:エクサイズ・デューティー)があります。
対象物品によって税率が違いますが、特に自動車にかかる物品税は、排気量に応じて75%~105%と高税率になっています。
この物品税とは別にGSTが6%かかり、輸入車は更に30%のImport Duty(インポート・デューティー:輸入税)がかかってきます。
マレーシアで日本車を購入すると税金に苦しむ?
そのため、トヨタやホンダなどの日本車購入時は、相当税金を持っていかれると覚悟を決めなければなりません。
道路税が安いので維持費は抑えられますが、車の購入を検討する際は頭金を用意し、銀行のローンなどを利用するのもひとつの手です。
また、酒税やたばこ税などは、世界の多くの国が取り入れているので馴染みがありましたが、トランプや麻雀牌にかかる税金とは、賭け事を禁止するイスラム教を国教としているマレーシアらしい課税対象だと思います。
同じくアルコール類もイスラム教では禁忌とされている品目で、お酒にかかる税率は世界で3番目に高いなど、日本に比べて高税率になっています。
アルコール度数に応じて税率も高くなるので、ウォッカやウィスキーなどのハードリカーは割高になります。
今後上がる予定の税金
2017年12月からは、マレーシア国内で生産されているアルコール類にかかる税率が大幅に値上げされることが決まっています。
今までは1リットルあたり24リンギット(約624円)だった税額が、同じ量で60リンギット(約1,560円)にまで跳ね上がります。
ちなみに筆者はワインを好んで飲むのですが、ワインは輸入品しかないため物品税に加えて輸入税もかかり、現行の税率でも50リンギット(約1,300円)以下のボトルは手に入りません。
少しでも安いものを手に入れようと、旅行で空港を利用するときは必ず免税店に立ち寄ることにしています。
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マレーシアの固定資産税
マレーシアの固定資産税は2種類に分かれており、土地自体にかかってくるQuit Rent(クイット・レント)と建物にかかってくるAssessment Tax(アセスメント・タックス)があります。
物件の所在する地域(州や都市、商業地か住宅地)によって税額は変わり、Quit Rentは天然資源環境省に収め、Assessment Taxは地域管轄の市議会Majlis Perbandaran(マジリス・ペルバンダラン、英: Municipal Council)に収めます。
マレーシアで一般的な3LDKのコンドミニアム(広さ約100平方メートル)で、Quit RentとAssessment Taxを合わせた年間税額の目安は1,000リンギット(約26,000円)程度で、日本の固定資産税に比べると割安です。
また、マレーシアでは不動産を売却した場合、不動産譲渡益税(Real Property Gains Tax:RPGT)が課せられます。購入額より販売額が上回った場合、その差額が課税対象となります。
外国人が不動産を売る際、購入から5年の間での売却は30%の税率がかかりますが、不動産取得から6年を過ぎると、税率は5%にまで下がります。
そのため、不動産価格が上昇傾向にあるマレーシアでは、近年、投資を目的として不動産を購入し、6年目以降に売却する日本人も増えてきています。
マレーシア天然資源環境省
- Ministryof Natural Resources and Environment
- HP:https://www.jkptg.gov.my/
マレーシアの印紙税
不動産を購入せず賃貸物件で契約する場合でも、住宅に関連する税金としてStamp Duty(スタンプ・デューティー:印紙税)の徴収があります。
印紙税は特定の契約書など、証書や文書を交わす際に発生し、Tenancy Agreement(賃貸借契約書)もその対象となります。
税率は証書や文書の種類によって異なりますが、Tenancy Agreementの場合は1ヶ月の家賃額や貸借期間によって変動する仕組みです。
筆者が部屋を借りるために賃貸契約を結んだときは、1ヶ月の家賃が1,800リンギット(約46,800円)、契約期間1年、部数が貸主分と借主分の2部で、100リンギット(約2,600円)弱のStamp Dutyが発生しました。
Tenancy Agreementにかかる印紙税を計算してくれるサイトがあるので、部屋を借りる際は参考にしてみてください。
マレーシアの免税特区と租税回避地
免税特区
マレーシアには免税特区があり、ケダ州のランカウイ島、パハン州のティオマン島、連邦直轄領のラブアン島の3島では、さまざまな物品にかかる税金が免除されています。
海が綺麗でダイビングスポットが豊富にあることから、観光客に人気のリゾート地でもあります。
アルコールやたばこ、化粧品やチョコレートなども空港の免税店と同じ価格で購入できます。クアラルンプールからランカウイやラブアンまでは、マレーシア航空やエアアジアの直行便も多く出ています。
ランカウイ島までなら片道1時間のフライトが、50リンギット(約1,300円)で行ける時期もあります。ラブアン島へは片道2時間半くらいかかりますが、100リンギット(約2,600円)程度で行けます。
ティオマン島へは、クアラルンプールからの定期便が休止されてしまったため、陸路とフェリーで行くか、バスと船を乗り継いで約6時間かけて行く必要があります。
