それはある日、突然やってきました。ポンポン、と不意の肩たたき。普段から決して折り合いが良いとは言えない上司に呼ばれます。
何かしたのだろうか?気まずい雰囲気で会議卓に着いた途端、上司の口から発せられた言葉は、その意味を理解できるまで頭の中を10回ほどリフレインしたのを覚えています。
「フィリピンに駐在してくれないか?」
フィリピンと書いて危険と読む、そんな歪んだ知識しかない国。これは何かの罰ゲームなのではないだろうか?そんな風に考えた私が唯一期待したのは、待遇アップでした。
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フィリピンにシステムエンジニアとして駐在へ
私の仕事はシステムエンジニア(以下SE)です。SEと一括りに言っても様々なタイプがあります。プログラミングを専門とするSEもいれば、業種に特化してお客様と一体となり、固有のシステムをメンテナンスするフィールドSEと呼ばれるSEもいます。
私の場合は、サーバーやネットワークといったIT基盤を中心に設計・導入するインフラSEです。
入社から二十数年、一貫して同じ畑を歩んできました。しかし日進月歩のITインフラ技術論、極端な時には昨日通用していた技術が今日には役に立たなくなります。
さらに、歳を重ねるにつれ頭からこぼれ落ちる知識の量は加速度的に増加。そんな老兵は自ずと管理側にまわされます。
高報酬ながらも賞与に依存
SEを天職だと感じたことはありません。とはいえ、若かりし頃は最新技術を得、駆使し、毎日プライドを持って仕事をしていました。SEは技術と現場にこだわってこそ。ずっとそんなSE人生なのだと思っていました。
年月は経ち、気づけばプライドはどこかへ置き忘れ、代わりに得ていたものはマネージメント力と対価、すなわち給与です。
世知辛い世の中、不景気で給与が上がらないなどと言われて久しく経ちます。しかし、幸いにも私自身は大きな不満を感じることもなく、いいえ、どちらかと言うとSEとしては高額な報酬を継続的に得てきました。
ただし、ここ10年の年収は微増減の繰り返しです。景気の所為というより、賞与の額に完全に依存する成果報酬型と呼ばれる給与体系なのでした。
待遇が良くなる?フィリピン行きの辞令
そんなところへ、冒頭で述べたように突然の辞令。「フィリピンに駐在してくれないか?」文字では伝わりにくいですが、実際は命令口調です。サラリーマンには断るという選択肢は与えられません。
「海外赴任は賃金待遇良くなるぞ!英語だって学べるし……」辞令を正当化するかのごとく、つらつらとまくし立てられる上司の言葉などは、もはや私の耳を右から左へ通り抜けていくばかり。
呆然と立ち尽くし、深い洞窟の奥底に叩き落とされた私に差し込んだたった一点の光、それはうっすら覚えていた「待遇良くなるぞ!」の言葉だけでした。
フィリピン駐在前に日本で得ていた給与とボーナス
年収1000万円は、一般的なサラリーマンとして生きる上でまず目標となる金額に間違いありません。フィリピン赴任前の私の給与はどうだったのでしょうか。
ざっくりご紹介しますが、まぎれもない事実です。なお以下、月収、年収といった場合は税込を意味します。
10年間の平均年収は960万円
最近10年の平均とお考えください。月収55万円、賞与150万円×2。合計すると年収960万円です。源泉徴収票上、大台つまり年収1000万円を超えたことは一度もありません。
これを多いと感じるか少ないと感じるかは人それぞれです。私自身は、自分の稼働に対する対価としては十分だと感じていました。しかし「生計を立てる」「家族を養う」という側面から考えると、決して楽な生活ができる金額ではありません。
月収55万円というと、手取りは月35万円前後になります。月々10万円返済の住宅ローンを負っていました。分不相応な車を長期ローンで購入し、毎月5万円の負債も抱えていました。
数年前は子供の大学費用がもろに自分の小遣いに響き、昼食を弁当へ切り替えたりも。ちなみに、その時の小遣いは毎月3万円でした。
多額のボーナスでカバー
それでも、世の中の平均からすると「もらっている方」になると思います。それは賞与が大きいからです。賞与は上述の通り年間300万円を得ていました。
税金等々で差し引かれても220万円程度が手元に残り、月に割り振れば20万円弱が加算されることになります。そう考えれば月の手取りは50万円超。
