朝、オフィスに到着したばかりのはずの我が身と心が、暴風により一瞬にして夕方まで吹き飛ばされてしまった……。そのような充実感を伴う感慨を持つことができるのが、今駐在している上海の職場です。
朝から椅子に座る間もなく猛烈なスピードで仕事が始まり、12時にはしっかり昼食、夕方6時にはオフィスは空っぽになります。残業する人は、我社においてはゼロです。
身体は疲れてはいますが、その気になれば仕事後もいろいろなことができる時間があります。そんな上海でのある一日を時系列でお届けします。
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上海駐在員の一日:起床~通勤
家族と朝食、娘と出発
6時30分に起床。台湾人の妻が作ってくれる、さまざまな食材が盛り込まれた栄養満点(?)のお粥をどんぶり鉢で家族3人でしっかり食べます。
7時30分に娘と一緒に家を出て、マンションの門に向かって歩きます。
今住んでいるマンションの敷地は広大な公園のようになっており、門まではゆっくり歩いて10分ほどかかります。この朝の10分間は、娘と二人きりで学校のことなどを話すことができるとても楽しい時間です。
門を出たところには広い車道が横たわっており、その車道を挟んで向かい側に娘のボーイフレンドが待っています。ここで彼にバトンタッチです。
迎えの社用車を待ちながら予定確認
車道を渡った娘とボーイフレンドが私に手を振り学校に向かうのを見届けてから、缶コーヒーを買ってマンション敷地中央部にある「倶楽部」と呼ばれる、住民が利用できる集会所のような建物に行きます。
そこでソファに体を沈め社用車が迎えに来てくれるのを待ちます。待っている間に、手帳を見てその日の仕事スケジュールを確認したり、思いついた仕事を書き込んだりします。
社用車が到着
8時30分、社用車が到着。中国人の運転手さんと天気やその日のニュースなどについて簡単な話をします。
運転手付きの社用車なんて贅沢だな、と思われるかもしれませんが、上海の道路交通事情、車の運転の常識は日本とは全く異なるため、日本人駐在員が自分で車を運転することを禁じている企業が多いのです。
上海は広いため、地下鉄やバスを利用すると出勤にかなりの時間がかかります。
また、私の勤める会社は小売チェーン店を展開しており、お店の巡回が重要な仕事の1つであるため、道をよく知っている中国人の運転手さん付き社用車があると効率よく巡回を行うことができます。費用対効果を考えても、これがベストな方法です。
社長を乗せて一緒に出発
私を乗せた社用車は、同じマンションの敷地内に住む社長を迎えに行きます。社長を乗せ、スマホに送信されてきた前日の売上を報告します。
売上が良ければ車内は明るいカリフォルニアの青空のようなムードに満たされ、悪ければ一気にどんよりした暗い冬の曇天に落ち込みます。
ここで社長からさまざまな指示が出ます。どの会社でも同じだと思いますが、社長とはせっかちな生き物なので、すぐに行動に移さねばなりません。忘れないように手帳に書き込みます。オフィスに近付くにつれ、緊張感が高まってきます。
上海駐在員の一日:出社・午前の仕事
オフィスに着くなり問題発生
道が混んでいなければ、9時前にオフィスに到着します。
私にはオフィス全体を見渡せる場所に大きな机が用意されているのですが、そこに落ち着く前に、出勤中の車の中で社長に言われた仕事を実行するためパソコンの入った重いかばんも置かず関係部署に向かいます。
担当者と目が合った瞬間、こちらが口を開くその前に、「まずいことになりました!」と大声でまくしたてられます。
内容がわかるまで何度も聞き返す
長年の上海生活で中国語にはかなりの自信がついてはきましたが、それでも想定外の内容を遠慮会釈なしのネイティブスピードでマシンガンのように叩きつけらると聞き取れないこともあります。
いい加減な相槌はご法度です。とんでもない大問題が発生している可能性があるからです。「わからないから、もう一度ゆっくり話してくれ」このフレーズを恥ずかしがらずに完全に理解できるまで何度も繰り返すことが大切です。
発生したトラブルの中身とは
さて、この日の事件は、イベント用にわざわざ海外メーカーから借りてきた巨大なオブジェの設置を、イベント会場であるショッピングセンターが拒んでいるというものでした。
この巨大なオブジェは今回のイベントの目玉であり、海外のメーカーと半年以上の交渉の末、ついに借り出しにこぎつけたという代物でした。
