韓国での留学の成果、長崎からの発信現代美術作家・波多野慎二インタビュー
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長崎の現代美術作家・波多野慎二氏についてご紹介します。
波多野氏は、かつて韓国に留学した事があります。今回の記事では当時留学で得たもの、また現在も続く韓国の美術作家たちとの交流、そして現在の心境などについてインタビューしました。
彼は1994年に韓国慶北大学芸術大学院を修了。「留学中の出会いが現在の活動に役立っている」と彼は言います。現在は長崎で現代美術集団リングアートを基点に活動しています。
長崎の現代美術作家・波多野慎二氏とは?
<波多野慎二 略歴>
- 1965年:佐世保生まれ
- 1990年:長崎大学教育学部中学美術課程卒業
- 1991年:長崎大学教育学部美術科研究生(井川研究室)
- 1994年:韓国 慶北大学校芸術大学院芸術学修士修得、修士論文「李禹煥の作品に現われる精神性に関する研究(1994年)」
- 1995年:南山高等学校・向陽高等学校(非常勤講師)、長崎大学教育学部美術科研究生(井川研究室)
- 1996年:韓国加耶大学校国際通商学部日文学科専任講師
- 1997年:青年海外協力隊:日本韓国青年親善交流事業(渉外団員)、青年海外協力隊:第15回青少年国際理解セミナー(パネリストとして参加)
- 2008年:活水女子大学健康生活学部子ども学科幼児教育造形分野(1年間)、活水中高等学校 (美術担当2017年現在に至る)
波多野慎二氏は、1994年に韓国慶北大学芸術大学院を修了。「李禹煥(※)の作品に現われる精神性に関する研究(1994年)」をテーマに修士論文を書きました。
現在は長崎で現代美術集団リングアートを基点に活動しながら、毎年継続して韓国の美術作家らとの交流を続け、より自らの作品を発展させています。
※李禹煥(イー・ウーファン)とは、韓国だけでなく、世界でも有名な韓国人美術作家。日本の現代美術の1つ「もの派」と呼ばれる流派の代表的作家で、日本を拠点に世界的に活動。
直島には安藤忠雄とのコラボによる李禹煥美術館が開館。現在多摩美術大学名誉教授。
韓国での経験をいかす
前述の通り、彼は94年に韓国慶北大学芸術大学院を修了しています。彼は、当時の成果を忘れないだけでなく、今も続く韓国との交流により、その成果を更に発展させ自分のものにしているように見えます。
インタビューでは、まず韓国での留学経験及びその成果などについてうかがってみました。
韓国留学(慶北大学芸術大学院)
-韓国への留学はいかがでしたか。

-山岸信朗先生の画廊・真木田村画廊は、昔、「もの派」といわれる一群の作家たちの活気ある発表の場となっていたそうですね。


-修士論文を書く上で、韓国の大学院の指導教授からの指導はいかがでしたか。

-韓国で修士論文をまとめてから、周りからの反応はありましたか。

彼女は全く日本には興味がなかったので新しい視点を身につけたのだと思います。

-他大学で教材として使われたんですね。それは凄いですね。

その時に「君か、日本人がハングルで論文を書いていると聞いて、読んだんだが、勝手なことを書いて、あれから韓国では大変迷惑しているんだ。私は西田ではなくハイデッカーの思想を元にしている。不愉快だ。」と言われました。


-西田哲学とは、哲学家・西田幾太郎の哲学の事ですね。「日本初の独創的哲学」と称せられていますね。「無」を根底とする東洋的、禅的形而上学とも言われているようですね。
また「従来の西洋哲学をもそのうちに包括し得る」とする見方もあるとうかがっていますが。



そのことが美術ではあり得るとする二元一元化の話です。
-韓国での留学経験により、思想や哲学的な観点と現代美術との関係性を確信されたのですね。
留学中の出会いは今もなお
-留学されたのは約30年前になりますが、今も当時のお知り合いと連絡する事はありますか。




長く続く友人関係は作ろうと思って出来る物ではありません。自然であり人柄と相性でしょう。
-ここで独島の話が出るとは正直ちょっと驚きました。その位フランクに話せる間柄なんですね。確かに、日本人同士でも長く続く付き合いはなかなか出来るものではないですよね。
そう言えば、以前、私の知り合いの韓国人の方は「日本人の方とは一時的には連絡するけど、なかなかその後連絡が続かない」と不思議がっていました。
確かに、波多野さんの仰る通り、大切なのは人柄と相性なのでしょうね。国の問題は、思っている程には意外に障害にならないのかもしれません。
韓国での個展(2016年)
-そういえば、波多野さんは数年前に韓国で個展をされていますね。