こうして、負債を背負いながらもなんとか生活できていました。怒られない範囲での贅沢も、たまにですができていたと思います。それでもお金はもらえるに越したことはありません。給与アップ、それだけのために飛びついた海外赴任なのでした。
フィリピン駐在員の給与1. 物価とのバランスを考慮
一般的に、フィリピンは物価が安いと思われています。物価が安いのに日本と同じだけ給料を与えたら不公平じゃないか!そう怒る人たちを納得させるために給与の補正が行われます。
具体的には、マーサー係数という世界生計費指数を適用して最終給与額が決められます。マーサーが何者なのか、それは本記事と深い関わりがあるわけでないので言及はしません。
フィリピンの物価は東京の95%
私の赴任時、マニラの物価指数は東京を基準にすると95%でした。思ったほど物価安とは捉えられていませんね。実態はどうかというと、現地の人たちが利用するローカルの店や、嗜好品の一部であるタバコやお酒は日本の3分の1程度という格安感覚でした。
しかし、日本と同等の品質のものを得ようとすると日本の1.5〜2倍です。マーサー係数には納得がいかなかったのを覚えています。それでも大きな不満として爆発しなかったのは、想像以上の待遇アップがあったからです。
フィリピン駐在員の給与2. 充実の各種手当
待遇アップとはこのことです。各種手当を1つ1つご紹介しましょう。
海外赴任手当
「右も左もわからない海外で精神的に苦痛だよね?ごめんね、お金で勘弁してね」という理由で支給されるのが海外赴任手当です。どの国へ赴任しようと一律でもらうことができます。
私の場合は本給の20%。本給を簡単に説明すべきですね。日本での月収は55万円と述べましたが、内15万円は残業代に相当する手当、つまり本給は40万円でした。そのため、海外赴任手当は40万円の20%である8万円が計上されます。
さらに、家族(妻)を帯同していたため、家族1人につき5%の手当も適用されていました。こうして40万円の25%、10万円が毎月支給されていました。
赴任地区手当
先進国への赴任とフィリピンのような発展途上国への赴任とでは、やはり精神的な苦痛や心配事は違うはずです。それを補うのがこの手当です。
最近は目覚しい発展を遂げているフィリピン。私が思い描いていたほど危険地区とは判断されていなかったのですが、それでも毎月5万円支給されました。
自家用車補助
フィリピンは公共交通機関が発達していません。また、あっても安易に利用することはできません。日本人は金持ちと見なされ、ぼったくりなどに確実に狙われます。そして、会社としては面倒は御免なのです。
したがって「車を購入してね、ドライバーを雇ってね、毎月のガソリン代の足しにしてね」と、補助という名の手当が出ます。これが毎月8万円でした。
もちろん自家用車は購入しました。しかも、比較的中古車市場の値崩れが少ないフィリピンにおいて、格安の30万円で程度の良い車に出会いました。購入資金は本手当4ヶ月分でペイです。
あとは毎月ドライバーに1万円、ガソリン代に2万円。差し引き5万円程度は自由に使えるお金でした。
駐在員家族生活補助
帯同家族への配慮も会社は忘れません。海外で健全な生活が送れるよう、語学力を磨いたり習い事をしたりするための手当が支給されます。
既に海外赴任手当を5%上乗せしていることを忘れたかのような会社の温情です。いただけるものはいただきます。毎月5万円でした。
通信費補助
仕事で使用する携帯電話代などの補助です。実費支給と定額支給を選択できました。私は申請が面倒なので定額支給を選択。毎月5万円です。
定額支給の欠点は、その額を超過しても会社は感知しないことでしたが、ただの一度も自己負担はありませんでした。なぜかというと、費用会社負担の携帯電話が支給されたからです。
これは見直した方が良いのではないかな?そう思いながらも決して言い出しはしない、ずるい私なのでした。
住宅手当(ご参考)
直接の給与アップにはつながりませんが、住居費は会社が全額負担してくれました。その額、当時の為替レートで日本円に換算すると月約30万円です。高級コンドミニアムの最上階、しかも150平方メートルという巨大な部屋。
あれあれ?フィリピン赴任ってもしかしたらおいしいのでは?と最初に思ったのが、住居を決めた時でした。
フィリピンでの駐在中、税金はどうなるの?
