5月はアメリカの卒業シーズンです。各大学で卒業式が行われ、学生は旅行に行ったりバケーション期間を取ったりしてから働き始めます。アメリカの学生が社会に出る直前の最後の学生行事です。
カリフォルニアの青い空の下の卒業式は日本の厳粛な式とは違い、気取りがありません。かしこまった雰囲気がなく、参列者もドレス、スーツ、民族衣装からTシャツ、短パンまで思い思いの格好で式に出席しています。
この記事では、筆者がカリフォルニアステートユニバーシティ・ロングビーチ校の卒業式に参列した模様をお伝えします。
アメリカの大学卒業生の服装(ローブ)
アメリカの大学では、ローブ、帽子、タッセルの3点セットが卒業生の正装です。ローブはアカデミックガウンと呼ばれ、購入かレンタルになります。各大学のイメージカラーで統一されています。
卒業生は上にローブを羽織るので、その下は普段着でサンダルの人もいます。
ローブは黒を使う大学が多いのですが、カリフォルニアステートユニバーシティ・ロングビーチ校のイメージカラーは黒と黄色です。ガウンは黒で学校色の黄色は袖と襟元にラインとして装飾されていました。
また、基本3点セット以外に首から下げるサッシュがあります。サッシュとは細長いスカーフのような物で、例えば青と黄色がイメージカラーの大学UCLAの場合は黒のガウンに青のサッシュをつけてUCLA色を表現します。
サッシュは学校名や卒業年度が入っているものが定番ですが、自分の所属するフラタニティー、ソロリティーという社交組織の名前入りのものも見かけます。
β、θなどのギリシャアルファベットで社交組織の名前を表し、結束力が強いグループは、卒業してからも仕事を紹介し合ったりします。お父さんと同じ社交組織に入る学生もいます。
サッシュはマストではないのですが、大学生活で自分が存在した証を表現する装飾品です。サッシュをカスタムするサイトもあり、自分の名前やHonorsなどの賞、学部名を入れることもできます。
ちなみに成績優秀者は学校からもらったロープを首から下げています。
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アメリカの大学卒業生の服装(帽子・タッセル)
映画などで卒業式の最後にかぶっていた帽子を投げるシーンがあります。
帽子を投げることであたかも学校教育から自由になった象徴のように見えるシーンですが、実は投げるのはオプションで必ず投げなくてはいけないというものではありません。
それよりもアカデミックな意味として必ずすることは、帽子についたタッセルを右から左へ移すことです。帽子を投げるよりも地味なパフォーマンスですが、タッセルが左側にあるということは学位を授与されたという証拠です。
合図とともに学生が一斉に右から左へ移し替える光景からは卒業生の誇らしい気持ちが伝わってきて感動します。
個性が尊重されるアメリカではこの帽子をカスタムメイドすることも自由です。I wined a lot but I did it! (いろいろ文句は言ったけどなんだかんだ卒業したよ!)などと卒業に対する学生なりのメッセージが書き込まれています。
お花で埋め尽くされたものや出身国の国旗があしらわれたものなど個性豊かです。まだまだポケモンGOの人気も健在なようで、カビゴンの帽子もありました!額にあたる部分はゴムになっているので、頭の大きさに関わらずワンサイズです。
アメリカの大学卒業生の服装(レイ)
これも基本3点セットではないのですが、首に色とりどりのレイをかけている学生が多いです。決まりはないのでいくつ重ねてもOKです。原色の生花のレイが目立ちますが、リボンレイやククイナッツレイなどなんでもありです。
日本ではまず見かけない現金のレイもあります。演歌歌手のリサイタルでファンのおばさまが渡すいかにも現金というレイではなく、お花や蝶々に折られたかわいいタイプです。
準備してこなかったけれど卒業生にレイを贈りたくなったという人のために、会場にお花屋さんが出ています。蘭のレイが20ドル(約2,240円)でした。街のお花屋さんと変わらない値段です。
卒業式参列者はお祭り騒ぎ
カリフォルニアステートユニバーシティ・ロングビーチ校の体育館はピラミッドと呼ばれる真っ青な三角形の建物です。会場までのシャトルバスの発着場となっているため、まずここで記念撮影をします。
ちなみにこのピラミッドはブラジリアン柔術世界大会に使用されたり、日本女子バレーボールチームがアメリカチームと遠征試合をするときなどに使用されたりする本格的な体育館です。
会場に着くと家族は参列者席に陣取ります。カリフォルニアの5月はほとんど雨が降らないので毎年会場は屋外です。
前方ではなく後方の日陰から席が埋まってゆくので不思議でしたが、前方に座っても学生席は距離が遠いので、後方から入場して来る学生がよく見えるよう考慮された布陣だったようです。
1人の卒業生に対しゲストは8名までと決まっていて、会場に入るためには学生が事前に用意した入場券が必要です。アメリカのイベント会場では必ずセキュリティチェックがありますが、今回の卒業式にはありませんでした。