予定になかったパンフレットを作ってくれたり、展示期間も最終日に二倍に延長してくれたりして、驚くことばかりでした。展示結果が良かったのか、とにかく親切でした。
-やはり作品や展示が物を言うのですね。そのようなつきあいは波多野さんらしい気がしますね。

画廊のオーナーから「日本人はずっと画廊にいる。どこかに遊びいけばいいのに」と言われました。しかし私は最後までどこにも行かなかったので、最終日に買い物に連れて行って頂いたのですが、楽しかったです。


-留学中の付き合いは今もずっと続き、互いが互いの道を進むことで刺激になっているのですね。


-付き合いは更に前進し発展して行くのですね。今年10月ですか。楽しみですね。
現在の心境
韓国の留学経験を経て、思想や哲学的な観点と現代美術との関係性を確信。波多野慎二氏は、今も韓国の美術作家たちとずっと友人として長く付き合う中で、美術活動の刺激を大いに受けていると言います。
最後に、現在の活動と心境についてうかがいました。
長崎で現代美術集団リングアートを基点に活動
-現在は現代美術集団リングアートを基点に活動されてますね。リングアートでの活動について教えて下さい。

作家の方が集まって芸術活動をすることは多いと思いますが、それは集まっても一つの形になりにくいところがあります。それは、各作家の芸術観が異なっているからです。集まっても自分の芸術観の実践にしかなりません。

先ほどヨーロッパの芸術の流れの話をしました。誰もが知っている芸術家の名前に、これからその流れが途絶えていくか否かが問われます。リングアートはそこまで意識しています。
-先ほど伺ったゴッホ、ピカソ、マチス、ヴィアラというヨーロッパの美術の流れですね。


長崎が持っている歴史から平和というキーワードが生まれました。平和を望んでいる。そこにアートがあるのかどうか、面白いと思いませんか。

参考記事;「韓国の美術館で出会う日本人・現代美術作家井川惺亮の世界」 https://wakuwork.jp/archives/15296
韓国の作家たちと交流し続ける
このリングアートでは、毎年、春に「春風長崎より」展と夏に平和展とを恒例で行っています。
展覧会の案内状を見ると、参加作家の中には、必ず韓国人美術作家の名前が入っています。その中には、波多野氏が留学した韓国慶北大学芸術大学院出身の作家たちの名前も多く見られます。
30年も時が経った今もずっと、特に慶北大学校との付き合いは続いています。
参考記事;「韓国で美術作家として生きる日本人『川田剛個展』」
長崎からの発信と韓国留学の成果
波多野氏は今、精力的に美術活動を行われています。長崎や九州だけでなく、東京でも活動をされています。
韓国での留学の成果及び今も続く交流は、彼の作品を一層展開させ、輝かせているようです。
東京での個展
東京の画廊トキ・アートスペースにて「波多野慎二展」が昨年行われました。長崎を拠点に精力的に活動している波多野氏ですが、その活動の中でも大きなテーマとして「長崎からの発信」があります。
地方の個性が出てから時間が経過した今もなお、地方では東京への追従思考が強くあります。どうしても、地方の場合は「東京」を目標にし、少しでも近づきたいと思いがちです。
しかし波多野氏は現代美術集団リングアートの中で、むしろ「東京の作家たちに作品を見てもらい、長崎の私たちが発信をしていきたい」と考えていると言います。この時の個展では、波多野氏の芸術空間がそれを証明しているように思えます。
東京で活躍中の美術評論家・宮田徹也氏は、彼のFB(フェイスブック)上で波多野氏の個展をこのように評しています。
「長崎のアーティスト、波多野さんの展覧会。ここまで展開すると作品の意図が伝わってくる」
- トキ・アートスペースサイト:http://tokiart.life.coocan.jp/
- 波多野慎二展のページ:http://tokiart.life.coocan.jp/
湯布院での個展
昨年末から1月末までにかけて、湯布院で個展が行われました。空間を最大限に活用した、ダイナミックな発表です。
まとめ
今回のインタビューは、海外で「何かをつかみ」「留学後、自らが更に飛躍させていく」という点で、非常に貴重な内容だったと思います。
留学の成果とはその時で完結するのではない。帰国後、継続して成果を探し続けていくものであり、また、自らが更に独自に発展させていくものである。それでこそ、留学中の出会いは更に輝きを増す。
波多野慎二氏の現在の活動と作品は、それを証明しているかのように思えました。
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