今さら使用できないなどということになればメーカーと大きなトラブルになることは確実であるのに加え、何よりイベントの目玉を失ってしまうことになります。イベントは間近に迫っており、今さら新たな目玉を探している時間はありません。
立ちっぱなしで会議、決断、指示出し
関係部署の人間を呼び、緊急会議を開きます。我社のオフィスは広い長方形で四方が見渡せるため、必要な人をすぐに呼ぶことができます。立ちっぱなしで会議が始まります。
「なぜ事前にショッピングセンターにオブジェの詳細を説明しておかなかったんだ!」とイベント会場工事担当者が言うと、「もちろん説明はしていた!お前ら工事担当者の理解が足りないのと、説明の仕方が悪いから先方に誤解を与えたんだろうが!」とイベント契約担当者が叫びます。
冷静に議論を進めることが日本人駐在員の役割
いつもの責任のなすり合いが始まるのを制し、「今必要なのは、どの部門の責任かを問うことじゃない!どのようにしてオブジェの設置の同意をショッピングセンターから得るかだ!どんな方法がある?」と会議をリードします。
ともすればすぐに脱線し、罵り合いとなる中国人の会議を冷静にリードすることは、日本人駐在員に求められている重要な任務です。
冷静になると、いいアイデアが出てきます。そのアイデアを慎重に検証します。
解決案を考えて実行へ
結果、写真やビデオをふんだんに盛り込んだプレゼン資料を用意した上でイベント開催責任者が先方に出向き、今回のイベントでこのオブジェを設置することがいかにショッピングセンターの集客につながるかを説明することに決まりました。
緊急事態に際しては、冷静に問題解決案を皆で考え、全力で実行に移すしか方法はありません。
やっと座って売上チェック
一件落着したところで、出勤途上で社長に言われた内容を関係部署に伝えていきます。ここでやっと自分の椅子に座ることができました。時計はすでに10時半近くになっています。
座ってパソコンを開き、前日の売上データの詳細なチェックを行います。お店は50店舗あるのですが、1店舗1店舗の売上状況を丹念に見ていきます。
売上額だけではなく、売上を構成している商品別の販売個数や販売額、どのブランドが売れているか、売れ筋ブランドの在庫は足りているかなどを確認し、注意点をパソコンに入力していきます。
全店が予算通りに進捗していることが理想なのですが、そのようなことはまずありません。売上が思わしくない店をパソコン上でチェックし、赤でハイライトしていきます。
中には、先月は売上が良かったのに今月は急激に落ち込んでいる、というお店もあります。環境の変化が激しいのが中国の特徴です。例えば、突然大掛かりな道路工事が始まり、お店の前の道路の交通量が急減したなどということもありました。
店舗回り会議
電話で聞いただけではわからないことや想像もつかないことも多いので、売上が思わしくない店は現場を見に行くことが大切です。反対に、売上が急激に好転した店なども現場を見るべきです。
訪問すべき店舗をある程度リストアップした後、店回り担当者を呼び、会議を行います。
11時15分くらいから、店回り担当者2人と3人で会議です。オフィスのど真ん中に楕円形の会議テーブルが置かれており、必要な時に簡単に集まることができます。
先ほどリストアップした売上不振店のデータをパソコンで開き、他の2人に詳しく説明します。この時、それまで知らなかった情報を聞かされることもあり、その問題解決のために関係部署のマネージャーに急遽会議に参加してもらうこともあります。
例えば、優秀な販売スタッフが交通事故に遭い戦線から離脱しているなどといったケースでは、人事部のマネージャーを呼び、販売スタッフの急遽補充が可能かどうかを検討します。
担当店舗を3人で分担
不振店がどのお店であるかを3人で確認・共有した上で、回るお店を分担します。私は社用車があるので、オフィスから距離のあるお店を担当することが多いです。
問題は早期発見・早期解決が重要なので、その日のうち、遅くとも翌日にはお店を訪問するよう他の2人に釘を刺し、翌々日の報告ミーティングの時間を決めます。
この時点で時刻は間もなく正午です。
上海駐在員の一日:昼休み~退社
社長と昼食
12時から社長と2人で社用車で昼食に出かけます。午前の部はあっという間に過ぎ去りはしましたが、濃密であったため、すでにお腹はペコペコです。上海にはおいしい食事を楽しむことができるレストランがたくさんあります。