海外へ赴任するということは、日本の居住者ではなくなるということです。日本の居住者ではない者には、日本国民の義務である「納税」が免除されます。
やったぜ!そう喜んではいられません。フィリピンでは日本以上に税金を取られます。消費税だってとっくに10%超えです(2018年現在12%)。物価以上に格差を生み出す要因ですよね。
納税にも駐在員ならではの特典が
駐在員の私の場合、「みなし」として日本と同等の納税金額が給与から差し引かれ、日本の納税額相当を会社に納めます。そして、フィリピンでの納税は現地会社が行ってくれるのですが、フィリピン納税額>日本納税額の場合は差額を現地会社が負担することになります。
そのため、フィリピンでは日本人駐在員への風当たりが総じて強いのです。きっと、「毎月この日本人が納めるべき税金をなぜ会社が負担しなければならないんだ?」そう思っていたに違いありません。
フィリピン駐在期間中の年収はプラス370万円超
では、以上を踏まえると年収はいくらなのでしょうか?まずは単純に手当を日本円で計算してみましょう。
毎月の手当
- 海外赴任手当:10万円
- 赴任地区手当:5万円
- 自家用車補助:8万円
- 駐在員家族生活補助:5万円
- 通信費補助:5万円
合計:33万円
手当だけで、日本でもらっていた手取り給与に迫る勢いです。なお、ドル建てで計算され、現地通貨フィリピンペソで銀行口座へと振り込まれます。
さあ、それではフィリピン赴任期間の年収を計算してみます。
実際には、日本で継続していたローン支払いのために日本の給与口座で受け取れる額とフィリピンで受け取れる額を分けていたのですが、「年収」を算出する上では重要でないため無視しましょう。
月収
- 基礎となる月収は日本時代の55万円、その内の本給である40万円にマーサー係数を考慮して95%とする:40×0.95=38万円
- 日本で得ていた残業手当は継続:15万円
- フィリピン赴任中の手当:33万円
合計:86万円
賞与は日本で得ていた金額と同等なので、これを加えて最終計算します。
年収
86万円×12(ヶ月)+ 300万円(賞与) = 1332万円
フィリピンへ赴任するだけで370万円以上も年収が増えたのでした。
フィリピンで最初の給与をもらうまでに5ヶ月:就労ビザの壁
このように、待遇は大幅にアップしたのですが、最初の給与を手にするまでには一苦労ありました。
フィリピンへ赴任する際、入国時のビザは9aと呼ばれます。これは、通常の観光目的の外国人に発行されるビザステータスです。もちろん例外もあって、渡航前に日本のフィリピン総領事館で就労ビザを取得した上で入国する場合もあります。
しかし、就労ビザの発行にはフィリピン現地法人からのInvitationレターが必要となります。この人を雇います、というお墨付きですね。
この処理を、こちらが海外(日本)に在住している間に行うことが煩雑であり、嫌う現地法人が多いため、まずは観光客として入国するのが一般的です。
観光ビザでは就労も給与受け取りも不可
9aビザステータスを発行されると、入国から21日間(2012年当時。2018年時点では30日間)滞在することができます。ただし、繰り返しになりますが9aは観光目的のビザです。就労は許可されません。
しかし、だからといって仕事をしないわけにはいきません。どうしましょう?仕事をしていないふりをすることになります。フィリピン政府の筋の者が監視に来た!と察知したら、急に手を止めて遊んでいるように見せかけます。
フィリピン政府もそこまで暇ではありません。誰にも見張られません。そこで、仕事をしていない=給与を得ていない、とフィリピン政府は判断します。
こういった状況なので、現地法人は私のビザステータスが9aの間は給与を支払ってはくれません。
弁護士を通して就労ビザ切り替え申請
しかし、現地の勤務先もそんな意地悪ばかりではないのです。就労ビザ(以下9g)ステータスへと移行する手助けを全力でしてくれます。
会社には必ず法務部に相当する部署が存在し、1人ないし複数名のatorny、つまり弁護士がいます。このatornyの指示のもと、必要書類に記入し、修正し、再記入。体裁が整うとatornyが代理で移民局へ申請してくれます。
ですが、これで一安心……とは、残念ながらなりません。
9aビザステータスで入国する者に許される滞在期間の21日間は、たいていこの時点で終わっています。フィリピンatornyの全力はこのくらいと考えた方が健全です。
滞在延長は可能だが・・・
