少し失礼な話ですが、以前の私は、どの国であろうと教師の仕事は毎日が同じことの繰り返しでつまらないものだと思っていました。しかし、3年間アメリカで教師をしてみて、同じ日というのは一日もありません。毎日、小さなドラマがあります。
個性的な子供であればあるほど、周囲を笑わせたり心配させたりするもの。アメリカの小学校では、その規則の中で周りとの調和を促すことはあっても、個性を失わせるようなことはしません。
ここでは、日本であまり知られていないアメリカの教育システムを紹介しながら、私が実際に経験した「信じられない」3つのエピソードをお伝えします。
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アメリカの小学校は5歳からスタート
幼稚園児と小学1年生の「間」
アメリカの小学校は日本の幼稚園の年長に当たる5歳から始まります。
ただし、最年少のクラスは正確には「キンダーガーテン」と呼ばれる教育段階で、1年生に上がる前の準備学年、いわば「幼稚園クラス」です。5歳という年齢で周りとうまく融合しながら学校生活を送り、アルファベットのABCや数字の123を学んでいきます。
20〜30年ほど前まではこの幼稚園クラスでも遊びが主流で、お絵かきをしたり、歌を歌ったりしていたようですが、最近では世界の国々との学力競争で引けを取らないようにと、以前の小学校1年生がやっていた内容を幼稚園クラスで行う傾向にあります。
子供により緊張感に大きな差
とはいえ5歳という年齢では、個人の成長により勉強に対する緊張感が違います。
成長が早い子は手を上げてしっかりした意見を述べられますが、成長の遅い子は手を上げるどころか集中力に欠け、周りをキョロキョロしたり、隣のお友達に話し掛けたりしています。
この年齢だと早く生まれた子と遅く生まれた子の差は大きいです。
仰天エピソード 1. 自分の名前が覚えられない?
ある日、いつものように教師として教室に入り、子供たちが落ち着いてから出席を取り始めました。私はピンチヒッター専門の臨時教師で、この日は幼稚園クラスを受け持ちました。
低学年の子供たちの場合、私から名前を言って点呼を取るのではなく、子供たちに自分で名前を言わせるようにしています。そうすることによって名前の読み違いがないことを確認し、また子供たちに少しでも自立心を植え付けるためです。
名前のスペルだけ言える男の子
この日も順番に名前と顔を確認していると、ある子の番になりました。年齢の割にまだ背の低い、目がクリクリとしたマッシュルーム・ヘアの男の子。落ち着きがなく周りをキョロキョロとしているので、時間を掛けて名前を聞くことにします。
「お名前は?」 (“What is your name?”)
「ん……と」(“Hum…” )
「名前を教えてください」(“Tell me your name.”)
「あの……」と自分の名前のスペルを言い出す。(“Well… S.A.N.T.I.A.G.O)
「スペルで言えるのに、自分の名前を言えないの?」(“You can spell your name, but you can’t say your name?” )
「えっと、このお友達の名前はジョンで、あの子はクリス」と友達の方を指しながら、友達の名前を次々と紹介。(“Let’s see… His name is John, and he is Chris…” )
「じゃ、もう一回聞くね。名前を教えてください」 (“Ok. I am going to ask you again. Please tell me your name.”)
沈黙(“…”)
「あなたの名前はサンチアゴでしょ?」(“Your name is Santiago, right ?”)
「うん、たぶんそうだと思う」(“Yep. I think so…)
ある意味、非凡な才能
私はその最後の反応を見て、「マジかぁ?」とツッコミたくなりました。漫画のキャラクターにいそうな雰囲気の彼は、自分の名前が言えなくて「残念」なのではなく、そのキャラクター通りの行動。
自分の名前のスペルを完璧に言うというこの年齢の子供にはできないことができ、周りの友達の名前もすべて言えるのに、自分の名前が言えないとは信じがたかったです。
ちなみに、クラスの子供たちに「サンチアゴは私をからかって冗談を言っているの?」と聞いてみたら「いつもこんな感じだよ」と言われ、私は「頭の良さと悪さは紙一重だな」と驚いたものです。
アメリカの小学生の通学手段は重要情報
アメリカの小学校へ通うには、徒歩・車での送迎・通学バスという手段があります。徒歩15分以内のエリアの子供は学校側が徒歩通学と指定します。これは幼稚園クラスの子供も同じです。
これらの通学手段は、新学期が始まるときに学校へ申請しなければいけません。それは、教師がすべての児童の登下校状況を把握しなければならないからです。
子供への危険を防ぐ
日本と違い、アメリカはどんなに安全な地域でも何が起こるか分からないという理由で学校側のセキュリティがとても厳しいです。
知らない人が児童を連れ去ってしまうことへの恐れから、また銃が許されている国ということで子供たちに危険が及ばないように安全を確保するためでもあります。
さらに離婚した夫婦の場合、相手側に子供を引き渡したくないという親もいるため、父・母・祖父母・ベビーシッターなど誰が迎えに来るのかも必ず事前に記載する義務があります。
保護者への引き渡しは入念に
徒歩通学の小学校2年生までの児童は担任の先生が保護者へ学校で直接引き渡すことが義務付けられています。
車での送り迎えの場合も、担任以外の先生たちで保護者を確認後、ドライブスルーで子供を円滑に引き渡します。
スクールバスの場合は、各バス停に着いた時、小学校2年生以下の児童についてバスドライバーが保護者を確認してから引き渡すことになっています。
このような登下校のため、特に新しい学年が始まってからの1週間は幼稚園クラスの子供に対し、学校側は登下校時に入念な対応をします。