上海料理だけではありません。北京料理、広東料理、四川料理、雲南料理などの中国各地方の料理をはじめ、イタリア料理、ドイツ料理、ベトナム料理、台湾料理、そして日本料理とバラエティに富んでいます。
日本料理も、鮨、刺身、とんかつ、焼き肉、お好み焼きなどなんでもござれです。社長はグルメなのでおいしいお店をよく知っており、ご馳走になることもしばしばです。
ちょっとした日本食の昼食メニューでも50~70元(約800~1,200円)くらいするので、ご馳走してもらえると家計上、大変助かります。しっかりよく噛んで食べて、午後の戦いに備えます。
売上不振店訪問スタート
午後1時前に社長をオフィスに送った後、データの入ったパソコンをつかみ、社用車ですぐさま売上不振店訪問に出発です。
上海は広く、お店とお店の距離があるため、午後だけだと3店舗が限界です。回りたい店を運転手さんに伝え、効率よく回ってもらうようにします。
各店のその日のシフト表も持参します。売上が悪いお店の中には、店長が不真面目でさぼっていて店舗にいない、などというケースもあるからです。店舗訪問は当然、事前連絡なしの抜き打ちで行います。
店長の話から売上不振の原因を探る
お店に着くと、まず店長と話をして売上が思わしくないことを伝え、原因としてどのようなことが考えられるかをたずねます。
こちらから、店長の努力が足りないから、または頑張っていないから売上が悪いのだ、などとは決して言いません。そんなことを言おうものなら店長がガードを固めてしまい、言い訳に終始して、売上不振の本質的問題を発見できなくなってしまうからです。
「売上が良くないが、一体何が起きているのかを知りたいんだ。一緒に売上を上げる方法を考えよう」という言い方をすると、店長もリラックスし、日ごろ思っている問題点を伝えてくれます。
巧みな言葉に注意
しかし、中にはただの思い込みである場合もあるので、持参したパソコンでそのお店の詳細な売上に関する情報を見て確認を行います。
中国の人は口が達者な人が多く、勢いですぐに丸め込まれそうになります。口で対抗しても勝ち目はないので、パソコンデータによるファクトを元に話すようにしているのです。
特に、チャート化したファクトデータを見せると途端に無口になり言い訳も少なくなるので、問題のありかが見えやすくなります。
問題発見・解決案立案
問題にある程度の目星がついたら、次は解決案の立案です。問題は商品の品揃えなのか、価格設定なのか、セールの内容なのか、陳列の仕方なのか、販売員の能力なのか、問題の種類によって、解決案を店長やお店のスタッフと一緒に考えます。
実行決定した解決案はスマホのメモに入力し、その日のうち、遅くとも翌日朝には関係部署に伝えて速やかに実行に移します。
このような感じで2~3店を回り、午後5時前にはオフィスに戻ることができるよう時間を考えます。
帰社、各部署に指示
夕方5時前にオフィスに戻ると、席には座らずすぐさま関係各部署を回り、不振店の問題点の解決案を伝え、意見を聞き、問題がなければすぐに実行に移すよう指示します。
お店のスタッフは、会社が自分の意見を聞いてくれ、即座に実行されると非常に士気が上がります。それが売上アップにつながるのです。重要なことはとにかくスピードです。
支払い伝票にサイン
席に着くと、商品伝票の山が置かれています。商品担当者を呼ぶと、翌日中には支払わないといけない伝票だと言います。
私の仕事は、請求書と伝票が一致しているかどうか、不審な点がないかどうかを確認することです。残念なことながら以前、不正行為があったため、この作業は注意深く行う必要があります。
もう間もなく午後6時なので、時間があまりありません。スピーディかつ正確に、を意識します。こんなぎりぎりの時間に持ってきたということは、もしかすると何かが隠されているのではないか、などと疑いながら6時ぎりぎりまで確認を続けます。
定時と同時にオフィスを飛び出す中国人社員たち
午後5時55分を過ぎると、中国人スタッフたちは脱兎のごとくオフィスを飛び出していきます。まるで、6時を1秒でも過ぎてオフィスにまだいたら大変な損だ、とでも言わんばかりです。
残業する人はゼロです。この辺りは、日本企業も見習うべきだと思います。残業を1秒でもしたくないから、6時までに何とかして仕事を終わらせようとするのです。
6時までに仕事を終わらせねばならぬ、というこの気持ちがあるせいだと思いますが、中国人社員の仕事はおおむね速いです。ただし、日本人の目から見ると粗いのが欠点です。もう一ひねりあればもっといい仕事になるのになあ、と残念に思うこともしばしばです。
中国人ならではの思想?
