クラシック音楽、特にオペラを志す日本人の多くが、イタリアへの留学に憧れを抱いています。
しかし、留学をその後の人生にどのように活かすことができるのか、具体的にイメージがつかない人も多いのではないでしょうか。
この記事では、そんなイタリア留学を希望する若い音楽家へ向けて、私が実際に見てきた日本人音楽留学生のその後の進路を、パターン別にご紹介します。
イタリア留学後に日本帰国
私が7年間のイタリア生活の中で見てきた過半数の日本人留学生は、遅かれ早かれ日本に帰国しています。
その日本帰国組の人たちは、大きく2つのパターンに分けることができます。
エリート組
帰国組の中で一番多いのは、奨学金制度などを利用して来ているため、最初から期間がきっちりと決まっている留学生の人たちです。
日本にはあまり多くはない音楽留学のための完全付与型の奨学金を勝ち取って渡欧して来る、いわゆる「エリート組」の彼らは、留学前に日本である程度のキャリアを既に築いています。
そして1年なり2年の留学期間中に、日本での自分の地位が後輩に脅かされはしないか、という不安を抱えています。
そのため、予定していた留学期間が満了すれば、嬉々として日本へ帰っていきます。彼らにとってイタリア留学は「経歴」としての意義が大きいのでしょう。
クラシック音楽家が日本で活躍していく上で、ヨーロッパでの留学経験をプロフィールに書けるかどうかは大きな差になるようです。
私費留学組
一方、私費留学でイタリアに渡った人の中には、「なんとなく長居してしまって帰るタイミングがわからなくなった」というケースも頻繁に見受けられます。一時期の私もそうでした。
最初の数年はただただ必至でイタリアで勉強を重ねても、留学先の学校の卒業が迫ってきたとき、その後どうすればいいのかわからなくなってしまうのです。そのようなパターンの帰国組は、とりあえず日本帰国を決めたものの、その後の生活や就職活動に対して大きな不安を抱えています。
送別会などで帰国後は何をするのかと尋ねられ「何も決まっていないんです……」と暗い顔で答える人たちを、私はたくさん見てきました。
音楽家としてイタリア在留
※マントヴァ歌劇場内部
これは残念ながら、ごくごく稀なケースです。日本人はじめアジア人が、イタリアでクラシック音楽家として長期ビザが降りるような仕事に就くことは、非常に難しいのが現状です。
ごく一部のトップ・レベルの音楽家のみが、フリーランスでビザを取り、イタリアに残ることができます。
オーケストラや合唱などの固定のポストを勝ち取ることは非常に難しく、たいていの場合はEUの市民権を持たない外国人は応募することすらできません。
イタリアで外国人が自分の力だけで音楽家として生きていくためには、スター・レベルにまでのぼりつめる必要があるのです。
結婚してイタリア在留
これも非常に多いケースです。特に女性は、留学中にイタリアで結婚してそのまま在留する人が多く見受けられます。
日本人男性ではあまり見られないパターンです。 結婚して専業主婦になる人もいれば、細々と音楽活動を続ける人もいますが、本格的に音楽家としての活動を行っている人はほとんどいません。
少数派ですが、全く違う職種で就職し、家計を支える人もいます。
別の仕事をしながらイタリア在留
学生ビザでもイタリア滞在中にアルバイトをすることは可能です。飲食店など、比較的簡単に見つけることのできる仕事で生計を立て、学生ビザを延長しながら長年イタリアに留まる人も多くいます。
その間に音楽家としての活躍の場を探し、舞台をこなして経験を積みます。
最初の留学先の学校を卒業しても、違う学科に入学しなおすなどすれば学生ビザは更新できます。ただし、もちろん学費など多額の費用がかかります。
イタリアなど海外で就職
これはイタリア留学後、私が最終的に辿ったパターンです。数は多くはありませんが、他にも数名の留学仲間がイタリア近隣の海外で就職をしました。
クラシック音楽、特にオペラの本場であるイタリアで技術を磨けたことは、私にとって大きな人生の財産になっています。
ですが、経済状況が悪化の一途を辿るイタリアで、私たち外国人が音楽家として就職口を探すのは、想像以上に困難を極めます。
日本の音楽界にも何のコネもない私にとっては、近隣の経済状況の良い国に逃げるというのが最も現実的な手段でした。
そのようにして私はドイツで、ある友人はフィンランドで、それぞれ音楽家として就職しました。イタリア人の友人の中にも、ドイツや北欧で就職口を見つけた人が多くいます。
まとめ
以上が、私が見てきた音楽留学生の主な進路です。きちんとした計画なしに「なんとなく」イタリアに渡って、ただただ楽しく過ごしているうちに年月が過ぎ去ってしまい、将来設計がまるでできていないことに歳を取ってから気づき、悩む人もたくさんいます。
留学生活を満喫するのも貴重な体験になりますが、少し立ち止まって未来を見据えて、自分は今後どうすべきかを考えてみることも大切ではないでしょうか。
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