では、一度出国しなければならないのかというと、そうではありません。お金さえ払えば、この21日間は最長2年(2012年当時。2018年時点では3年間)まで延長することができます。延長期間は1ヶ月刻みとなり、その都度お金を払うこととなります。
移民局も簡単には9gの発行を許可してくれません。提出した書類は、精査に精査を重ね、ミスを見逃さない……いえ、これまた違います。書類がどこかで止まったまま処理が進まないのです。
こうして、私にめでたく9gビザステータスが発行されたのは入国から5ヶ月が経過した頃でした。「5ヶ月無給というのは死ねということか」という思いから、会社に火をつける夢をよく見るようになっていました。
海外駐在員になるには
海外駐在員になると、待遇アップ以外にも、裁量の大きな仕事を任されてスキルアップ・キャリアップにつながるというメリットがあります。
海外駐在員には経験や技術が求められるため、30代以上の人が狙いやすいです。会社から指名されるのではなく、自ら進んで海外駐在員になるにはどうすればいいのでしょうか。
主な方法は3つです。
1. 海外駐在員を募集している企業に転職
一番早く海外駐在員になる方法は、初めから駐在員を募集している企業に転職することです。転職サイトでは、入社後3ヶ月、日本で研修した後に海外の子会社へ出向するものや、入社後1ヶ月で海外勤務になるなどの求人があります。
海外駐在員の求人を見つけるには、「LHH転職エージェント」や「JAC Recruitment」などの大手転職エージェントを利用しましょう。おすすめの転職サイトは次章でご紹介します。
海外駐在員枠は競争率が高いのでスピード勝負になることが多いです。今から転職サイトに登録しておき、気になる求人をストックしておくとよいでしょう。
2. 海外に子会社を持つ企業に転職
海外駐在員への応募がうまくいかなければ、海外に子会社のある企業に転職してチャンスを待ちましょう。
ただし、希望は簡単にかなうものではありません。会社の代表として派遣される海外駐在員に選ばれるためには、何か秀でたものを持っている必要があります。
仕事で成果をあげるとともに、海外子会社で必要とされているスキルをリサーチして磨く、また自主的に英語の勉強を続けるといった努力が求められます。
3. 現地で採用される
日本の本社による面接プロセスが不要な現地採用は、現地の人材紹介会社に登録して求人を紹介してもらうのが一般的です。
- 海外駐在員枠で現地で採用される
- 現地採用社員から日本採用の駐在員に切り替えてもらう
の2パターンがありますが、いずれにせよ現地採用の場合、日本の本社から赴任する駐在員よりもはるかに収入が少なくなります。
海外で働くことを重視するなら現地採用が近道ですが、待遇アップを狙うなら日本から派遣される海外駐在員を目指しましょう。
海外駐在員として働くためのおすすめ転職エージェント
海外駐在員としての理想の仕事を見つけるには、転職サイトを使い、気になる求人をストックしておくことが大事です。
以下のエージェントは待遇がしっかりとした求人が多いので、不安の多い転職でも安心して利用できます。登録は3分程度、利用はすべて無料です。
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海外勤務・外資系を狙う年収600万円以上の方は「JAC Recruitment」にもあわせて登録することをおすすめします。
海外駐在員の求人状況は絶えず変化しているため、時期により求人数や条件が異なります。
いざ、就職しようと思ったときに「興味のある求人」が見つからないこともあるので、希望の求人に出会う可能性を高めるためにもおすすめの転職エージェントに登録し、自分に合う求人を見逃さないようにしましょう。
まとめ~フィリピン駐在は立候補してでもぜひ!
フィリピン赴任の辞令が出た時には地獄へ叩き落とされた気分でしたが、駐在員生活4年間で得たものは1000万円超の貯蓄でした。そして何よりも良かったのは、フィリピンという国を知れたことです。今では第二の故郷としてフィリピンを愛しています。
海外赴任に伴う処遇は所属する会社によって差がありますが、確かなのは2018年現在、フィリピンに駐在すれば確実に給与がアップするという事実。もしも機会があるのなら、強く強くお薦めします。ぜひ立候補してでも行きましょう!
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