「兵は拙速を尊ぶ」という言葉があります。
中国の兵法書『孫子』の中にある言葉で、作戦を立てたり練ったりすることに時間をかけるより、多少不完全で粗い作戦であっても迅速に行動して勝利を得ることがより大切であるという意味なのですが、中国で仕事をしているとこの思想が蔓延しているというか、都合の良いように解釈されているのではないか、と思えることがあります。
社長とともにオフィスを出発
空っぽになったオフィスに戸締り当番社員1人を残し、6時に社長と私は社用車で家路につきます。
上海駐在員の一日:帰宅~就寝
空手道場へ
午後6時30分ごろに家に着くと、パソコンの入ったかばんを置き、代わりに空手着の入ったスポーツバッグを持って家を飛び出します。家から歩いて15分くらいのところに空手道場があり、7時から稽古があるのです。
稽古は週に2回あります。お腹が空いているので、途中にあるコンビニでバー型チョコレートと缶コーヒーを買ってエナジーチャージをします。
道場には、私と同じ海外駐在員の日本人やスペイン人、中国人の道場生が4~5人くらいいます。年配者ばかりなので、先生もゆっくり丁寧に教えてくれます。先生は日本人です。
健康にもよいスポーツ
柔軟体操をして筋を伸ばし、大きな声を出して体を動かすと汗がいっぱい出ます。空手着が汗を吸って重くなるくらいに汗が出るのです。
いつも1.5リットルのペットボトルを持参するのですが、約1時間半の稽古が終わるころには全て飲み干してしまいます。
この空手というスポーツはかなり健康によく、稽古終了後に家にある血圧計で血圧を測ると明らかに下がります。健康診断でも「体内年齢39歳!」という結果が出て、うれしいのでずっと続けています。
日本にはない仕事後の自由時間
残業が一切ないと、このように仕事後の時間を趣味やスポーツに使うことができ、健康にもいいのです。日本に帰国した空手友達は、残業があるので空手の稽古ができなくなった、上海に戻りたい、と口をそろえて言います。
残業がないのが、上海仕事生活のいいところです。
帰宅、夕食、就寝
午後8時過ぎに家に帰り、シャワーを浴びてビールを飲みます。家族3人で夕食です。
妻は、空手着を洗濯するのが重くていやだとブツブツ言いますが、健康にいいのはわかっているようで、やめろとはいいません。
娘の学校であったことなどを聞きながら食事を楽しみます。私に向かって日本語を、妻に向かって中国語を話さないといけないため娘も忙しそうですが、幼い頃からのことなので特に面倒だとは思わないようです。
読書が好きなので、少し本を読んで0時過ぎくらいに就寝します。
まとめ:過ぎ去っていく時間の中にある充実
上海で駐在生活を送っていて感じるのは、とにかく時間が過ぎるのが速いということです。あっという間に夕闇が迫ってきます。
年ベースで見てもそうです。チャイニーズニューイヤーが過ぎたと思ったら、すぐさま夏になり、暑い暑いと数回口にしたらすでに中秋の名月を愛でる時期が来ている、といった具合です。
充実感を味わう余裕もありませんが、やはり充実しているということなのでしょう。走りながらも時を大切にしようと心がけています。
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