参列者は着席すると各々の小道具を出します。自宅で作った名前ボードをフェンスにくくりつけたり、卒業おめでとう!とプリントされた大量の風船を家族で分担して持ちます。
入場する学生の写真を撮るためにカメラをスタンバイするのも忘れません。
式場に入る行進が始まると参列席は大騒ぎです。ブブセラのような鳴り物をブーブーと鳴らして卒業生の注意を引きます。
スポーツの試合や選挙で見かける特大の顔写真がありますが、自分の子どもの顔写真を持って走り回るお父さんもいれば、入場の花道で後方の卒業生を足止めしてまで写真撮影に勤しむ家族もいます。
おめでたい席なので嫌な顔をする人もおらず、とてもおおらかで和やかな雰囲気の中で式が進行します。
アメリカの大学は卒業式もカジュアル
式が始まってから遅刻して来る卒業生もいるくらいで、卒業生も参列者と同様日本のように厳粛な雰囲気はありません。
カリフォルニアステートユニバーシティ・ロングビーチ校は国歌斉唱もありませんでした。学長から始まって何名かがスピーチする間、立ち歩いたり携帯を使っている学生もいます。
コンサート会場のように卒業生の頭上をビーチボールが飛び交う中、卒業生が学位を授与されるため壇上に上がり名前を呼ばれます。参列者はここぞとばかりの盛り上がりで息子、娘の名前が呼ばれると大歓声を上げます。
留学生も多く他の国の名前を発音するのは難しいそうですが、アナウンサーが上手に呼んでくれます。
壇上に目を凝らすと卒業生が名前を書いた紙を手渡し自分の名前を告げていました。この方法だと名前を間違えることもなく、二人のアナウンサーが交互に名前を呼ぶので式が早く進行しとても合理的でした。
このアナウンサーがスポーツ選手の入場の時のようなかっこいい盛り上げ方をするのですが、実はピラミッドで行われるブラジリアン柔術世界大会もこのアナウンサーが選手入場の際のアナウンスを担当しているそうです。
名前の呼び方ひとつで会場を沸かせる技術はプロの仕事でした。
カリフォルニアには日本人が多く留学していますが、カリフォルニアステートユニバーシティ・ロングビーチ校では日系人も含めて日本人らしき名前はほんの数名でした。
日本人家族からは大きな歓声は上がりませんでした。式に参列する姿勢と感覚にお国柄が出ていました。
自分の学位をもらうとさっさと帰宅してしまう学生もいます。日本と違い、アメリカの学生からは卒業できた喜びがひしひしと伝わってきます。よく言われることですが、アメリカの大学は卒業するのが本当に大変です。
勉強も頑張らないといけませんし、自分の頑張りとは関係なく経済的な理由で勉強を続けられないケースもあります。だからこそ卒業はそれまでの全てが報われたという証なのです。
家族も卒業おめでとうと同じくらいI’m proud of you(あなたを自慢に思うよ)という言葉を使います。雰囲気がカジュアルだからといって卒業を当然と思っているわけではなく、それぞれの表現の仕方で卒業の喜びを噛みしめているのです。
コメンスメント・スピーチ
卒業式はグラジュエーション・セレモニーではなくコメンスメントと呼びます。
日本の卒業式の来賓スピーチはつまらなくて長いという印象がありますが、アメリカの大学のコメンスメント・スピーチは有名人が来ることが多く、面白くかつためになる話をしてくれます。
スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で有名なコメンスメント・スピーチを残しています。これから未来へ羽ばたく卒業生達に、常に妥協せずに情熱を持って自分のやりたいことを探し続けろと語っています。
今回の卒業式には有名人は来ませんでしたが、スティーブン・スピルバーグがカリフォルニアステートユニバーシティ・ロングビーチ校でコメンスメント・スピーチを行ったことがあります。
スピルバーグはこの大学で映画科を専攻しています。学校ゆかりの有名人、著名人がスピーチをすることが多いです。
卒業式に家族総出で参列
今回の卒業式で最も印象的だったのは、近くの席に座っていた南米系の家族でした。両親、おばあちゃん、親戚らしき人の団体で、着席してからも賑やかで笑顔が絶えず心から卒業式を楽しんでいる様子でした。
突然、全員でホーンの大演奏が始まったので何事かと見ると子どもが入場口にきたらしく、家族全員で手を振り息子が通り過ぎるまで歓声を送っていました。
お父さんの英語は片言で作業服のままかけつけた様子でしたが、息子が見えなくなってからも卒業生の歩く花道を見つめるお父さんの眼差しから、移民したアメリカで学位を得た息子を誇らしく思う気持ちが伝わってきました。
他の家族も本当に嬉しそうで心温まる光景でした。
まとめ
カリフォルニアのカラリとした気候と同様、湿っぽい雰囲気のないまま卒業式が終わりました。
日本の厳かな卒業式もアメリカのお祭りのような卒業式もどちらがどうと比べるものではなく、いずれにせよ学生にとっては学生生活最後の大切な行事です。
ジョブズが語ったように、この先の人生で情熱を持って取り組めることにめぐり合えるよう、卒業式という人生の節目を迎えた若者たちの未来が前途洋々であるようエールを送ります。
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