ウィスキー好きな友人は、月に一度ランカウイに行っていますが、2016年11月より免税特区での免税品の購入制限が適用されました。
1ヶ月に買える量が決まっており、たばこ600本(旅行者は400本)、ハードリカーは5リットル、ビールは72本までとなっています。
原則的に持ち出しは禁止されており、島内で買ったものは島内で消費する仕組みです。観光客の場合は2品目までは持ち出すことが可能で、ウィスキー1本とタバコ1カートンなどを組み合わせてお土産として持ち帰れます。
購入制限がなかった頃は、ジンやウォッカなどの透明なハードリカーをペットボトルなどに移し替えて持ち出し、本土で詰め直して売りさばくなど、悪質な密輸が横行していました。
飛行機にはペットボトルを持ち込めないため、船を使っての持ち出しがほとんどで、空港よりも港の方が厳しい検査が行われています。
租税回避地
ラブアン島には1990年にマレーシア政府が設立した、ラブアン・オフショア金融サービスセンター(LOFSA:Labuan Offshore Financial Services Authority)があり、香港やシンガポールに次ぐ、アジアのタックスヘイブン(租税回避地)として多くの法人が集まっています。
マレーシア国内で会社を設立する場合は、マレーシアの現地法人を設立する必要があります。
しかし、マレーシア向けに特定したビジネスではなく、取引通貨としてリンギットを使わないで済むビジネスならば、ラブアン島でラブアン法人を設立することができます。
最低資本金の制限がなく1USドルで設立可能で、Non-trading company(非商事会社)であれば法人税はかからず、会計監査が必要ないなど、簡単に法人設立ができます。
商社や貿易会社などのTrading Companyの場合は法人税が発生しますが、その税率は3%か定額20,000リンギット(約52万円)を選べます。
マレーシア現地法人の法人税は24%で、日本における法人税が30%近いことを考えると、3%の法人税というだけでも非常に安いことがわかります。
また、定額20,000リンギットを支払っている法人には、会計監査が必要ないことにも驚きです。
更に、取締役と株主が同一人物でもよく、マレーシアに住んでいなくても問題ないので、外国人が法人設立するには都合の良い条件が揃っています。取引通貨はUSドルになるので、為替レートの影響は多少受けやすいといえるでしょう。
アフェリエイターやブロガーなどのインターネットビジネスや、マレーシア国外のクライアントをターゲットとするコンサルティング会社などは一番恩恵を受けられるビジネスといえます。
筆者の職場にも副業でアフィリエイト・ビジネスをやっている日本人がいて、ラブアン島にレンタルオフィスを借りて、事実上のペーパーカンパニーを持っていると話していました。
彼のコンドミニアムの駐車スペースには、会社貸与のプロドゥア(マレーシアの国産車)以外にベンツの最新クラスも並んでおり、気になってどうしたのか聞いたら「そこそこ儲かっている」と言っていました。
その他の税金
冒頭で触れたように、マレーシアでは年金所得が課税対象にならないことから、リタイアしたシニア世代には人気の移住先です。
また、相続税や贈与税がないので、親の遺産や不動産を相続するときに支払う税金に頭を痛めることもありません。
固定資産税が日本に比べると安いことに加え、定期預金の金利も高く、その利子は課税対象にならないのも嬉しい点です。株式投資をした際の株主配当も非課税なので、若いうちから気軽に資産運用に挑戦しやすい環境も整っています。
住民税などの地方税がなく、すべて国税で賄われていることも、日本の税金システムとの違いです。
このように、マレーシアで働いて生活をしていると、さまざまな種類の税金の税率が日本に比べて割安なので、一般市民から徴収される税金額は日本に比べて低い感覚があります。
特に個人所得税については、多くの国民の所得額が低いことから、マレーシア人の数十パーセントしか徴収対象になっていません。
ところが、国家予算の内訳をみると、歳入の7割が税収によるものです。国民の8割以上が所得税を払っていないのに、どうやって税金で賄っているのか不思議に思ったのですが、それには、マレーシア政府の財源が国営石油会社のペトロナスに大いに依存していることが関係しています。
実に税収の15%はペトロナスからの税金で、販売ロイヤルティや配当を合わせた石油関連収入が政府予算の3割を占めています。
そのため、原油価格が下がる度に国家予算を下方修正するなど、安定した財源を十分に確保できていない状況です。
また、この国の税金の使い道はかなり不透明で、官僚や政府関係者の汚職事件も頻繁に発生しています。2020年に先進国の仲間入りを目指しているマレーシアですが、税制やその使途に関してはまだまだ課題の多い国だといえます。
まとめ
個人所得税や物品税が高い一方、固定資産税や法人税を安く抑えられる租税回避地があるなど、本記事では日本とは異なるマレーシアの税金制度を紹介しました。
働く世代にとっては個人所得税の税率が高いのは痛手ですが、長期滞在を考えている人やビジネスを興そうという人には、不動産購入や副業での法人設立などお得な面がたくさんあります。
是非、マレーシア特有の租税制度をメリットとして活かし、自分のライフスタイルに合わせた将来設計に役立ててください。
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