仰天エピソード 2. 初めての通学バスで乗り間違える
秋、子供たちの期待と不安を胸に新学期が始まりました。初日は学校関係者が総勢で児童に注意を払います。
日本と違い、子供を少しずつ学校に慣らすのではなく、初日から一日授業となります。そのため、午後になると子供たちが疲れてきます。幼稚園クラスのアンソニーもその内の一人でした。
体がまだ小さいヒスパニックのアンソニーは、新しいことに好奇心のある男の子。初日から先生によく注意されていました。
いよいよやってきた帰宅時間
ベルが鳴り、初日の長い授業がやっと終わりました。先生たちが手分けして教室内で子供たちを徒歩組・車でのお迎え組・バス組にグループ分けし、いよいよ帰宅です。
徒歩で帰る子は親が迎えに来るので、直接子供を引き渡します。また、車でお迎えが来る子も、車に乗った親を確認しながら子供を直接引き渡すため手違いはありません。
問題はスクールバスで帰る子供たちでした。
6台に分かれて乗車し、それぞれの方向へ向かいます。バスの番号順に分けられた子供たちは、校舎外で待機しているバスまで歩いて行きます。
おしゃべりに夢中になりすぎて…
アンソニーはその日、周りのお友達としゃべっている内に、いつの間にか別のバス番号のグループへ紛れ込んでしまいました。そうとも知らず、初日のスクールバスに乗ってウキウキ状態。
幼稚園クラスのアンソニーには2年生のお兄ちゃんがいるのですが、2人ともそれぞれ自分の友達としゃべることに夢中だったらしく、お互いに同じバスに乗っていないことに気がついていないようです。
そしていざバス停に着くと、2年生のお兄ちゃんだけが降りて来たので、待っていたお母さんはパニック状態。慌てて学校に連絡が行き、バスの運転手の間で無線連絡があり、アンソニーは別のバスに乗っていたことが判明しました。
周囲の心配をよそに本人は上機嫌
私たち先生や母親はアンソニーが大泣きして母親に会いたがっている光景を想定していたのですが、母親から聞いた話によると、当の本人はニコニコしながらバスから降りたそうです。
バス停まで送ってもらう間、バスの運転手さんとの会話がはずんでいたとのこと。
私と他の先生の注意不足で反省しましたが、本人はのんびり会話を楽しんでいたとは、やはりヒスパニック系の穏やかさは偉大だと思いました。
アメリカの低所得世帯への援助プログラム「ヘッド・スタート」
アメリカで経済的に困難な家庭は共働きが多く、子供は「ないがしろ」にされることが多いです。しかし、早い内から学校生活に慣れれば、規則正しい学校のスケジュールに従う子供たちへと育っていきます。
将来を担う子供への教育補助
低所得の学区は高校卒業率が低いため、政府としてはできるだけ子供たちの教育水準を高め、環境のよいコミュニティを作り、そして子供たちが将来コミュニティへ貢献することを促します。
そのため、学区によって違いはありますが、所得額が低い区は連邦政府から補助金が得られます。
前述の通り、アメリカでは5歳に達している子供は幼稚園クラスへ入ることができますが、低所得の家庭には「ヘッド・スタート」という名のプログラムが適用され、4歳から入学することが可能です。
このプログラムは無償なので、所得や家庭事情の書類審査で必要と判断された場合にのみ適用され、子供に入学が認められます。
食べる機会も提供
このプログラムでは、朝食・昼食・午後のスナックが出ます。子供によっては家に食べるものがないので、この補助食は子供たちの重要な栄養源です。
学校で残さずガツガツ食べる子、トレーからこぼれ落ちた食べ物も気にせず食べる子。その様子を見るだけで、家庭での食生活がうかがえます。
仰天エピソード 3. 給食の時間、滝のように流れたものとは…
4歳の子供たちは自分で上手にトレーへ食べ物をよそうことができません。そのため、カフェテリアではなく教室内で食事を取ります。
ある日、いつものように教室で昼食を食べていました。子供たちには、普段から残さず食べるよう言い聞かせています。
言いつけを守った児童を襲った悲劇
黒人の男の子ショーンにも「残さず食べなさい」と声をかけると、きちんと言うことを聞き、最後まで食べていました。私は「ちゃんと言うことを聞いて偉いなぁ」と感心していました。
ところが、そのショーンが「気持ちが悪い」と言い始めます。トイレへ行くよう言いましたが、同時に彼は少しだけ床に吐いてしまいました。
「どうしよう」と思って同僚の先生に事情を説明するため歩き出し、ショーンの方を振り向いた瞬間、驚きの光景が目に入りました。
彼の口からそれまでに食べたすべての食べ物が溢れ出ています。滝のような勢いで流れ出ているのですが、まるでスローモーションの一コマのよう。
「うわぁ。残さず食べなさいなんて言わなければ良かった」と後悔しました。
見逃した体調不良
後から聞いた話ですが、ショーンはインフルエンザにかかっていたようで、吐いた後の1週間はお休みしたようです。私に言われたことを忠実に守って一生懸命食べていたショーンが気の毒で仕方なかったです。
子供の様子をしっかり把握して指導してあげるべきだと痛感しました。
まとめ~純粋で伸び伸びとした小さな個性たち
小さい子供はとても純粋です。家庭環境が整っていないためきちんとした教育を受けていない子供は、そんな自分の状況を知らないまま学校で学んでいきます。
周りの友達の名前がしっかり覚えられるのに自分の名前が分からないのは、周りの子たちとうまくやって行きたいと思う証。また、うかつな行動の後も楽しく過ごした陽気なアンソニーには感心しました。そして、私の言うことを聞こうとして吐いてしまったショーンは忠誠心にあふれています。
私にとって子供たちの個性は、毎日を彩る面白エピソードです。
※アメリカの教育システムは州により異なります。
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